次世代の検索は、「地図」が主戦場になる

現実世界の検索ツールとして、地図の存在感が高まっている。地図はいかにデジタル世界と現実世界とをつなぐ「入り口」になろうとしているのか。総合的な移動のプラットフォームを目指すUber、そして検索の巨人であるグーグル──。多くの企業が名乗りを上げるなか、「未来の検索窓」をめぐる闘いが始まった。
次世代の検索は、「地図」が主戦場になる
IMAGE BY EMILY WAITE

サンフランシスコのダウンタウンで配車アプリの「Uber」を開くと、「クルマを呼ぶ以外にも多くのことができる」と気づくはずだ。

Uberは電動自転車のシェアサーヴィスのジャンプ・バイクス(Jump Bikes)を買収したので、電動自転車を借りられる。また、カーシェアリングサーヴィスを提供するスタートアップのゲットアラウンド(Getaround)と提携しているため、レンタカーも借りられるのだ。以前見た同社のアプリの試用版では、カリフォルニア州の通勤列車である「Caltrain(カルトレイン)」の時刻表がポップアップで表示された。

これらの細かい改良は、ライドシェアサーヴィスを提供してきたUberが、世界規模の移動プラットフォームへと転換を目指す計画の一環だ。この戦略が成功すれば、ある地点から別の地点まで移動する方法を知りたくなったら、「Uber」アプリの地図を開く日が来るだろう。つまり、自分の周囲のものや、どこかにたどり着く方法を知るためにGoogleマップを使うのと同じように、Uberを使うようになるということだ。

地図を高機能化し、携帯電話上の地図アプリを新たな検索ボックスにする方法を探究しているのは、Uberだけではない。同社をはじめとする多くの企業は、人々がデジタル生活と現実生活を融合すると予想している。そして、自分のすぐそばにある世界をリアルタイムで検索する機能として、マッピングを利用することを期待しているのだ。

これは地図が極めて大きく高度化しようとしていることを意味する。Googleマップの開発に7年携わり、現在はUberでプロダクトの責任者を務めるマニク・グプタは、「詳細で精密な地図は、わたしたちが取り組むことの中核にあります」と語る。

「入り口」をめぐる争い

検索には部分的にせよ、常に位置が関係する。例えば、ユーザーがインディアナ州にいることをGoogle検索が認識していれば、ノートパソコンに「今日の天気」と打ち込んだときに、より意味のある結果を得られる。情報が必要な場合は検索を利用し、どこかに行くときは地図を使うというように、これまではデジタル世界と現実世界が分断されていたのだ。

しかしいま、3次元の世界を解読する地図が、多くの会社によってつくられている。歯が痛くなれば、Googleマップに「歯医者」と入力すればいい。「プエルトリコの日」のパレードが終わる場所を正確に知りたいときには、「Snap Map」を呼び出す。空港にいますぐ行く必要がある場合は、UberかLyftを開けばいい。

「地図は検索にとって実に強力なキャンヴァスです」と、企業用に地図開発ツールを提供するマップボックス(Mapbox)の創設者である、エリック・ガンダーセンは語る。「背景情報や人々の居場所を知るためのキャンヴァスです。データを理解するためのキャンヴァスでもあります」

地図は、われわれがデジタルで体験する多くのものにつながる「玄関口」として登場する。このため各企業は独自の地図アプリによって、ユーザーが最初に開くアプリになろうと競い合っている。これは、かつてマイクロソフトとヤフーが検索をめぐってグーグルと争ったときと同じだ。

「人々が行うすべての入り口になろうとして、あらゆる企業が常に競っています」と、Googleストリートビューの立ち上げに尽力し、現在はLyftで地図開発とマーケットプレイス部門を担当するルーク・ヴィンセントは語る。そしていま、すべての入り口が地図へと移行していく準備ができつつあるようだ。

地図を長らく独占してきたグーグルでさえ、この変化を予想している。グーグルは、Googleマップアプリだけでなく、外部に提供している地図のインターフェースを強化しているのだ。このマッピング事業の名称を、今年5月にGoogle Maps Platformに変更した。

こうした地図の外部提供ツールを13年前に立ち上げてから初めてとなる今回の改革では、18種類あった開発ツールをわずか3つのカテゴリーにまとめてわかりやすくした。そしてより明確な価格設定を導入したのだ。

さらに、ゲームやライドシェアリングなど特定の業界に特化したマップ機能のセットを公開した。グーグルは17年秋から投資先でもあるLiftと協力して、独自のライドシェアリングサーヴィスのテストを開始している。

Googleマップの代替を求めて

グーグルの地図ツールは、自社アプリに地図を追加したい企業にとって最も統合的な選択肢を提供している。ほかの数社は、開発者向けのジオロケーション(地理位置情報)ツールを提供している。オランダのトムトム(Tom Tom)は自動車メーカーにターゲットを絞り、自社のナヴィゲーションシステムを強化している。ノキアの地図ツールであるHereは、15年にドイツの自動車メーカー連合に売却された。

Googleマップに代わるものとして最も多く利用されているのが、「Mapbox」だ。このツールは一部の機能は外部に提供されないが、Google Map Platformに比べてかなり安い。このため、スナップやInstacart、Foursquare、The Weather Channelをはじめとする多くの企業が利用している。

また、スウェーデンに拠点を置くスタートアップのMapillaryなどいくつかの企業が、Googleストリートビューに代わる機能のクラウドソーシングに取り組んでいる。このため、グーグルに代わるサーヴィスを探している企業が、必要なマッピング機能を組み合わせて利用することも多い。

Uberはこれらのサーヴィスの多くからデータを抽出してつなぎ合わせ、独自の地図を作成している。同社は当初から、グーグルだけでなくトムトムやOpenStreetMapなど、複数のサーヴィスから地図位置情報のライセンスを取得している。

しかしここ数年は、独自のマップ技術を開発するために大きな投資を行ってきた。Uberは、15年に地図プラットフォームを提供するスタートアップのdeCarterや、マイクロソフトからBingのマップ資産の一部を買収した。それ以降、Uberは地図に関連する小規模なスタートアップの買収を続けてきたのだ。

Uberの社内では、技術者が現実の世界から取り込んだデジタル画像を使って、すでに評価の高い到着予定時刻の改善に取り組んでいる。機械学習を利用して、ユーザーに目的地予測を示したり、ドライヴァーへの道案内を改良したりしている。同社はユーザビリティを向上するため、世界中の多くの都市で特殊なカメラを搭載した車両群を展開し、独自の画像を収集しているのだ。

求められるのは「完璧な正確さ」

ただし、Uberアプリが移動や物流の業界標準になるには、正確な情報を提供しなければならない。ユーザーのいる場所が道路の反対側だったという小さな間違いでさえ、待ち時間が増えて売り上げを失う可能性があるからだ。

このような課題は増える一方だ。建物の7階にある部屋に食事を配達する、あるいは最も腕が確かな近所の眼科に行く道順を示す。Uberアプリは、ユーザーがどこにいるのかをより正しく突き止めるだけでなく、その地域を最も適切に道案内する能力も向上させなければならない。

自律走行車や拡張現実(AR)によって、デジタルツールが現実の交通網に導入される未来の世界でユーザーに道案内をするには、厳格なまでに完全な地図が不可欠だ。人々を位置づけることに関して最も有利な立場になった企業が、この新しい世界においてトップの座に就くことになるだろう。「取り残されてもいい」と思う企業など、あるはずがない。


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TEXT BY JESSI HEMPEL

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO