財務前次官による女性記者へのセクハラ問題や世界的な#Metoo運動に後押しされ、職場のハラスメントに改めて注目が集まっている。

しかし「ハラスメント指摘が多すぎて、どう付き合えばいいのか」とこぼす人もいたり、「女性を担当から外してくれ」「女性と夜の会食は避けるべき」といった極論も出たりと、戸惑いも。

参考記事:「女性記者お断り」セクハラ防ぐには女性排除を、という暴論は“新たな差別”を生むだけだ

さまざまの属性の人たちが快適に仕事をするには、何が必要なのか。

女性の部下や同僚と、どう向き合っているのか。

国内大手企業にNPO団体、グローバルカンパニーと、多彩な組織で仕事をしてきた第一線の男性リーダーたちに、仕事上でハラスメントをしないための7つの“基本”を聞いた。

さまざまの組織でリーダーを務めて来た人は普段、仕事をする上で、何を心がけているのだろう。三井物産のグループ会社社長を経て、早期退職後はNPO法人代表など務める川島高之さん。「イクボス」の提唱者として、多くの企業で講演も行ってきた。

1.普段から信頼関係はあるか

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セクハラの線引きは「普段から、人間関係ができているか」だと語る、川島高之さん。
本人提供

下ネタを垂れ流すようなセクハラは論外だが、「髪型が変わったね」と話しかけても、相手によっては「セクハラ認定」となるようなグレーゾーンをどう考えるか。これについて川島さんは明解な基準を提示する。

通常の会話が当たり前にできるような、人間関係の構築が、あるかどうかです」

上司と部下であれば、上司としての信頼が何よりも重要と言う。

「私は普段からコミュニケーションを当たり前に取って、自分のこと、妻のこと、趣味のことも対等に(部下に)話します。失敗談や情けない話もする。女性部下と髪型の話や週末どう過ごしたかなども平気で話題にしてきましたが、全く問題ありませんでした」

つまり、人間関係もできていない、普段は上ばっかり見て下を怒鳴りつけるような上司から「髪型変わったね」と言われたら、「セクハラになりうる」という。

相手が男性部下のケースやパワハラでも同じだ。「信頼関係があってコミュニケーションが取れている上司から、『馬鹿野郎!』と叱られても問題にならないが、信頼していない相手から同じことを言われると、これはパワハラになるでしょう」

2.弱い相手から接待受けるな

「取引先でも、立場の弱い下請けからは極力接待を断る。時に飲みに行くにしても、こちらから接待する」

その時は、1人数千円の居酒屋でも、全て報告するように部下に徹底して透明性を確保した。

では、自分の立場が弱い時はどうするか。

クライアントは接待しなくていい。夜の席にお誘いしなくては受注できない相手なら、受注しなくていいと話してきました。いいものを納めていたら受注はくるのだから、中身で勝負しろと」

3.差別と区別は違う

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よりフラットな組織で、セクハラが起こりにくい理由とは。
撮影:今村拓馬

「差別ではなく、男女の区別は必要だと考えています。例えば商社でも、非常に危ない紛争地域や軍事政権下には、女性は行かせなかった。十把一からげではなく、個別論

一方で、「女性は夜はだめ、海外はダメと言う十把一からげは行き過ぎ」だと指摘する。

同様に「時に仕事相手に(セクハラなど)リスクがある場合など、そこまでして仕事を取ってほしいと思わない。女性には昼間に会って、取れるところへ行ってきなさいと、ブレーキをかけるのも上司の役割。これは規制ではなく、個別への指示や指導ではないでしょうか」

グローバルスタンダードで考えると、どうだろう。外資系証券会社、GEグループ会社社長を歴任するなど、グローバル企業で経営者としての経験が豊富なビザ・ワールドワイド・ジャパン社長の安渕聖司さんに聞いた。

4.上下関係の厳しい会社はハラスメントを産みやすい

「グローバル企業はフラットで、上下の関係がそれほどありません。仕事の内容や処遇は違いますが、マネジメントの人間が雲の上の人のようということはない。とにかくフラットでオープンであることを非常に大事にしている」

安渕さんは、これまで経験して来たグローバル企業の基本的な風土をそう説明する。

年功序列が重視されがちなタテ型組織については「上下関係が厳しいと、上の階層の人は絶対化されやすい。上の人を止めたり、進言したりする人が少ない」との面を指摘。

一方、グローバル企業では「上に行くほど、ハラスメントには厳しい。マネジメントの責任が重くなるほど、行動責任も重くなる。上に行くほど全員から見られていて、模範となる行動が要求される組織と、上に行くほど(マネジメント層が)絶対化されやすい組織との違いはあるでしょう」

5.ダイバーシティは競争力と自覚する

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「人材育成がトップの一番大切な仕事」とビザ・ワールドワイド・ジャパン代表の安渕聖司さん。
撮影:滝川麻衣子

「ダイバーシティは基本的に競争力の問題」と、安渕さんは明言する。

「トップとしては、一番優秀な人たちに来てもらって、ベストなパフォーマンスを出してもらうのが仕事です。そのために、もっともインクルーシブ(包括的な)な組織を目指します。それによっていろんな属性を持った人たちが来て、活躍してくれる。ロジックとしては非常にはっきりしています」

日本では、ダイバーシティ専門の部署や人事担当が、セクハラ含むダイバーシティー問題を担当する例も多いが、「ダイバーシティーや人材育成は、組織としてもっとも重要なミッションの一つ。私にとって一番大事なのは人の問題です」。

今多くの日本企業では労働人口の減少で、人手不足が深刻化している。ハラスメントが起きやすい組織では優秀な人材が確保できない、という危機感がトップにあるかどうかが問われている。

「女性が活躍できないらしいと評判がたつと、女性は来ません。多様なタレント(才能)が入って来なくなる。外国人も一緒です。気づかないうちに、特定の人が来なくなっている会社がある」

6.セクハラ前提で語らない

財務前次官のセクハラ問題の発生後「担当を男性に替えればいい」や「そもそも女性と会食すべきではない」といった、仕事の場から女性を排除すれば問題ないという指摘も相次いだ。これについて、安渕さんは「これは、基本的に属性差別に当たります」と述べる。

この話でおかしいのは、女性がその仕事を担当すると、セクハラに遭うと言う前提です。セクハラの存在を肯定した上で、それを避けるために、担当を外す、夜の会食をなくすと言っている。基本的に、議論がおかしいと思います。女性(男性やLGBTの人にしても)を排除すれば済むというのではなく、セクハラのない職場環境を作ることが目的のはずです」

7.聴く力をもつ

「パワハラ、セクハラがうるさすぎて、職場で何を話したらいいのか」という声にはこう言う。

「聴く力をもつことです。そういう方は、自分の話をいっぱいしなくてはと思っているのでは。社員に対して、個人としても職業人としても、リスペクトを払って興味を持ちましょう。まずは相手の話を聴いてみてはどうでしょう

BUSINESS INSIDER JAPANより転載(2018.05.21公開記事)