Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

hagexさんの痛ましい事件について

刺殺された岡本さん、「Hagex」の名でブログ(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

hagexさんがネット上のトラブルで殺されてしまった。「ネット炎上を題材にしたセミナー直後、ネット上のトラブルで殺害される」彼が大好物だったはずの話で彼自身が登場人物になってしまったのがあまりにもつらい。一報を聞いてから12時間以上が経ったがショックは抜けない。因果関係はわからないけれど、朝から右の耳が聞こえにくくなっている。無理もない。彼とはここ数か月、月一で酒を飲み、くだらない話をする仲だったのだから。報道によって事件の概要が判明するにつれ、彼について少々誤解されているような気がしたのと、僕宛に取材の申し込みが何件か来ていたので(体調が悪くて断った)、「彼がどういう人間でどういうネット活動をしていたのか」「事件の背景と思われるもの」について僕なりの見解を残しておきたい。

 

彼から「ビールでも飲みませんか?」というメールが届いたとき、彼のネットウォッチャー/ブロガーとしての活動はよく知っていたので、胡散臭さと、「なぜ自分なのだろう?」という疑問が頭に浮かんだのをよく覚えている。実際にお会いしてみると、彼は僕とほぼ同年代の人当たりのいいオッサンだった。胡散臭い謎の有名ネットウォッチャーは普通の人だったのだ。彼は「hagexとして表に出て面白いことをやりたい。取っ掛かりとして会いたいと思っていたブロガーに会うことにしました」と言っていた。それで最初に声を掛けたのが僕というわけだ。 

f:id:Delete_All:20180625173245p:plain

▲二人で生ビールを16杯飲んだ。

酒をがぶがぶ飲み、盛り上がった僕らは、はてなブログを運営している株式会社はてなに物申しに行こうという話になった。その飲み会と、飲み会の副産物であるはてなでのミーティングにおいて、彼について印象に残っているのは、非常に丁寧に、慎重に、仕事を進める人だということ。情報やネタの取り扱い。裏の取れないネタの捨てっぷり(オフレコが多い。面白いが公に出来ないのが残念でならない)。これを掲載したら相手方の法務から名誉棄損で訴えられるか否か。ギリギリをエグる彼のやり方は、しっかりとしたベースがあってこそなのだ。

 

ネットバトルも熟知していて、結果的に彼を刺してしまうことになる犯人いわゆる低脳先生の取り扱いについても株式会社はてなサイドとうまく対応しているように、そういった方面に疎い僕には見えた。処理済だと。実のところ、彼は僕と同レベルの普通の危機意識しかなかったのかもしれない。結果論になってしまうが、匿名とはいえ表に出るのならば、犯人に対して、もう数段上の危機意識があってもよかった。それでも凶行は止められたかは疑わしいけれど。

 

彼は僕に「ネットで絡まれるのには慣れている」と言っていたが、彼のいうネット上の絡みは、ネット上の誹謗中傷や訴訟などの法的な手段であって、凶器を使ったバイオレンスは想定してなかったと思われる(さもなければ無防備すぎるイベントはやらない)。それを油断というのはいささか酷というものだろう。この事件の犯人のように怒りの沸点が低かったり、恨みの基準が平均的な人間と異なる人物の行動を予想するのはひどく難しいからだ。彼は普通の感覚をもったナイスガイだった。普通の感覚をもつ人間が今回の犯人の行動は予測できない。どんなに強力な楯でも後ろからの攻撃に対しては無力なのだ。ただ、ネットウォッチャーの彼ならもっと出来たのではという思いはある。

 

有名ブロガーだから狙われたわけではない。私怨の対象が有名ブロガーだったのだ。彼や僕のように相応の人に読まれているブロガーは私怨の対象になる可能性が高いだけで、可能性はブログやSNSを利用しているかぎりゼロではないのだ。今回の事件は他人事ではない、それは忘れないでほしい。もしかしたらhagexさんとくねくねしている僕などはターゲットになったかもしれないのだ。

 

また、「事件の当事者二人は知らないもの同士だった」という報道を見かけたけれど、それは間違いだ。犯人/加害者はhagexさんのことをよく知っていた。顔見知りの怨恨沙汰ではなく、(自分勝手な)理由と目的を果たすために直接知らない相手をキズつける。これは特定の対象を狙ったテロそのものだと僕は思う。標的とされてしまった相手からはテロリストがわからない。わからなければ避けようがない。表に出てしまった時点で避けられなかったのではないだろうか。それをリスクと言ってしまえばそれまでだけど代償が大きすぎる。

 

匿名で活動していると、自分のリアルな肉体を忘れてしまいがちだ。ネット人格といわれるようにネットだけで完結してしまうからだ。だが、ひとたび表に出てしまえば、匿名だから危機を回避できる、というリスクマネジメントは成立しない。犯人は匿名かつネット上の存在であるhagexさんを抹殺するために名前もしらない人間のリアルな命を奪い、その一方で、hagexさんは誰に、なぜ、刺されたのか、刺されなければならないのか、わからなかったのではないだろうか。匿名とリアルが最悪なかたちで交差してしまったとしかいえない。

 

犯人は「自分の責任を果たす」といって出頭したらしい。報道で知った。ふざけている。出頭して捕まったくらいで何の責任を果たすというのだ?42才の大馬鹿者。これは僕の想像でしかないが、犯人は、これまで他人に責任を押し付けて生きてきたような身勝手な人間なのではないか。文字通りの低能だ。こんな人間に殺されてしまった彼が不憫でならないし、悔しい。

 

hagexさんとは近いうちにトークイベントをやろうという話になっていた。面白いことをやってギャルの注目を浴びようモテようとジョッキを傾けたあの居酒屋での時間が懐かしい。全部なくなってしまった。イベントも。ギャルモテも。残念でならないけれど、僕の残念な気持ちなどhagexさんの無念に比べればクソみたいなものだろうし、遺した家族や猫を想うと胸が張り裂けてしまいそうだ。本当に悲しい。悔しくて涙も出てこない。こんな理不尽な暴力、テロに負けないためには、対策を考えながら、一歩一歩日常を続けるしかない。でも、僕のスマホに残っている二人で株式会社はてなで撮ったアホな写真、どうすればいいのよ…。きっつ…。少し休んだら、僕はまたブログでおバカなことを書きはじめるつもりだ。それがブロガー・フミコフミオに出来る唯一の供養だと僕は信じている。あらためてhagex氏のご冥福をお祈りいたします。(所要時間72分)