見出し画像

新卒フリーランス、なめてました。

さっきから5分おきに何度もアプリで銀行の残高を確認している。が、全く増える気配はない。当たり前だ、今日報酬を振り込んでくれるはずだった相手は一週間前からぱたりと連絡が途絶えている。何度メッセージを送っても、電話をかけても、つながらない。なんとなく気が付いてはいたけれど、いざこの状況になってみると凹まないわけにはいかない。この仕事のために一ヶ月大学の授業もそこそこに、寝る間も惜しんでデザインの勉強をしながら、やっと完成したパンフレット、すごく喜んでもらえたと思ったのに、まさかの結果だった。


***


私は大学在学中から、フリーランスのデザイナーとして独立するべく少しずつ仕事を受け始めました。デザインの専門学校とかではなく普通の文系専攻だったため、全ては独学でだいぶ遠回りもしました。今となってはちょっと恥ずかしくなるような作品もあったけれど、その時自分の持っている知識は常に総動員してきたし、妥協はしたことがないと思っています。クライアントの要望をできるかぎり形にするべく納得のいくまで作り直し、なんとか納期に間に合わせ、さらに次につながる仕事をしてきたつもりです。

今年の夏でそんなフリーランス生活も4年目に突入しますが、最初から順風満帆なんてことは一切なく、毎月月末にカードの引き落としに怯える生活を繰り返していました。デザイン業は印刷会社への入稿までこちらで済ませることが多いので、クライアントからの報酬の振込と、外注への支払いのタイミングがずれるととんでもないことになったりします。ある程度の余裕がないと厳しいというのに、お金のやりくりがへたくそだった私は毎月月末にバタバタと請求書を整理したりしていました。

最初の一年目なんて本当に酷かった。よっぽど大学時代にアルバイトしていた結婚式場のほうが時給計算したら高かったもん。5000円しかもらえない仕事に丸二日かけたりしてました。でもどうやったらもっと報酬が上がるのかも、もっと作業時間が短縮できるのかも、なんにもわかりませんでした。ただ、「フリーランス」という言葉の響きに酔ってました。笑

***

独立しよう!と決める前から知り合いの会社などから時々、簡単な名刺やパンフレットは頼まれたりしていましたが、それもあくまで大学生が一般的に使えるパワーポイントなどのソフトを使って見よう見真似でなんとか形にする程度。わたしはデザイナーですと名乗る以上、プロと同じ扱いを受けるのだからきちんとしたものをつくっていかなきゃいけない。でもデザイン会社に入るのはなんだか気分が乗らないし、かといって独学でどこまでやれるのか。っていうか就職しなくて本当に大丈夫なのか。

最初の私はコンプレックスの塊でしかありませんでした。就職活動だって、一応一社受けたものの、全然気分が乗らなくて面接の途中から全く違う話を始めて面接官を引かせてしまって落ちてから、もう面倒くさいな、となって放棄。デザイン専門の学校で勉強したわけでもないから、独学でなんとか形にした物をクライアントに納品するものの、自信なんて全くない。だから、まわりの友人から「なっちゃんデザイナーなんでしょ?!今度私の名刺もつくってよ!」と言われたら「うん、いまちょっとたてこんでるからまた連絡する」とかなんとか言ってはぐらかし、ギリギリ生活できるだけの仕事らしいお願いに応え、表では「好きなことして生きてるキラキラな私」を演じ、いったい自分は何をどうしたいんだか全然わからず、それでも周りからの期待に応えたくて、精一杯背伸びをしてきました。

つくったものをSNSで公開しようにも、専門的な知識のなさと根本的な自信のなさから、もし「このひとデザイナー名乗ってるのに大したことないじゃん」とか思われたらどうしようなんていうマイナスすぎる思考に囚われ、それでもお願いしてくれるクライアントには自信ありげに応えるくせに、もしかしてダサいと思われたらどうしようなんて、不安ばかり募っていく。自分の理想と現実の技術差に幾度となくぶつかって落胆して、一度つくったものを何度も白紙に戻し、デザインのいろはが書かれた分厚い専門書が増えていくばかり。読んでも頭には入らず、結局またパソコンに向かって数時間ぼーっと悩む日々。

やっと、最低限の知識がついたと自分で思った直後にまとまった額の依頼がきて大喜びしたのもつかの間、クライアントと自分の間にいた「プロデューサー」なる存在が仕事の途中で報酬を全部持ってドロンし、一ヶ月以上費やしてきた仕事の結果手元に残ったのは、納得いくまで何度も修正を重ねて泣きながらつくったパンフレット。クライアントはすでに報酬を支払ってくれていたので、責任の所在もあやふやで、結局どうすることもできませんでした。

悔しかった。多分フリーランスとして初めて、仕事としてのこだわりを持ってつくりあげたものに対して、全く対価がつかなかったこと。それでもいいやと思われたこと。誰にも相談できなかったし、する気も起きなかったから、ちょっと泣いて寝ました。

***

今となっては最初からうまくいかなくてよかったのかもしれません。それで、「仕事」をすることに対して最低限の勉強をしようと思ったし、きちんとお金が発生する以上自分対しても発生する「責任」を意識するようになったから。

フリーランスを名乗りだしてから、言えないような失敗もたくさんしました。会社に所属していない以上、全ての仕事の責任は一から百まで全部自分です。深夜にクライアントのところまで車で納品しに行った日もあったし、結局間に合わなくて大赤字になりながら街のセルフの印刷屋で大量にコピーした夜もあったし、納品し終わったと思ったらサイズが間違っていて結局ぜんぶ作り直しになったり、そもそも金額の話を最初にきちんとしていなかったがゆえに大量の修正が発生して全然時間と報酬が合わなかったり。安く引き受けすぎて全然手が回らなくなり、外注してみたら全く意思疎通が取れなくて、結局全部自分が直すはめになったり。「なんか適当でいいからちゃちゃっとやってよ」っていう言葉にキレて「だったら自分でやってください!」って電話で怒鳴ってしまったなんてのも笑い話。もう、思い出せないくらいの数の失敗を繰り返して何度もクライアントに電話をかけ頭を下げ、それでも私はフリーランスとして生きてやるんだって半分意地になってました。というか、就職して会社で働くことのほうが自信がなかった。気が付いたら大学を卒業して一年以上経ってしまっていたから、大学をストレートで卒業してきた子たちと並んで研修を受けている自分なんて想像したくなかった、変なプライドとただの心の弱さです。

楽しいことよりもきついなと思うことのほうが正直多かったかもしれないけれど、それでも好きな時間に起きて好きな時間に出かけて好きな時間に仕事ができる毎日は私に合っていました。たまに旅に出て自由を満喫しようと思ったら突然クライアントからクレームが入って移動中に必死でパソコンとにらめっこする、なんてことすら楽しかったんです。

今だって相変わらず失敗はするし納期ギリギリなのに寝落ちして早朝に絶望したりもしているけれど、三年目にして生活をちゃんとさせることができるようになりました。依頼してもらえる仕事の種類も増えたし、単価も上がってきました。全ては過去の失敗のおかげです。

***

だからこそ、昨今の「フリーランス」ブームに一石投じたいんです。フリーランスなめてるとつらいぞ。って。よく「会社辞めたいんです」って相談されるんですけど「辞めない方がいいと思う」って言います。あなたが辞めたあとに食い扶持に困っても私が絶対助けてあげるって約束できないから。

「自由」の後ろにある言葉は紛れもなく「責任」だと思います。時間的な「自由」とか、経済的な「自由」を手に入れるためには必ずどこかに「責任」が発生していて。その責任が見えないように隠された「自由」アピールの幻想に絡め取られて、不幸になる人が増えて欲しくないんです。

フリーランスがダメ、会社員のほうがいい、とか、会社員なんてやめとけ、フリーランスになろうとか、そういう短絡的な話ではなくて。なんでもかんでも自由をアピールするのはいかがなものかというだけの話です。自分がめちゃくちゃそれで失敗してきたから。

ネットに情報がたくさんあって、フリーランスとして生きている人の発信力がすごく強いから、だからこそ、ちゃんと見極めなきゃいけないと思います。会社員がオワコンなんて思わないし、どんな環境であれ自分が納得する形で、得意なことを活かせる社会が一番いいなって私は思っています。私は早起きと満員電車がすごく苦手で、逆に人と話すことと絵を描くことが好きなので今の仕事はかなり合っているけれど、真逆の人だっていると思います。誰にでも合う正解がないから、自分が一番快適に過ごせる時間や場所はどんなものなのかゆっくり考えればいいと思うし、必要のない我慢はしなくていいと思います。

幸い日本なら多少失敗しても法律が守ってくれるから、「明日食えなくなる」という心配はよっぽどしなくてもいいと思います。私も、若いうちにいっぱい失敗しておこうと思って、失敗から学ぶ姿勢は忘れずにいようと思っています。だから、自分の人生に自分でちゃんと「責任」を持って独立を選択肢にいれることは全く否定しません。もしフリーランスになるなら、フリーランスの人たちの失敗談は聞いておくとかなり役に立つと思います。笑

***

えーと、何が言いたかったかというと私、そういえば新卒のときから振り返ったら結構頑張ったんじゃない?ってふと思ったので、ここらで文章に残しておこうと。新社会人一年目の辛さはもう一度経験したくはないけれど、あのとき辛くて辛くて毎日を必死に生きていた私に、今だから言えるよ。

「絶対その経験が未来に生きるから、今は全力で駆け抜けて。」

実はフリーランス四年目の今年の夏から、私は初めて自分以外の人を巻き込んで、自分のお仕事に継続的に関わってもらうことになりました。つまり、一人で全責任を負う立場から、みんなの責任も負う立場にちょっとだけステップアップしたということです。改めて初心を思い出しながら、より一層楽しい仕事をつくっていけるように、これからは仲間と一緒に頑張りたいと思います。

またいつも見守ってくださっているみなさんにあれこれお願いしたり、疲れすぎて飲みに行ったあとにぶっ倒れたり、迷惑をかけたり頼ったり慰めてもらったりすることも増えるかもしれませんが、今以上に見守ってもらえたらとても嬉しいです。


***

新卒フリーランス、四年目がんばります。


中の人のプロフィールはこちらです。

わたしがフリーランスに
なったきっかけはここからどうぞ。
私は旅に出た。君は好きにしろ。




サポートありがとうございます!ありがたく、仕事しながらポップコーンとチョコレート食べます。いっぱい貯まったら、本出します。