「好きなことを見つけなさい」とよく言われます。
そうすれば、キャリアでの成功だけでなく、ひいては人生の成功も手に入れられると。本当に好きなことだけをしているのは確かに楽ですし、気分もいいでしょう。
でも待って、それだけでいいの?
それって、新しい一歩を踏み出すには最悪の方法ではないでしょうか。
この、誰もが耳にタコができるほど聞かされてきた言葉について、スタンフォードの心理学者らが先日、興味深い論文を発表しました。
私たちは、あまりにも好きなことを見つけろと言われ続けた結果、仕事に対する情熱という考え方自体がすっかり変わってしまっているというのです。この話題が掲示板サイトredditに投稿され、人気を集めています。
Stanford Newsによると、論文執筆者のPaul O’Keefe氏、Carol Dweck氏、Gregory Walton氏は、私たちが誰かに「好きなことを見つけなさい」と言うとき、「好きなことなら楽にできるでしょう」という言外の意味が含まれていると考えています。
それはつまり、何らかの障害にぶつかったらすぐに諦めてしまうことを意味しているのです。
「好きなことを見つけなさい」の問題点
論文ではまず、Dweck氏が作成したマインドセットに関するデータを取り上げています。Dweck氏は過去の研究において、子どもでも大人でも、知的レベルは変わらないと考えている人は、学校で長続きしないことを証明しています。
知識の天井に到達してしまったらどうなるのでしょう。
研究チームは、そんな「こちこち」マインドセットがさまざまなことの足かせになる現象を確認するため、こんな実験を行いました。
最初の実験では、「テッキー」グループと「ファジー」グループに協力してもらいました。スタンフォード用語で、テッキーはSTEM(科学・技術・工学・数学)などの理系トピックに興味を持つ学生、ファジーは文系学生を意味します。
研究チームは両グループに、技術系の文章と人文系の文章を1つずつ読ませました。
その結果、こちこちマインドセットの学生は、自分の関心外の領域の文章に対してオープンでないことがわかりました。
Walton氏は、興味がないことに心を閉ざしてしまうのは危険であると警鐘を鳴らします。なぜなら、イノベーションは異なる世界が融合して初めて生まれるからです。
科学でもビジネスでも、異分野がひとつになったとき、すなわちそれまで無関係と思われていた分野間に新しい関係が見つかったときに、大きな進歩が生まれます。
次の実験では、こちこちマインドセットの人は、関心のある分野内でも自らを制限してしまうことがわかりました。
参加者に、「ブラックホールと宇宙の起源」に関する動画を見せます。それは人を惹きつける内容で、学生たちはすぐに引き込まれたそうです。
その後、同じテーマの難解な文書を渡したところ、ほとんどの学生が興味を失いました。特に、こちこちマインドセットの人はその傾向が高かったそう。
ついさっき魅力的だと思ったものでも、難しくなったとたん、自分はそれほど興味がないと決めつけてしまったのだろうと研究チームは考察しています。
解決策
この問題の解決はかんたんではありません。
夢を追いかけることについて触れた刺激的なInstagramの投稿の数々を、指を鳴らしただけですぐに忘れられるわけではないのです。
文化として浸透している考えを、すぐに振り切れる人はそうそういません。そこで研究チームは、好きなことを追いかけるのではなく、自ら作り出すことを勧めています。
つまり、やることすべてに満足したいと甘い期待をするのではなく、目の前にある仕事をこなすのです。音楽家であればスケールの練習、アスリートであればトレーニング、科学者であれば難解な論文を読むこと。
情熱とは、強くなるために注ぐもの。自ら育むものであり、育ててもらうためのものではありません。Dweck氏は言います。
私の学生はみな、好きなことを見つけるのだとキラキラした目で学生生活をスタートします。それがやがて、情熱を作り出し、その本質を見抜くことに興味が移ります。
そうするうちに、自分や自分の未来が形作られていく方法を知り、最終的に社会に貢献する方法を理解するようになるのです。
好きなことを追求していても、つらい日もあるし、山積する仕事に追われる日や、もうダメだと思う瞬間もあるでしょう。それでも、粘り強く続けてください。
本当に好きなことなら、それだけの価値があるはずです。
Image: Jim Whitaker/Flickr
Source: Gregory M. Walton, Stanford News
Aimée Lutkin - Lifehacker US[原文]