二脚ロボットの歩行をひたすら邪魔する奇妙な研究から、「新しい義足」の技術がつくられる(動画あり)

ひょろっとした2本脚のロボットを何度も何度も転ばせようとする──。そんな奇妙な実験を繰り返しているカリフォルニア工科大学の研究所。どんな環境でも二足歩行できるロボットを開発するための実験だが、実はそこで得られた知見を「新しい義足」の研究開発に応用するという別のミッションがあった。
二脚ロボットの歩行をひたすら邪魔する奇妙な研究から、「新しい義足」の技術がつくられる(動画あり)
PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

トレッドミルの動きに合わせてドスドスと歩く、ひょろっとした2本脚のロボットの前に立っている。感心して見ていると、隣にいる研究者が話しかけてきた。「このロボットを転ばせてみてください」

高価そうに見えるので躊躇していると、「本当に大丈夫ですから」と研究者は続ける。彼のほうが状況をよくわかっているだろうと思い、サッカーのトリッピングのように、ロボットのすねに自分のブーツを引っ掛けて転ばせようとした。

ロボットはふらついたが、体勢を立て直した。次も、その次も同じだった。何度足を引っ掛けても、ロボットはドスドスと歩き続けるのだ。そんな様子にずっと罪悪感を覚えていた。

カリフォルニア工科大学にあるAmber Lab(「Amber」はAdvanced Mechanical Bipedal Experimental Roboticsの略)では、これを「暴行」ではなく「かく乱試験」と呼んでいる。このため、少し気分が楽になった。

もちろんこれには意味がある。このラボの研究者たちは「ロボットらしい歩き方をするロボット」ではなく「実世界で生活できるロボット」を目指しているため、その実現に役立つあらゆることを行っているのだという。

二足歩行の実現を目指す

だが、なぜ脚のあるロボットなのだろうか? 車輪付きのロボットのどこが悪いのか?

別に悪くはないのだ。ただ、本当に役に立つロボットは、人間が取り組めることは何でもできなければならないというだけである。

Amber Labを率いるロボット研究家、アーロン・エイムズは次のように語る。「つまり、芝生も砂利道も、雪や氷の上も歩けるようなロボットにしなければならないのです。そこで、どうすればそうした機能を拡張できるのか、どうすればこうした構造化されていない未知の環境でロボットを機能させられるのか考えているのです」

VIDEO COURTESY OF WIRED US(字幕は英語のみ。画面右下の「CC」ボタンで字幕のオン/オフが可能)

このラボで行われている作業の本質は、二足歩行[日本語版記事]の計算を改良してゆくことにある。「歩行を数学的に理解すれば、基本的なレヴェルで、ただ歩くだけでなく、効率的でダイナミックに、そして人間のように、スムーズに美しく歩けるようになります」とエイムズは言う。

現在この世界を歩いている二足ロボットたちは、みな基本的には同じ関数によって制御されている。先ほど転ばそうとしたロボットはかなり簡素なつくりで、足場に取り付けられているので前後移動に専念すればよく、左右に倒れることは気にしなくていい。

新しいアルゴリズムの最適化

エイムズ率いるチームがここでできることは、いくつかの新しいアルゴリズムを試して最適化し、それをより複雑なロボットに移植することだ。「最終的には何が足りないのか見つけられるでしょう。見つけたら、このシンプルなロボットに戻って、同じことを繰り返します」とエイムズは述べる。

例えばジャンプだ。Amber Labが取り組んでいるのは、足場の上でピストンのように上下に跳ねるロボットである。「単純なところから始めて、まずはピョンと跳ばせます。この動きについて理解できたら、それを『キャシー(Cassie)』まで進化させて、キャシーをジャンプさせられるようになります」とエイムズは言う。

ご存じない方のために説明するが、キャシー[日本語版記事]とは、ダチョウのような見た目の二足歩行ロボットで、価格も数十万ドルするような代物だ。これは研究用プラットフォームなので、エイムズのような科学者たちは比較的簡単にそのコードを触って新たな手法を導入することができる。

例えばミシガン大学では、キャシーに火の中を歩かせたり、セグウェイに乗せたりしている。なぜそんなことをするかというと、そうしてはいけない理由がないからだ。

だがAmber Labは、キャシーをジャンプさせる方法を考え出した。「方法」と言うと簡単そうに聞こえるが、かなり複雑だ。「まずはしゃがんで、すべてのバネを圧縮し、それから飛び上がらなければなりません。空中にいる間は、世界と一切接触できません。そして着地して、その着地状態を維持する必要があります」とエイムズは説明する。

その結果が、真面目なヴェロキラプトル(映画『ジュラシックパーク』に登場した獣脚類の恐竜)のような雰囲気のロボットだ。ただし、今回の訪問の際、キャシーは着地状態を維持できずにいた(動画を観てほしい)。

義足への応用

そのため、この研究所のロボットたちは現在、ジャンプとドスドス歩きとかく乱試験を行っているところだ。これはロボットたちにとってだけでなく、人間たちにとっても素晴らしいことである。なぜならエイムズ率いる研究チームは、ここで学習していることを、独自のロボット義足「Ampro」に適用しているからである。

「われわれが歩行ロボットで目指していることはすべて、義足で実現したいと思っていることです。だから、機械だけでなく義足ユーザーにとっても効率的な歩き方にならなければならないのです」

Amproが効率的に機能するには、そのユーザーとの巧みなやり取りが必要だ。この電池式の義足は膝と足首にモーターが入っていて、これにバネが組み合わされている。センサーを利用して利用者の歩いている場所を検知し、状況に応じてモーターを作動させ、義足を利用者と同期させて動かす仕組みだ。

この仕組みのおかげで、動きはただ効率的になるだけでなく、よりダイナミックで自然になる。「義足を装着した人は、ただ歩ければいいわけではないですよね? もっと多くの機能を取り戻せなければなりません。走ったり、サッカーをしたり、ジャンプしたり。こうしたことはすべて、ここでわたしたちが取り組んでいることです」とエイムズは言う。新しい動作をロボットで実現できたら、その進歩を義足に変換して、利用者の可動性を向上させるのだ。

二足歩行ロボットを開発する目的は、単に二足歩行ロボットを開発することではない。少なくともこの研究所では違う。

ここでは歩行の本質を理解し、その知識を「ロボットの可動性」と「ロボット的な仕組みによって介助された人の可動性」への応用を目指している。シンプルなドスドス歩きやジャンプ、跳躍から始まったことは、最終的にはロボット全体をカヴァーするアルゴリズムになるだろう。


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TEXT BY MATT SIMON

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO