サイエンス

最新の加圧水型原子炉「AP1000」や「EPR」がいよいよ中国で実戦投入、対して欧米では導入が停滞中


東芝傘下だったアメリカの原発大手ウエスチングハウス(WH)が開発した加圧水型原子炉「AP1000」の中国での電力供給がついに始まりました。アメリカや欧州で開発が進められてきた最新鋭の原発は、皮肉なことに現地での実戦投入は遅れに遅れており、中国における手探りでの操業から新型原子炉の性能が試されることになるようです。

A Double First in China for Advanced Nuclear Reactors - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/energywise/energy/nuclear/a-double-first-in-china-for-advanced-nuclear-reactors

中国はアメリカWHが開発した「AP1000」を第3世代の原子炉として導入し、ゆくゆくは第3世代炉を国産化する計画を国家核安全局(NNSA)が定めました。AP1000の導入が思うように進まない可能性を考慮して、フランス電力やドイツのシーメンスなどが開発した加圧水型原子炉「EPR」を予備として並行開発することで、新型原子炉の実用化が着々と進められてきました。

そんな中、中国の中国核工業集団(CNNC)が2018年4月に三門原発1号機で導入するWH製AP1000の燃料装荷を開始し、6月29日にはEPRが泰山原発のグリッドと同期し、6月30日には三門原発1号機のAP1000での発電が始まりました。なお、両原子炉ともに一般に電力を供給する本格稼働には少なくとも数カ月かかる見込みです。

当初、6基設置される予定の三門原発のAP1000は、2基が先行して建設され2015年の運転開始が目指されてきましたが、原子力発電所ではお決まりの「遅延」によって計画は数度と変更されてきました。AP1000の実戦投入については、アメリカのジョージア州とサウスカロライナ州でも計画が進行していましたが、AP1000の建設見積もりの甘さが原因でWHが破産宣告し、東芝が売却するなどの経営上の問題もあり、建設は予定よりも大幅に遅れており、記事作成時点では2022年の完成が予定されています。


アメリカでのAP1000導入にWHがつまづく様子は、以下の記事を見ればよくわかります。

特別リポート:東芝傘下のWH、破たん招いた新型原子炉の誤算 | ロイター
https://jp.reuters.com/article/toshiba-accounting-westinghouse-nuclear-idJPKBN188059

また、EPRについても、フランス・パリに拠点を置く原子力大手アレバの経営危機が原因で、フランス・フィンランドでの最初のEPRプロジェクトが遅れており、2019年9月まで実戦投入が遅れることが明らかになっています。


欧米での最新鋭原子炉の導入が実現していない現状について、原子力エネルギーコンサルタントのマイケル・シュナイダー氏は、「中国は一つのプロジェクトから別のプロジェクトへと移行するなど巨大な推進力を持っており、その原子力技術は年々、確実に進化しています。それに対して、ヨーロッパや北米ではこの10年で1基も完成させていません」と、欧米と中国の原発開発の勢いに差があると述べています。

そして、アメリカやヨーロッパの核兵器保有国の専門家によると、原子力開発能力の喪失は、経済的な側面だけでなく安全保障上の問題にもなりかねないとのこと。原子力発電の開発は核開発能力にも密接に関係してるためです。アメリカのホワイトハウスが2018年5月にエネルギー長官のリック・ペリー氏に宛てたメモには、「軍関連施設は、原子力発電から電力を購入すべき」「アメリカにおける核兵器や原子力潜水艦を含む『原子力産業』の将来は、民間の原子力産業に依存している」という内容が書かれていたそうで、民間の原子力産業である原子力発電所の開発力が衰えることは、アメリカの軍事力維持にとってもマイナスだと言えます。


最新鋭の原子炉の実戦投入を中国に依存せざるを得ない状況は、世界の原子力産業を脆弱なものにしているとシュナイダー氏は指摘しています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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