Uberの「生まれ変わり」の兆しを、ロンドンでの営業許可をめぐる審問に見た

英裁判所が2018年6月26日(現地時間)、配車サーヴィス大手のUberに対してロンドン市内での営業免許の交付を認める判断を下した。その期間は15カ月と短いが、Uberが「生まれ変わり」を法廷でアピールしていたことが奏功したようだ。不作法なシリコンヴァレーのスタートアップからグローバル企業へ──。新体制下での変化に向けた取り組みが、法廷での振る舞いからも見えてきた。
Uberの「生まれ変わり」の兆しを、ロンドンでの営業許可をめぐる審問に見た
ロンドンにおけるUberの営業をめぐっては、過去にタクシー運転手による大規模なデモも起きた。PHOTO: REUTERS/AFLO

Uberの最重要市場のひとつ、ロンドン。このマーケットでの同社の未来を占う審理が、6月25日に始まった。

ことの始まりは、ロンドン交通局が2017年9月以降のUberの営業免許更新を拒否したことだ。ドライヴァーの身元調査や犯罪報告に関して安全上の懸念があるというのがその理由だった。

法廷に出たUberは銃を乱射しながら対抗するのではなく、和解を図ろうとしていた。自分たちが間違いを犯したことを認め、営業を停止したロンドン交通局の対応は正解だったと認めたのだ。

「対応が正しかったと認めることが、われわれのビジネスのあり方の大規模な変革につながったのです」と、Uberの弁護士であるトム・デ・ラ・メアは語った。言い変えると「われわれは変わったので、もう一度チャンスがほしい」だ。

過去18カ月はトラブルばかりのUber

ここ最近のUberは、さまざまな問題を起こしている。同社が生んだ配車サーヴィスは、確かに都市での移動の仕方を変えた。しかし、「Move fast and break things(素早く行動し、そして破壊せよ)」というアプローチは、そう長くもたない。

過去18カ月で、まずUberはセクシャルハラスメントで訴えられた。また、同社がトランプの渡航禁止令に対する抗議運動を利用して金儲けしようとしているように受け取られたことをきっかけに「#DeleteUber」(#Uberを削除しろ)キャンペーンが始まった。企業文化全般にも問題が見受けられる。

さらに、Uberは世界各地の都市から反発を受けている。労働法やタクシー規制、安全基準などを同社が無視しているように見えることに、当局や地元に定着した運送業者が不満を募らせたのだ。

しかし法廷でのUberの態度からは、トラヴィス・カラニックの後任となった最高経営責任者(CEO)であるダラ・コスロシャヒが率いる新生Uberの姿が垣間見えた。

65カ国・600都市で1日1,500万回利用されている同社のビジネスを、コスロシャヒは慎重に舵取りしているように感じられる。しかし、ほかの主要都市がロンドンに続いた場合、これらの数字も落ちる可能性がある。

生まれ変わりを証明するチャンスに

ウェストミンスター治安判事裁判所の裁判官たちは、2017年のロンドン交通局の判断が正しかったかではなく、Uberがロンドンでの営業免許を保有する「適格者かどうか」を判断する。このため、Uberにとっては真に生まれ変わったことを証明するチャンスなのだ。

Uberは直近の懸案事項への対応だけでなく、今後ロンドンのよりよいパートナーとしてやっていけることを示す必要がある。それを示すために発行されるのが通常の5年より短い営業免許でも、同社は満足だという(とはいえ同社は現在まで暫定的に営業を許可されている)。

ロンドン交通局の主な訴えは、利用客の安全とセキュリティだった。そのひとつは、ドライヴァーの選定方法である。

同局いわく、Uberは身元調査を適切に行っておらず、ドライヴァーから乗客への犯罪が報告されていなかったという。この懸案は21ページにわたって述べられた。この懸念点への対応として、同社は24時間年中無休の電話サポートと、警察に対する重大事件の積極的な報告を始めたという。

不作法なスタートアップからグローバル企業へ

この闘いで、Uberにはロンドン市民という味方がいる。自家用車を所有している人が少ないロンドン市民は、2012年の営業開始とともにすぐ同社のサーヴィスを活用するようになった。ロンドン交通局の判断のあとで、Uberを守る請願書に署名したのは60万人。彼らはこの裁判を期待を込めて見守ってきた。

Uberの懐柔的なアプローチは、同社が不作法なシリコンヴァレーのスタートアップからグローバル企業へと変化している兆しだ。彼らが新たに見せた法律や規制を尊重する姿勢は、同社の未来を握るほかのビジネスでもよい方向に作用するだろう。そう、自律走行車である。

UberはWaymoのような企業に先を越されないよう、自社の自律走行車を道路に放った。しかし、3月にアリゾナ州で自転車を押していた歩行者を死亡させたあとで、すべてのテストを停止している。警察の調べによると、乗っていた監視役の運転手はスマートフォンでテレビを観ていたという。

Uberは十分なシミュレーションを行わないままクルマにソフトウェアを載せたり、コスト削減のためにテスト時の同乗者を2人ではなく1人に減らしたりといった手抜きで非難を受けている。

車両管理局がパフォーマンスや事故報告に関して厳しいルールを設けているカリフォルニア州などで自律走行車を走らせるには、Uberはもっとゆっくり走り、ものを壊さないようにしなければならない。今回の審理はUberにとって、それができることを証明する機会なのだ。

[編註:原文は審理が始まった6月25日(米国時間)に公開された]


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TEXT BY JACK STEWART

TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE