筋トレ英会話 ビジネスでもジムでも使える超実践的英語を鍛えなおす本』(Testosterone著、大岩秀樹監修、祥伝社)の著者は、16歳で単身渡米した際に筋トレと出合い、40キロ近いダイエットに成功したという人物。米国で格闘家デビューも果たしており、現在はアジアの某大都市で働きながら、筋トレと正しい栄養学を普及させることに尽力しているのだそうです。

筋トレに関する著作も多いのですが、本作のテーマである英語と筋トレには共通点がないようにも思えます。しかし、「俺が出す英語本が普通の英語本なわけがない」とかなり強気。

筋トレオタクがなぜ英語本? と思う人もいると思うので軽く説明させてくれ。 第一に、俺は日本語・英語・中国語のトライリンガルだ。そして、第二言語である英語・中国語を本格的に学びだしたのは16を過ぎてからだ。つまり、子供の時から海外で生活していて気が付いたらトライリンガルになっていたというケースではないということだ。「第二言語をマスターする」という明確な目標を持ち、試行錯誤を繰り返し、第二言語習得の心得や自分の学習スタイルを確立してきたわけだ。(「はじめに」より)

自身にこうした経緯があるからこそ、英語に対して苦手意識がある人でも、確実に英語を学びなおすことができると主張するのです。

英語には苦手意識があるって? 言っておくが英語なんて筋トレに 比べたら楽勝だぞ。ベンチプレスを10kg伸ばそうと思ったらそれこそ1~2年はかかるし、10kg確実に伸びるという保証もない。 それに比べて英語はどうだ。英単語を5個覚えると決めたら確実に5個覚えられるし、文法だって同じだ。そう考えると、英語なんてめちゃめちゃイージーだろ。やったら確実に成長する。しかも即日だ。(「はじめに」より)

しかも多くの人には、すでに中学で3年間、高校にも通ったなら計6年間英語を勉強してきたという実績があるはず。すでに相応の時間を投資し、脳に単語や文法を刻み込んできたわけです。つまり「イングリッシュメモリー」がすでに備わっているからこそ、本書を通じて学びなおせば英語力は一気に上昇するというのです。

では、どうやって英語学習に臨めばいいのでしょうか? Chapter 1「Testosterone流英語学習法」のなかから、「4つの心得」を抜き出してみましょう。

心得1:自信を持て! 君はすでに英語を話せる

先にも触れたとおり、中学で3年間、高校まで進んだ人なら中学から6年間、大学で英語を履修した人なら8~10年間という膨大な時間を英語に投資してきたことになります。

ゆえに「dogとは?」と聞かれれば「犬」と即答でき、「muscleは?」と問われれば「筋肉」と答えられるわけです。ジムに行きたければ「I want to go to gym.」と言えるし、店で商品の値段を知りたければ「How much is this?」と聞くことができるでしょう。

なのに、なぜしゃべれないのか? それは、ただ単純に話そうとしないから。「自分は英語が話せない」と思い込み、英語を話すこと自体を放棄しているというのです。しかし、それはあまりにももったいないと著者は言います。

俺が断言しよう。 「自分は英語が話せる」と認識したその瞬間から、君は英語が話せるようになる。君には今すぐにでも海外に行き生活する基礎的な英語力が備わっている。(12ページより)

海外でジムに通うことになったとき、アメリカ人インストラクターのマイケルから「Hi, My name is Michael. What’s your name?」と聞かれたとしたら、「Hi, my name is ○○」と答えるはず。するとマイケルが「Nice to meet you ○○, let’s have a great workout」というような答えを返してきて、それで会話は終了。

もしworkoutの意味がわからなかったとしても、やる気満々の雰囲気で「yeah!」とでも言っておけばOK。あとでこっそりworkoutの意味を調べればいいというのです。第二言語なのだから、意味なんて完璧に理解できなくて当然。流れにまかせて適当に会話したらいいそうです。

会話なんてその程度のもので、言いたいことは簡単な単語と文法でほとんど伝えることが可能。日常会話なんて「いまある知識+ノリ」でいけるのだということ。問題は、「自分は英語ができない」と思い込んでいること。だからこそ、自信を持つことが大切だという考え方です。(11ページより)

心得2:他人の目を気にするな! 意思の疎通ができれば、発音なんてどうでもいい

「自分は英語が話せない」と思い込むメンタルブロックと並び、英語学習で最も邪魔になるのが他人の目。他人の目を意識するあまり、英語で話すことに対して萎縮してしまうわけです。

中学校で習う基礎的な英語で十分にコミュニケーションは成り立つのに、「仮定法とかso that構文などを使いこなせない自分では笑われるかもしれない」と消極的になってしまうということ。しかしそれは、英語学習においてとても大きな障害。

ハッキリと言おう。英語を話すのに、発音が完璧である必要も、難しい構文や語彙を使いこなす必要も一切ない。(中略)変に気張らず、身振り手振りも使って、シンプルな文法のみを使い意思疎通さえできればそれでいい。意思の疎通がもっとも重要な役割であり、発音とかカッコよさとかそんなもんは二の次だ。(14ページより)

海外に出たら発音なんて問題にすらならないと著者は断言しています。小さなことを気にせず、どんどん英語を使うことのほうが大切だということです。

心得3:ふてぶてしくあれ! 「俺のつたない英語を理解するのは君たちの仕事だ!」ぐらいの精神でいこう

まだ日本で学生をしていて、英語も話せなかった著者は、アメリカ留学するにあたってひとつだけ決めていたことがあったのだそうです。それは、ネイティブにも臆さず話しかけるということ。

「英語は君たちにとっては第一言語だけど、俺にとっては第二言語なんだから、君たちが頑張って俺のつたない英語を理解しろ!」というふてぶてしいロジックで、アメリカ人に堂々と偉そうに話しかけまくった。(18ページより)

意思の疎通なんて、簡単な英語で十分。しかも現地で生活を続けていると、わかってくることがあるといいます。たとえば買い物に行きたいとき、現地の人は「I want to go to shopping.」というきれいな言い方ではなく、「I wanna go to the malls.(ショッピングモール行きてーなー)」と話し言葉でくだけた表現を使うことがわかってくるもの。

そんなときは「ああ、現地の人はこんなふうに言うんだな」と学び、自分の表現方法に加えていけばいいということ。そうやって鍛えていけばいいわけで、しかも英語でコミュニケーションをとることの楽しさがわかると、「もっと楽しみたい」と思えるようになり、英語力は加速度的に上がっていくといいます。

そして実際に使ってみて、発音が通じなかったり、意味が通じなかったり、さまざまな経験をしながら英語力は磨かれていくということ。使わなければ、いつまでたってもレベルアップすることはないわけです。

大事なことなので繰り返すが、英語はあくまでコミュニケーションツールだ。机に向かって勉強ばかりしていてもいつまで経っても上達しないし、英語の本当の価値、楽しさはわからない。 「英語がしゃべれない」という思い込みを断ち切るのは君自身だ。英語が相手に伝わったときの喜びは、実際に使ってみた人でないとわからない。(21ページより)

「実際に英語を使って会話すれば自身が一気に増すし、課題もたくさん見つかって最高だぞ」という著者のことばは、信じてみる価値がありそうです。(18ページより)

心得4:英語学習は質よりも量! 英語は楽しんだもん勝ち

語学を習得するときには大きく分けて2つのステップが必要になるといいます。

第1ステップは、単語や基本的な文法など、基礎的な知識の暗記。退屈でつまらないとはいえ、避けられないものでもあると著者。単語や基礎的な文法の基礎知識がないままに第二言語を勉強するのは不可能で、とにかく暗記するしかないわけです。

そして重要なのが第2ステップ。ここでは第1ステップで覚えた単語や文法を駆使してさらに効率よく英語学習を進めていくわけですが、多くの人がここでつまづくのだとか。そこで著者は、この第2ステップにおいてもっとも大切な真実を明らかにしています。

それは「英語学習の第2ステップで一番大切なのは質より量」という単純明快な事実である。 要は、第1ステップを乗り越えたあとはただひたすらに英語と触れ合う時間を長くするという方法がもっとも効率的な学習法なのである。(24ページより)

そこで著者が勧めているのは、「英語を楽しむ試み」。具体的にいえば、「海外ドラマを観ること」。海外ドラマは“製作費を何十億円もかけた最高の英語学習教材”であり、これに敵う教材は他に存在しないというのです。

大切なのは、音声も字幕も英語のまま視聴すること。しかも、わからない単語や表現の意味を調べてもいけないのだそう。なぜなら義務的に調べた単語や文法は頭に残らないものだから。

重要なのは、“楽しむ”こと。そのため、リスニング、リーディング、新しい単語の記憶、瞬発的な英語の理解力、スピーキングをバランスよく鍛えられるこの勉強法は非常に優秀だというのです。(23ページより)




本書のラストには、とても印象的なことが書かれています。

信念、アイディア、知識、目標、この世のありとあらゆるものは、行動が伴わなければ何の価値もない。英語も同様。使わなければ無価値だ。英単語を覚えるのは簡単。文法を覚えるのは簡単。海外ドラマを観るのは簡単。ここまでは誰にでもできる。だが、実際に行動に移すのが難しい。だからこそ価値がある。 覚えた単語を、文法を、海外ドラマで鍛えた英語力を活かして実際に英語を使って会話をすることに真の価値がある。 (「おわりに」より

行動あるのみだということ。実際にそれを成し遂げてきた人の言葉だからこそ、ここには大きな説得力があるといえるのではないでしょうか?

Photo: 印南敦史