LINEのAIアシスタント「Clova」は、まだAmazonやGoogleに負けていない

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  • author 山本勇磨
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LINEのAIアシスタント「Clova」は、まだAmazonやGoogleに負けていない
Photo: ギズモード・ジャパン

「キャラ化」という日本独自の路線がどこまで売れるか?

6月28日、LINEは年に1度のプレス向けイベント、LINE CONFERENCEを開催。ギズモードでも記事をアップしたとおり、LINEの足腰となるビジョンや、新しいサービスが紹介された場となりました。

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今年は、Clovaの1年の成長を振り返り

カンファレンスは各部門の担当が入れ替わりでプレゼンをしていく形で進められました。合計で4時間を超える異例の長丁場。あいだに休憩をはさむ昔の映画のようなスタイルをとりながらも、そのなかで多くの時間を割いたのが「Clova(クローバ)」の話でした。

ClovaはLINEが開発しているAIアシスタント。1年前のLINE CONFERENCEでは、そんなClovaの“カラダ”となるAIスピーカー「LINE WAVE(のちのClova WAVE)」や「LINE CHAMP(のちのClova Friends)」が正式にお披露目されました。夏には日本初のスマートスピーカーとしてWAVEの先行版が発売されました。

いっぽう今年のClovaの話題の大部分をしめたのは、「Clova WAVE」や「Clova Friends」といったカラダの話ではなく、AI自身、Clova自身の話。もちろんハードウェア好きのギズモードとしては、新しいスマートディスプレイの「Clova Desk」も外せないところですが…、世間に出回ってから約1年のClovaが、アシスタントとしての成長が見られたプレゼンでした。

私も先行体験版のWAVEを持っていたのですが、Google Home Miniを買った機に売ってしまったんですよね。でも、もう一度WAVEを買いなおそうか。まだまだClovaは、GoogleやAmazonの音声アシスタントに打倒されずやっていける、そんなことを感じた発表内容だったのです。

Clovaのベース性能が底上げ

「クローバ」の声で起動するLINEのスマートスピーカーですが、このウェイクワードの聞き取り精度と、質問に対して答えを返すスピードが改善されていることは、Clovaにとって大きな進化です。

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Image: LINE LIVE
質問に対してClovaが返答するスピードが、10月の発売から1.4秒ほど早くなった

ユーザーからの質問を記録してデータ学習が進んでゆく。これはLINEだけでなく、どこのメーカーもやっている当たり前の「スマートスピーカーの育て方」なのは皆さんご存知のとおり。しかし、発売当初のClovaは、まだ学習が足りず厳しい状態でした。

たとえば「クローバ」といっても反応が遅い、あるいは反応してくれない、といったこと。カンファンレンスでも「ユーザーからいろいろな指摘があった」との話もありました。

Clova WAVEが発売された2017年といえば、Amazonの「Echo」、Googleの「Google Home」といった、すでに海外で人気のスマートスピーカーの日本語版が発売された年なんですね。私はClovaと近いタイミングで発売されたGoogle HomeとClova WAVEを比較してしまい、結局手放すことになったのですが、この数字を見ると着実に学習していることに安堵します。

やっとスタートラインに立った

良くも悪くもLINEのスマートスピーカーができることはシンプルでした。天気、ニュース、カレンダー、ラジオ、赤外線リモコン、などなど。ところが今回、ここに他社製のアプリケーション(スキル)が加わります。これはClovaの反応速度があがることよりも重要な話でしょう。

というのも、すでにライバル機のAmazon EchoやGoogle Homeは、他社製のスキルの環境を、開発キットとして配布しています。純正のスキルしか使えないスマートスピーカーは、App Storeがなかった頃のiPhoneみたいなものをイメージしていただければいいかと。

7月中に公開される「Clova Extensions Kit」は、1年前に完敗したEchoやGoogle Homeに足並みを揃えます。ここからがスタートと言ってもいんじゃないでしょうか。

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Image: LINE
すでにパートナーとなってスキルを開発している企業

キャラクター化という独自路線

とは言っても、ここまでの話はすべてEchoやGoogle Homeでは当たり前となっているのが正直なところです。じゃあ、Clovaにしかない良さってなんでしょう?

それが、Clovaにキャラクターの側面を持たせていくという方針。Clovaにしかない独自の展望で、とても興味深い取り組みです。

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Image: LINE LIVE
HDTSの全体像。Clovaの標準の声に、「DNN TTS(Deep Neural Network・Text to speech)」の音声を10%だけ加えることで、自由なキャラクターの音声アシスタントが開発できる

今年のプレゼンでは、Clovaの声にバリエーションを生み出す「HDTS(Hybrid DNN TTS)」という技術を発表。これは、キャラクターの声データをClovaに加えてやることで、Clovaのベースボイスの「ある種、声色を変える(プレゼンの発言より)」技術。

↑HDTSを使って作成したデモ。すでにかなりのクオリティ

開発段階のため、まだ自分のClovaの声を変えることできないのですが、HDTSの可能性はデモだけでも伝わるかと思います。

たとえば、ソフトバンクのペッパーや、シャープのロボホンなどを想像してもらえるとわかりやすいかもしれません。ああいった愛着を抱く余地のあるアシスタントがどんどん生まれることは、ひとつ音声アシスタントのタームポイントになるんじゃないかと感じるわけです。

もちろん、話すスピードやトーン、口調のこまかな調整もキャラクターを作るうえでは大切だと思うのですが、それは今後に期待するとして、それよりもむしろ大切なのは“カラダ”=スピーカーの形です。声を変えられても、その姿までは変えられない。だからこそClova Friendsのように、スピーカー自体のバリエーションもこれからどんどん広げていくLINEの展望も納得ができるのです。

日本らしい音声アシスタントが少しずつ見えてきた

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Photo: ギズモード・ジャパン

キャラクター推し、これは一歩間違うと子供だましのようなチープなものに見える怖さがあり、現行のブラウンやサリー、その他キャラクターの可愛いスマートスピーカーを見て思うところがあるかもしれません。私もそう思います。

でも、日本人はとても「キャラクター」を大切にする文化が根付いていると私は思っています。今でいうと、バーチャルYouTuberの文化はまさにそれが引き金になったでしょう。つまり日本では、完璧に自然に話すAIよりも、キャラをもったAIがたくさん溢れかえるほうが、むしろ重要ではないかと思うわけです。今はカラダだけキャラクターだから、ただの飾りに終わっているだけかもしれません。

世界の名だたるテック企業は、ほんとうの執事のようにアシストしてくれるAIを目指しています。そういった、みんなが同じ方向を向いているなかで、斜めから捉えた日本的なアプローチは、AIアシスタントのあたらしい方向性だと感じさせてくれました。

LINEいわく、Clovaのスマートスピーカーを買うのは、成人男性よりも女性だったり、若い人が目立つよう。まさに「LINEらしいユーザー」に買ってもらっているみたいですが、もっと広く「日本らしい」スマートスピーカーの生き残り方をClovaに期待したいです。いや、期待させてください。


Photo: ギズモード・ジャパン
Image: LINE LIVE, LINE
Source: LINE LIVE, LINE

(山本勇磨)