メモ

何がサッカー代表チームを強くするのか?

by Rémi Jacquaint

2018年6月14日から開催されている2018 FIFAワールドカップでは、グループリーグで優勝候補の一角であったドイツが敗退し、決勝トーナメント1回戦でもスペインやアルゼンチン、ポルトガルといった強豪国が次々と敗れる波乱の連続が起きています。ワールドカップを見ているとふと考えてしまう「何が国を代表するサッカーナショナルチームを強くするのか?」について、経済紙のThe Economistが統計データなどを用いて分析しています。

What makes a country good at football? - The World Cup
https://www.economist.com/international/2018/06/09/what-makes-a-country-good-at-football

ある土曜日の晴れた午後、サッカーのウルグアイ代表チームが本拠地とするエスタディオ・センテナリオからすぐの場所で、7~14歳の子どもたちは両親に応援されながら「Baby Football」と呼ばれる全国プロジェクトに参加しています。Baby Footballは毎週行われるサッカートレーニングプログラムのひとつで、このプロジェクトの卒業生には世界で活躍するルイス・スアレス選手やエディソン・カバーニ選手がいます。

The amazing secret of 'Baby Football' - YouTube


2017年6月14日からロシアで開催されている2018 FIFAワールドカップでは、開催国のロシアと同組のグループAに所属し、3戦全勝で首位突破を決め、決勝トーナメント1回戦ではクリスティアーノ・ロナウド選手率いるポルトガル代表を2対1で下し、ベスト8進出を決めたばかりのウルグアイ代表。ワールドカップ第1回大会の覇者でもあるウルグアイ代表ですが、人口はわずか344万人とドイツ・ベルリンの人口よりも少なく、日本の都道府県で10番目に人口の多い静岡県(370万人)よりもわずかに少ないくらいです。それでもワールドカップでウルグアイよりも多く優勝したことのある国は、ブラジル・ドイツ・イタリアの3カ国しかありません。ウルグアイ代表がワールドカップで優勝したのは第1回大会の1930年と1950年までさかのぼりますが、それでも2010年にはワールドカップでベスト4まで進出し、2011年の南米ナンバーワンを決めるコパ・アメリカでは優勝を飾っています。

by Fauzan Saari

人口わずか340万人の小国・ウルグアイがサッカー界で大きな成功を収めているのに対して、人口が多く経済的にも豊かな大国はどのような成績を収めているのでしょうか。2050年までに国をサッカー超大国にするべく大金を投入しているのが中国であり、これを主導しているのは習近平国家主席です。しかし、過去数年にわたって中国が国策として取り組んでいるサッカーの強化が想定通りに進んでいるとはお世辞にもいえません。

また、アラブ首長国連邦やカタールといったオイルマネーを潤沢に抱える国々は、ヨーロッパの強豪クラブを買収するために数十億ドルもの資金を投入しています。例えば、イングランド・プレミアリーグに所属するマンチェスター・シティは2008年にアラブ首長国連邦の王族であるシェイク・マンスール・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン氏の投資会社に2億ポンド(当時のレートで約400億円)で買収されており、フランスのリーグ・アンに所属するパリ・サンジェルマンは2011年にカタール投資庁が株式の70%を取得したことでカタールの大富豪ナーセル・アル=ヘライフィー氏がオーナーに就任しています。強豪チームの買収によりサッカーに関するさまざまなノウハウを自国のサッカー文化に還元しようとしていることは明らかですが、アラブ首長国連邦とカタールは両国とも2018年のワールドカップで本戦に出場することはできませんでした。

また、サウジアラビアはスペインサッカー連盟とのパートナーシップの一環として一挙に9人ものサウジアラビア出身選手をスペインリーグに移籍させることで自国のサッカー強化を図っていますが、出場した2018年ワールドカップでは1勝2敗でグループリーグ敗退という成績に終わっています。

by Dan Gold

イギリスの経済紙The Economistは、「何が国を代表するサッカーナショナルチームを強くするのか?」を調べるための統計モデルを独自に構築しました。統計モデルを作成した理由は「ロシアワールドカップの優勝国を予想するため」ではなく、「サッカーナショナルチームの可能性を決める基礎となる、スポーツ的・経済的要因を発見するため」です。つまり、一部の国がダークホースとして躍進を遂げたり、急速な改善をみせる理由をデータで解明するために、統計モデルを作成したというわけ。The Economistは1990年以降に行われた国際試合の結果をすべて分析し、どういった変数がナショナルチームの成績に影響をおよぼしているかを調べています。

The Economistが構築した統計モデルとよく似たモデルを構築していたミシガン大学の経済学者であるステファン・シマンスキー氏は、裕福な国ではサッカーがよりスポーティーな傾向にあるとしています。また、貧しい国では「国内に芝のピッチが3面しかない」という場合もあるため、貧富の差がナショナルチームの強さに影響を及ぼしているのかどうかを調べるべく、The Economistは統計モデルの変数のひとつにGDPを含めているそうです。


他にも、各国でのサッカーの人気度合いを評価するために、「2004年から2018年までの間にラグビーやクリケットといったサッカー以外のスポーツと比べ、サッカーに関する物事がGoogle上でどれだけ検索されたか?」も調査されています。アフリカではサッカーの注目度が90%もあるのに対し、アメリカでは20%、クリケットが高い人気を誇る南アジアでは10%しかありませんでした。そのほか、国全体でのスポーツへの熱意を測るために、「1人あたりのオリンピックメダル獲得数」も変数として利用されています。

加えて、「ホームチームの優位性」についても分析されており、1試合平均で0.6ゴールもホームチームが有利になることが明かされています。また、ケイマン諸島やブータンなどの分析範囲に入れる必要のない国と地域を除外するために、「1990年以降に国際試合を150試合以上行った」という条件を設け、分析する国の数を126カ国に絞ったそうです。

by Carlos Muza

統計モデルはチームごとの平均ゴール数の分散を40%説明できるとのこと。それでも多くの異常値が存在するそうで、サッカーを完璧に予測する統計モデルを作成することはできなかった模様。以下のグラフは、縦軸が1990年から2018年までの試合を分析した結果はじき出された平均ゴール数(得点数から失点数をマイナスしたもの)を示しており、0以上の数値が出ているチームは1試合平均で失点より得点の方が多いということを示します。そして、横軸はThe Economistの統計モデルがさまざまな変数をもとにはじき出した「1試合平均ゴール数がこのくらいになるだろう」という予測数値を示しています。例えば、1試合平均のゴール数が最も多いのはブラジルの「2」ですが、統計モデルが最も平均のゴール数が多いと予測したのはドイツでした。


グラフを右肩上がりに斜めに走る直線よりも上に位置するのは「統計モデルの予測よりも高い平均ゴール数を記録している国」であり、下に位置するのは「統計モデルの予測よりも低い平均ゴール数を記録している国」です。つまり、直線よりも上に位置する中国や中東の国々は、悲しいことに既にポテンシャルを上回る結果を出していることが予測されるわけです。

そして、統計モデルによる最も魅力的な発見のひとつが、「サッカーナショナルチームの成功を左右する多くのものがサッカー連盟などが直接コントロールできるようなレベルのものではない」ということです。例えば、アフリカでは貧困がサッカー強化の足を引っ張っていると考えられますが、これをサッカー連盟がどうこうすることは不可能です。そして、アジアでは興味関心度合いの低さがサッカー強化の足を引っ張っているものと思われますが、これも一朝一夕で劇的に改善できるというものではありません。

それでもThe Economistは、「ワールドカップ優勝の夢を持つ国は、統計モデルの外れ値と改良点から4つの物事を学ぶことができる」と記しています。The Economistが挙げた4つのポイントは以下の通り。

◆1:子どもたちに創造的な発達を促すこと
ウルグアイを例にすると、「できるだけ多くの子どもがボールを蹴って技能を伸ばす」ということが重要です。しかし、多くの練習をこなせば結果が出せるというわけではありません。実際、東西に分かてていた当時のドイツは東ドイツの方が多くの練習をこなしていたにもかかわらず、西ドイツの方が国際大会では優れた成績を収めました。

つまり、ただボールを蹴るだけではなく子どもたちが楽しく創造的にボールで遊ぶことが重要であるとのこと。実際、貧しいスラム街で靴下などを丸めて作ったボールを使って行うサッカーでテクニックを磨いたというサッカー選手は多くいます。また、フットサルや路上で行うサッカーもテクニックを磨くにはピッタリで、古くはペレやディエゴ・マラドーナから、クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシ、ネイマール、アンドレス・イニエスタといった優れたスキルを持つラテンアメリカ系の選手たちがそのようにスキルを磨いてきました。実際、優れたサッカー選手の過去を調査したデータによると、優れた選手たちは6~10歳の間に泥にまみれながらボールを蹴っていたことが明らかになっており、逆にプロへの夢を絶たれた選手の多くは遊びのサッカーではなく習い事としてのサッカーにより多くの時間を費やしていたことが判明しています。

「泥んこになりながらサッカーをする」ような機会は豊かな国では徐々に失われつつあります。フットボール・アソシエーションで選手育成部門の責任者を務めるマット・クロッカー氏によると、サッカー選手を目指す子どもを持つ親は「試合のために子どもを外出させたくない」と答える、と話しています。また、多くの住宅地に「サッカー禁止」のカンバンが立っており、ますます遊びのサッカーを行う場所が減りつつあります。

by Click and Boo

ドイツには広い国土と多くの才能豊かな選手たち、そしてサッカーと人気を二分するようなスポーツが存在しないという環境要因も相まって、ドイツ代表は他のどのチームよりも優れたチームになる可能性があるとThe Economistの統計モデルは分析しています。それでも、1990年から2005年までのドイツ代表の平均ゴール数は予測モデルがはじき出した数値の3分の1程度しかありませんでした。

それではどうやってドイツ代表が大きな改善を遂げたのかというと、そこにはドイツサッカー連盟による地盤強化への取り組みがあります。ドイツサッカー連盟は自身が設定した基準を満たす全国250のサッカークラブに対し、2001年からなんと約10億ユーロ(約1300億円)もの資金を投じています。これにより、記事作成時点でドイツのサッカークラブでプレーする若者たちは、従来比で最大2倍のトレーニングを受けられるようになっているとのこと。そして、トレーニングセッションは創造性を育むことにも重点を置いているそうです。

その結果、2014年にドイツは4度目のワールドカップ優勝を達成しています。実際、2006年以降の試合でドイツ代表はThe Economistの統計モデルがはじき出した平均ゴール数の期待値をほぼ達成しているとのこと。このドイツサッカー連盟による育成年代へのテコ入れは他の国々にも影響を及ぼしており、イングランドでは2012年に青少年育成プログラムの見直しが行われ、選手はリスクを犯して自分自身で考えることを奨励されるようになったそうです。その結果として、イングランドは2017年に行われたU-20(20歳未満)やU-17(17歳未満)のワールドカップで優勝しています。

◆2:才能ある若者を取りこぼさないこと
ドイツサッカー連盟は育成世代のスカウティングで多くの才能を見落としていたことに気づき、360もの地域センターを設立し、才能発掘に大きな力を注ぐようになっています。その結果発掘されたのがドイツ代表のアンドレ・シュールレ選手であり、同選手は2014年のワールドカップ決勝で延長後半に決勝ゴールをアシストしています。

小規模な国では一元化された制度が確立しやすいという特徴があります。そのため、ウルグアイの育成プログラムであるBaby Footballでは、プログラムの結果を全国データベースに記録することができているそうです。

人口がわずか33万人しかいないアイスランドですが、プロサッカー選手は100人もいます。これは地域のサッカークラブなどを含めると600人以上のサッカーコーチがいるからかもしれません。アイスランドでは全ての子どもにサッカーコーチの下でプレーする機会を与えるため、全国に154もの小規模なサッカー場を作っています。しかし、こういったプログラムは資金面で劣るアフリカの国々にとっては実現不可能なものかもしれません。

by Ben Weber

◆3:サッカーの広大なグローバルネットワークを最大限に活用すること
西アフリカはスポーツにおけるグローバルネットワークを活用する、という3つ目のポイントを大いに活かしているといえます。西ヨーロッパには選手が最高のコーチングを受けることができる世界有数のサッカークラブが多数存在しているため、西ヨーロッパはサッカーにおけるグローバルネットワークの中心地といえます。2018年のワールドカップとは縁がなかったものの、アフリカ最大のサッカー先進国ともいえるコートジボワールは、ベルギーのサッカークラブに若く才能ある選手を多数送りこんでいます。ベルギーで足掛かりをつかんだ若手のアフリカンスター候補たちは、そのままイングランドのプレミアリーグへ移籍し、活躍するという事例が多くあります。これぞまさにサッカーにおけるグローバルネットワークを最大限活用することの事例とのこと。

また、1991年に独立した人口440万人の国・クロアチアも選手の輸出で大きな成功を遂げている国といえます。1991年以降、クロアチアのサッカークラブがヨーロッパ最高の舞台であるUEFAチャンピオンズリーグで好成績を収めたことはありませんが、ヨーロッパのトップクラブであるレアル・マドリードやバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、インテル・ミラノといった多くのクラブでクロアチア人選手は活躍しており、2018年のワールドカップでは強豪クラブで活躍する選手が集まるクロアチア代表が見事ベスト8進出を決めています。

by Sam Wermut

◆4:トーナメント時に適切な準備を行うこと
最後のレッスンはワールドカップに臨むチームについてのものです。2014年、ガーナ代表は選手のストライキを回避するために300万ドル(約3億3000万円)のボーナスを提供しました。また、ナイジェリア代表はチームの賃金に含まれないトレーニングセッションをボイコットすることを決定しています。このように、試合時以外においてもチームをうまく管理することがワールドカップという舞台では求められることとなり、これは想像以上に手間がかかることです。

また、2010年のワールドカップ優勝国であるスペインと、2014年の優勝国であるドイツの成功により、ひとつのサッカークラブの戦術をベースにナショナルチームの戦術を組み立てること、戦術に合わないならばスター選手であろうともチームに加えないこと、などの重要性がより高まっています。チーム管理はますます複雑化していると言えます。

そのほか、イングランド代表の場合はワールドカップでペナルティキック(PK)を蹴った選手が7回中6回も失敗しているというデータがあります。このPKの様子を動画分析したところ、失敗した選手の多くが早く蹴ろうと焦っている様子が見てとれるそうで、そこでイングランドでは育成年代から意識的にスローダウンしてPKを蹴る練習を行っていることが明かされています。

by Jannes Glas

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in メモ, Posted by logu_ii

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