ASIMOに対する、私の思い入れを聞いてください

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  • author 塚本 紺
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ASIMOに対する、私の思い入れを聞いてください
Image: catwalker / Shutterstock.com

もっとポテンシャルがあったのね。

先日発表されたASIMO(アシモ)の開発終了()を巡るニュースは、米GizmodoのAdam Clark Estes記者にとっては切ない知らせでした。私たちに未来への夢とワクワクを届けてくれたASIMOでしたが、Adam記者はもっと多くを期待していたようです。

:ホンダはヒューマノイドロボットの研究は継続すると発表しています。以下の内容はAdam記者の解釈です)


ホンダがASIMO開発を終了するとの報道がありました。(スタント・マーケティングという名のもと)世界を飛び回っていた、可愛らしいあのヒューマノイドのASIMOです。時が経つのは早いもので、ASIMOも18歳でした。ロボティックスの未来としてかつて称賛されたASIMOでしたが、それでもビールも買えない程度の若造だったのですね。ビールは買えなくてもホンダ車は喜んで売りつけてくれたことでしょう。

と、シニカルなコメントだからって誤解しないで下さい。ASIMOは素晴らしいロボットなんです。丸っとした頭のついたアンドロイドは21世紀と同じくらいの長さを生きてきており、台所に歩いて行き我々人間にチーズバーガーを作ってくれるロボット・アシスタント、なんて未来像を夢見させてくれました。しかし現代のテクノロジーを見てみると、どうも未来の形はその方向には進んでいないことが分かります。そもそも自動車とバイクのメーカーであるホンダは、ASIMOを一般消費者に販売することに興味は無かったんです。ASIMOは常にマーケティングの道具でした。ASIMOの胸と肩にはホンダのロゴがデザインされていたのも、NASCARレースと同じことなんです。

私はこれが残念で仕方ありませんでした。時が経つにつれ、ホンダはなぜこんなにカッコいい二足歩行のロボットをただの歩く広告としてしか使わないのか、と憎むようにすらなったんです。ASIMOは「Advanced Step in Innovative Mobility」の頭文字を取って名付けられました。「革新的な機動性における高度なステップ」となんとも曖昧な表現です。身長は約130cm、体重は約48kgのASIMO。「世界でもっとも高度なヒューマノイドロボット」と(ホンダによって)形容されるロボットでした。

2000年にお披露目された時は確かに世界で始めて二足歩行をしたロボットだったかもしれませんが、ASIMOに使われた技術のうち、メインストリームへと導入されたものは多くありません(そもそもあるのでしょうか)。Nikkei Asian Reviewのレポートによると、ASIMOの技術のおかげでホンダ・ブランドのロボティック・スマート芝刈り機の開発へとつながったそうです。こちらの芝刈り機のお値段は2,500ドル(約27万5000円)。18年間にわたり、7世代のASIMOが開発された成果が芝刈り機です。言うまでもありませんが、私はこれにもがっかりしています。

我々がたくさん目撃してきたのは、テクノロジーの活用ではなく、ASIMOのプロモーション用の写真撮影です。ASIMOのバイオグラフィーを読んでいると、なんだか忘れ去った夢を思い出させられるような気分になるのは私だけでしょうか。2002年にはASIMOはニューヨーク証券取引所に登場しています。アマンダ・バインズ主演の映画『ロボット』のプレミア上映でレッドカーペットの上を歩いたこともありました。この年、ASIMOはディズニーランドにも出現しています。その3年後にはデトロイト・シンフォニー・オーケストラの指揮を務めています。演奏したのは「見果てぬ夢」です。これは風車を相手に戦おうとする気が狂った男についての歌です。さらに数年後には、オバマ大統領とサッカーまでしています。

ここまで(プロモーションとして)グローバルに活躍したセレブリティがいたでしょうか。さらにASIMOは映画『素敵な相棒 ~フランクじいさんとロボットヘルパー』のインスピレーションにもなっています。もちろん、こういったプロモーション写真撮影ばかりしているからと言ってASIMOがダメなロボットだと言っているわけではありません。歩き回り、オーケストラの指揮をするなんて並大抵のロボットではできない業績です。もちろん、人間が親近感を持って見ることができる現代ロボティックスの例としても価値があると思っています。

そうです、ASIMOは多くの人が大好きな、小さな妹・弟を思わせるんです。またASIMOを多くの教育的な目的を持ったツアーに送り、若い世代にロボティックスの楽しさを伝えたホンダの功績を称えたいと思います。ASIMOが出会ったのは若い人々だけではありません。知事や王族に至るまでさまざまな人達に会ってきています。だからこそ、なぜASIMOにもっといろいろなことをさせなかったのか、と私は憤ってしまうのです。ASIMOが車を運転したり、定年退職後の人々のためのホームや小児病棟に設置されれば本当に素晴らしいことでしょう。一般消費者向けのASIMOを販売してくれたらなぁ、と思うんです。サイボーグ執事や世界最初のファミリーロボットであるJiboのような存在としてのASIMO...夢がありませんか。

ASIMO開発で培われた研究成果は他のプロジェクトにも役立っているに違いありません。そのうちのいくつかはホンダも宣伝しています。たとえば、Uni-Cub移動デバイス歩行支援exoskeletonがそれです。ホンダは今年のCESで新しいロボットのラインナップを披露しています。もちろんすべてがまだコンセプトもしくはプロトタイプ段階のようです。

ASIMOは開発が終えられたことで、私の中では残念ながら、「偉大な技術を使ったホンダのプロモーション・デバイス」として一生を終えたことになりました。Boston DynamicsのAtlasやSophiaといった、センセーションを狙ったロボットと同じカテゴリーに留まってしまったんです。もちろん、真のヒューマノイドのためのテクノロジー要素をそれぞれが体現していますが、どれも全てYouTubeビデオでバイラルになる程度の影響しか生み出していません。ASIMO、と聞いて人々が思い出すのは、ホンダが作ったちょっとおもしろいロボット、ということです。そして記憶の中のASIMOの背後をじっと目を凝らして見てみると、ホンダ車のセールスマンが立っているわけです。


Image: catwalker / Shutterstock.com
Source: ホンダ
Reference: Nikkei Asian Review, howstuffworks, ホンダ(1, 2, 3), Forbes, ASIMO(1, 2), io9, Telegraph, Gizmodo US,
Adam Clark Estes - Gizmodo US[原文
(塚本 紺)