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豊かさを求めてやってきた外国人労働者を待ち受けるマレーシアの過酷な労働環境の実態とは?


マレーシアは外国企業の誘致を積極的に行っており、実際に同国の経済はこの取り組みによって急速に発展しています。しかし、労働に関しての法律は整備が不足しており、約4分の1を占める海外からの移住労働者にとって過酷な労働環境となっているとのこと。実際にどのような状況となっているのか、海外メディアのThe Atlanticが、その実態に迫っています。

Forced Labor in Malaysia's Electronics Industry - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/business/archive/2018/06/malaysia-forced-labor-electronics/563873/?single_page=true

マレーシアの首都クアラルンプールは、主に外国企業の誘致によって発展しており、治安や政治情勢も安定しています。そして、クアラルンプールの安定した状況を作り上げた成功の中心にあるのは移住労働者とも言われています。彼らの多くはバングラデシュ、ネパール、フィリピン、インドネシア、インドからより良い生活の実現を夢見て、労働意欲が高い状態でクアラルンプールにやってきます。2014年時点でマレーシアに居住する外国人労働者の数は、推定180万人~360万人に上るとされています。


こうした労働者の多くは「マレーシアは豊かな生活が待つ土地」であると信じており、「通りは金で埋め尽くされている」姿を想像してやってくるそうですが、クアラルンプール到着と同時に現実に引き戻されるそうです。アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のデイビッド・ウェルシュ氏は「マレーシアは強制労働や人権侵害が深刻な地域でもあり、とても労働環境が整えられているとは言えない実情があります」と語り、経済発展が著しい反面、大きな課題を抱えているとしています。

2014年に労働問題を専門に扱う非営利団体のVeritéが発表した報告書によると、400人の移住労働者を調査した結果、少なくとも32%が本人の意志に反して強制的に働かされている状態にあるとのことで、労働環境が非常に悪いとしています。また、同年のアメリカ国務省の人身取引レポート(TIP)では、マレーシアは北朝鮮やイランと並ぶ最低評価の「Tier 3」に格付けされており、第三者的に見てもその労働実態は強制労働に限りなく近いものであると評価されています。

しかし、マレーシアは書面レベルではあるものの、改善に取り組んでいます。国連の労働機関である国際労働機関のジョディ・ミトラ氏は「マレーシアの人身売買問題への取り組みは、人身売買調査、起訴、刑罰の強化により改善がなされています」と語っており、国を挙げて明確に良い方向に進んでいるとしています。しかし、ミトラ氏は「強制労働と見なされかねないような移住労働者の虐待的労働行為が存在し続けているため、マレーシア政府はこの規制を企業に強制する取り組みを行う必要があります」と指摘。書面だけでの改善ではなく、危機的状況を回避するためには、実行に移すべきであるとミトラ氏が述べています。


マレーシアの移住労働者への虐待的な対応は、採用の時点から始まります。インドネシア出身のノビータ・マーブンさんは19歳でマレーシアにやってきた時、現在働いている会社に雇用手数料として1500リンギット(約4万1000円)を支払いました。この額はマーブンさんの家庭にとって非常に高額であり、両親はマーブンさんの雇用手数料、渡航費、その他の費用を工面するため、家を担保に返済期間15年の借金をしているとのこと。マーブンさんは返済を滞らせないようにするため、自身の生活費をギリギリまで切り詰めて、仕送りを続けています。

VeritéのCEOであるショーン・マクドナルド氏は「マレーシアの雇用手数料というシステムは、最も貧しい人に高額の手数料を支払わせるような仕組みになっています」と語り、事実上、労働者を長期間にわたり企業に縛り付けるものであると指摘しています。また、雇用主の多くは違法行為と知りながら、逃亡を阻止するために労働者のパスポートを回収しているという実態があります。

By ahmad bakri

そして、雇用手数料とパスポートという対価を支払わされた労働者は、企業に採用され、労働の対価として給料を得ることになりますが、税金などの控除を受けたあとの手取りは非常に微々たるものであるとのこと。しかも、雇用契約には控除に関する記述がないため、実際の手取り額は、採用されてから給料が支給されるまでわからないという実態があります。ここで、金銭面で不満を言おうものなら、解雇につながる可能性があり、マーブンさんのように両親に高い借金を背負わせて就職のために高い雇用手数料を支払い、自身もギリギリの生活を続けている労働者は雇用主に従う以外に方法がない状況になっています。

それでも、仕事が嫌になって辞めるか、何らかの理由で雇用契約を終了した労働者は、企業から雇用手数料が戻ってこないどころか、パスポートですら返却されることはほとんどありません。このため、雇用主と紐付いている就労ビザが無効になるために、移住労働者は不法滞在者として扱われることになります。この状態で別の就職先を見つけて、高い雇用手数料を支払って就職したとしても、当局に国外退去を命じられてしまうリスクが残り、高額な雇用手数料の支払い損になってしまうケースが存在しています。そして、このような不法滞在者は少なくなく、マレーシア国内の全移住労働者の約3分の1にも上ると見られているとのことです。

しかし、労働者の扱いはマレーシアの国全体で悪いわけではありません。弁護士のスミタ・シャンシニ氏は「大企業や多国籍企業は自国または他国の労働機関などから外部監査を受けているため、行動規範をしっかりと守っており、不当な賃金の引き下げやパスポートを回収するようなことは行いません」と語っており、実際、労働者を苦しめているのは、監視機能がほとんど働いていないマレーシア国内の中小企業であるとしています。


なかなか改善の見えないマレーシアですが、2018年5月に独立から約60年間にも渡り政権を握ってきた統一マレー国民組織(UMNO)から民主行動党(DAP)などの野党連合に変わるという大きな変化が起きました。記事作成時点では、新しい体制について国民からの支持は得られていない状況ではありますが、これまで整備されてこなかった労働者保護制度が構築される期待が持たれており、移住労働者の待遇が改善する可能性が現実味を帯びています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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