なにかの説明をしなければならないとき、それをわかりやすく伝えられる人と、わかりにくくなってしまう人がいるものです。では、どうすれば、わかりやすく説明できるのでしょうか? この問いに対して、『一番伝わる説明の順番』(田中耕比古著、フォレスト出版)の著者はこう述べています。

そのカギは、「説明はコミュニケーション(情報伝達)である」ということを理解することにあります。(中略)相手がしっかり理解しているか、話の流れについてきているか、などといった相手の状況を把握し、それに合わせて話し方を変えるのが、伝わる説明のコツなのです。 (「はじめに」より)

そして著者によれば、説明力を劇的に上げる方法が「説明の順番」を意識すること。説明したり、話したりするときに、話す順番を変えるだけで伝わり方が大きく変化するというのです。

難しいことをわかりやすく説明するだけで、仕事や日常における、結果・印象・評価は劇的に変わるもの。そして、その際には「伝える順番」が意味を持つという考え方です。そこで、第2章「わかりやすい説明の順番」を確認してみましょう。

説明の順番その1. 前提をそろえる

伝え方や話し方、プレゼンテーションのやり方などについて、「結論から話しなさい」と言われることがよくあります。しかし、わかりやすい説明をするためには、結論を述べるよりも先にすべきは「結論をそろえること」だと著者はいいます。

ポイントは、これから話す内容について、相手がどの程度の知識を持っているかということ。たとえば、いつも近くにいる同僚や上司に日常的な業務の説明をするなら、「なんの話をどれくらいのレベルでするか」を考える必要はありません。

しかし、相手が十数年ぶりに会った友人などであった場合、共有できている情報が少ないので、同僚や上司に話すように説明してもうまく伝わらないわけです。だから、まずは「前提」を相手と共有する必要があるということ。

そして、相手の知らないことを伝えるときや、過去に話したことを相手がおぼえていなさそうな場合は、結論や主張よりも前に前提情報の共有を行うべき。たとえば自分の顧客に関する話を新任の上司に伝えるときや、多忙な上司に1カ月ぶりに作業の進捗状況を報告するというようなときには、過去の経緯や取引履歴を簡単に話し、相手と自分の知識レベルをそろえておくべきだということです。

しかし、説明のレベルを相手に合わせていないと内容は理解されにくいもの。そこで著者は、専門外の人に抜けた説明においては「小中学生に説明するくらいのつもりで話す」ことを勧めているのだそうです。もちろん「口調を子ども向けにしよう」ということではなく、相手が理解していない分野についてわかりやすく伝えるためのレベル設定の話。

どれだけ年の離れた上司であっても、知らない分野のことについては、年齢や頭の良さに関係なく、小学生や中学生と同じように「わからない」ことなのです。(58ページより)

その前提に立って説明すれば、伝わりやすくなるということです。(53ページより)

説明の順番その2. 結論・主張・本質

結論とは、伝えたいこと、説明したいことをまずひとことで伝達すること。話の前提がそろっている場合はここからスタートし、説明するべき結論や自分の主張をズバリ伝えるというわけです。ただしこのやり方は、これから説明しようとする内容について、相手が大まかに全体像を把握している場合に限られるもの。

「X社への提案は、失敗に終わりました」 という場合には、X社に対してどういう提案をしていたのかという経緯を、理解していない人には伝わりにくいでしょう。あるいは、 「新商品には、機能Zが搭載されました」 と言う場合には、相手が旧商品の昨日の概要を理解していることに加え、追加された機能Zが、当該商品にとって「価値がある」と認識している必要があります。 そうでない場合は、前提知識をきちんと共有してから、「結論」を述べる、という順番になっていきます。(62ページより)

そして結論や本質を伝えることができたら、次は「本質」。これは、「その事象をうまく表したひとこと」。言い換えれば、自分の考える「解釈」だということです。

「要するに○○」

「つまり○○」

「一言で言うと○○」

「端的に言えば○○」

「シンプルに言えば○○」

「すなわち○○」

(64ページより)

というように、一言に要約した言葉で表すこと。なにかを主張するわけではなく、事実だけを伝える場合には、このパターンで説明していくことが多いわけです。(62ページより)

説明の順番その3. 根拠・理由・事実

前提をそろえ、結論や主張をまず伝えることができたら、次に伝えるべきはその根拠や理由、事実。根拠や理由を伝えるときのポイントは次の3つだそうです。

・これから理由を伝えることを示す

・理由をできれば3つに絞る

・理由や根拠は客観的事実で構築する

(67ページより)

自分の主張や結論がある場合、「これから理由を伝えます」ということをしっかり伝達することが大切。たとえば次のような具合に。

「今回の企画開発についてお話しさせていただきます。この企画を実行することで、今季の売上げ目標を達成できます。その理由は3つあります。それはーー」 (68ページより)

このように、主張や結論で伝えたことの根拠を説明していくということ。そして、根拠や理由を3つにするべき。根拠が1つだけでは結論に対する理由として弱すぎ、逆に3つを超えると説明が長くなりすぎ、聞いてもらいにくくなるから。

なお結論・主張・本質(解釈)は、客観的事実に基づいて組み立てられていなければロジックが成立せず、腑に落ちない説明になってしまうもの。客観的事実とは、いちばんわかりやすいのが数字、データの違い。なにを説明するかにもよりますが、仕事に関するものであれば、自社の売上げデータ、市場シェアの調査結果などがその代表だといいます。

もちろんすべてを客観データで調べ尽くすのは大変ですが、重要な内容であればあるほど、極力、一次情報に当たっていくことが必要。結論や主張、ロジックを強くするのは、どれだけ事実を調べられるかにかかっているから。(67ページより)

説明の順番その4. 補足情報

前提をそろえ、結論、根拠という順番で伝えたら、残りは補足情報。経緯や根拠にいたった背景、伝えなくても大きな問題がない話などがこれにあたるそうです。

たとえば、

「傘を持っていくことにした。理由は雨が降る可能性があったから。

ここまでが結論と根拠。補足情報としては、

「天気予報を朝見たことを思い出した」

などがそれにあたるわけです。(72ページより)

説明の順番その5. 結論・相手に促したいアクション

そして最後にもう一度、結論や主張を伝えることも大切。なぜなら結論以降の根拠や補足情報の説明が長くなればなるほど、聞いている側は「結局、どういうことだったっけ?」と話の出口を見失いがちだから。そこで、

「ここまで述べて来た理由から、今回の新規事業に参入する必要があります」

という具合に、最初の説明に帰結。そうすることで、自分の伝えた説明が完結するわけです。(76ページより)




どうでもいいことのように思えても、たしかに説明の順番が変われば、受ける印象も大きく変わるものです。そこで本書を参考に、「順番」を意識したコミュニケーションを実践してみてはいかがでしょうか?


Photo: 印南敦史