上り調子の「求⼈倍率」を背景に、転職市場が盛り上がりを見せています。ビジネスパーソンにとっては、まさに「踏み出すタイミング」ともいえる現在。「自分のキャリアを見直す=リキャリア」には格好の時期でしょう。

先日は、リクルートホールディングスで30年近くにわたって転職市場を見つめた、現在は転職サイト『リクナビNEXT』や、ウェブメディア『リクナビNEXTジャーナル』でも編集長を務める藤井薫さんにインタビューしました。「昨今の転職市場の傾向」や「スムーズな転職活動のためにやっておくべきこと」などを教わった記事はこちらより。

続く今回は、より具体的に転職を検討する際に、転職者が始めるべきファーストステップについての考え方や歩み方を聞いてきました。教えてくれたのは、共にリクルートキャリアでキャリアエージェントを務め、募集企業と志望者をつなげてきたお二人。マーケティング職に明るい鈴木商乃さんエンジニアに強いつながりを持つ竹内早紀さんです。

現場の目線から切り取った、「転職志望者に足りないもの」や「転職エージェントやキャリアアドバイザーとの上手な付き合い方」などをまとめていきます。

<目次>

  1. 良い転職は、条件だけでは成り立たない
  2. 企業には求人ページからは見えない「その企業ならではの人材要件」がある
  3. 年齢は40代に拡大。変わりゆく転職業界で注視されるスキルとは?
  4. 市場価値はどう見積もる? うまくやりたい「年収交渉」のために

良い転職は、条件だけでは成り立たない

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Image: Lucian Milasan/Shutterstock.com

転職者に対してキャリアアドバイザーが行うこととして、お二人が共通して挙げるのは2点のヒアリングでした。

  1. 転職の理由や現在のモヤモヤを掘り下げ、自覚させる
  2. 「自分は何がしたいのか」を明確にしていく

経験上、特にウェブ業界で顕著だといいますが、待遇面での不満が多い業界からの転職者ほど「自分が何をしたいか、何に価値を置いているのか」については、クリアになっていないことが多いといいます。

竹内:まずは過去を丁寧に紐解きながら、「どういうことを楽しいと思ったのか」「どういったことは関心がないのか」と、対話をしながら発見していきます。転職のきっかけとして最近多いと感じるのは、身近な人の転職ストーリーを聞いて、ですね(笑)。ただ、それだけでは良い転職は難しいですから、まずは自分自身の深掘りが大切なんです。

企業には求人ページからは見えない「その企業ならではの人材要件」がある

鈴木:対話しながら、個々人の強みについても整理し、発見していきます。実は、強みを自分自身で判断することは案外難しいものです。たとえば、マーケティング職であれば、プレイヤーとの関係構築のプロセスから伺い、具体的な役割分担や社内外に対しての働きかけなどを伺いますね。単純なスキルとも異なりますが、新しい職場へスムーズに移行できるかに関わる部分でもありますから。

お二人のようなキャリアアドバイザーや転職エージェントは、常に多くの取引先からの求人情報や戦略事情を仕入れているからこそ、新天地でのマッチングを考えやすいのだといいます。さらに、過去の転職者も把握しているため、鈴木さんのいうような「移行イメージ」が浮かびやすい選択肢が用意しやすいケースもあるとのこと。

さらに、ウェブサイトを始めとした求人ページには表れにくい、「その企業にとっての人材要件」も存在するといいます。たとえば、サッカーでいえば「右サイドバック」のポジションが欲しい場合、応募は「右サイドバック」であっても、「規律性が高くラインの上げ下げが任せられる人」なのか、「前線まで攻め上がれる果敢なプレイヤー」なのかは、チームが必要としている状態によって異なります。このように企業ごとに本当に必要としているポジションが異なることを理解した上で、それらの情報を持つ転職エージェントに相談するのは、賢い活用法のひとつといえるでしょう。

年齢は40代に拡大。変わりゆく転職業界で注視されるスキルとは?

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Image: aurielaki/Shutterstock.com

企業からの数々の求人に触れ続けるお二人によれば、ここ最近の転職市場で起きた顕著な変化は「年齢要件」だそう。一昔前は35歳がひとつの壁でしたが、現在は45歳まで拡大。40代の即戦力を求めている企業も多く、ワーキングマザーの転職も増えているといいます。

労働人口の減少もあり、従来の要件では採用につながらないことが増えていることがその背景にあります。いわゆる「年下上司」が一般的になり、上下関係における年齢差の意識が薄れるにつれ、持っているスキルのほうがより重視されるようになっているのです。

スキルを活用した例を挙げると、新聞記者からキャリアアドバイザーになり、企業内で表彰されるほど活躍している人材がいるそう。この2つの職種の共通性は、想像には難くないことでしょう。

竹内:年齢が上がるごとに即戦力を期待され、これまで培ってきた「強み」の明確化がより求められます。エンジニアであれば、どういった言語で、どの程度の規模感の開発をしてきたかなどがポイントになることが多いです。しかし、ここで大切なのは、私たちが「ポータブルスキル」と呼ぶ、その人に備わっている技術だけでなはない資質のようなものです。その人ごとの「強み」や「持ち味」とも言い換えられます。

鈴木:プロジェクトマネジメント、ファシリテーション、企画力といった「ビジネススキル」、特定分野への知識やリレーション、業界構造や慣習の把握などといった「フィールドナレッジ」も重要です。むしろ、転職可能性が眠っているのは、職種から得られるスキルだけではなく、こういったポータブルスキルであることも多いのです。

竹内:最近は業務内だけでなく、業務外での活動も注視の対象になっています。エンジニアの例では、仕事に加えて、自ら技術発信のブログを書いているような人が高評価を得るケースがあります。企業は課外活動に積極性や探究心を見ているわけです。この点は転職の評価に当たらないと隠している方も多いのですが、むしろそういったことを職務経歴書に書いていただいたほうがよいくらいですね。

職種から得られるスキルだけが転職の加点ではないことは、以前に『リクナビNEXT』編集長の藤井薫さんに聞いた「職種の垣根が溶けている=メルト化する職種」の時代にあっても大切だと伺ったばかり。ブログやSNS発信などの個人的探求も「強み」に変わる、大切な種になりうるわけです。

市場価値はどう見積もる? うまくやりたい「年収交渉」のために

職種がメルト化し、異業種転職が珍しくなくなった際に、いかに転職者は自らの市場価値を見積もればよいのでしょうか。誰もが悩ましい「年収の交渉」にも関わってくる問題です。

竹内:年収交渉はある程度の根拠が必要になりますので、基本的には難しいものです。ただ、この職種の、このスキルを持つ人なら…といったように、条件面で転職市場の相場から算出できる金額があるので、それをベースに考えることはできます。また、転職中に他の企業で内定が出ていれば、それを根拠にすることもありえます。

最近では年収をあらかじめ提示した上でスカウトするサービスも登場していますが、転職エージェントを利用するという目的に、この「市場価値を知る」という点も含まれてくるといいます。

そして、「人材の希少性」を知るには、ある程度の求職状況や市場相場を知っているほうが、判断材料が多いため有利といえます。この点は、転職市場に特化して見ている「転職のプロ」が得意とする分野です。

「人材の希少性」が転職につながるケースは枚挙にいとまがないそう。たとえば、印刷業界で高い塗布技術を持っているエンジニアが半導体企業に移籍したのは、まさに持っている技術を横展開できる場を知ったからです。

鈴木:パラレルキャリアの試みは面白いものです。さまざまなキャリアを得てから、私たちのようなキャリアアドバイザーで人間ドックならぬ「キャリアドック」をかけて、自らの状態を把握すると新たな可能性が拓けるかもしれません。オポチュニティ(機会)やオプション(選択肢)を知っておくほど、戦略はつくりやすくなります。

竹内:むしろ転職者側が自分を縛っているケースはよくあります。「自分は◎◎だから」と必ずおっしゃいますね。「来年、何歳だから」とか。そこで「認知の壁」が立ち上がってしまうのです。先ほども話したように年齢要件も変わり、強みを軸にした転職の道はさまざまあります。

一口に転職といえど、そこには仕事場を変えること以上に、あなた自身の「生き方」そのものが色濃く表れてくる。リキャリアの道は、自分を知ることから始まるのです。転職サイトを眺めるよりも、先に。

Image: amasterphotographer/Lucian Milasan/aurielaki/Shutterstock.com

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鈴木商乃

エージェント事業本部 第一エージェントサービス統括部 カスタマーサービスG事業会社で営業・人事・マーケティング等を経験した後、2004年リクルートキャリアに入社。キャリアアドバイザー歴13年。一貫して事務系領域(セールス、管理本部スタッフ、マーケティング)の転職支援を担当。2012年からは業界を問わずマーケティング職の専従。お一人おひとりの「過去」をご経験のみならず価値観も含めてともに整理。現在のご自身を理解したうえで、未来に向けてのキャリア構築を一緒に考えていくスタンス。過去約1,000名の転職実現を支援。


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竹内早紀

エージェント事業本部 第一エージェントサービス統括部 カスタマーサービスG新卒でWeb広告の営業を経験後、2006年3月にリクルートキャリアへ入社。法人営業として、IT/Web業界を担当後、2010年10月よりキャリアアドバイザーとして2,000名を超える転職希望者と面談。IT/Web領域を中心に、エンジニア、マーケッター、クリエイター、セールスなど、幅広い職種における転職を支援。「ひとりひとりの働く個人が、いきいきと毎日楽しく働ける社会を創りたい」との想いをもち、求人案件ありきではなく個人の方のご希望をじっくりと伺った上で「かけがえのない持ち味」を反映したキャリア構築支援に強みをもつ。