個人情報の共有は、オンライン上で各種サーヴィスを無料で利用することの「代償」だと、すでに誰もが気づいている。わたしたちは(決して読むことのない)利用規約に対して「はい」をクリックし、自分の写真や位置情報、「いいね」するものに関する情報の譲渡に同意している。ただSNSにログインするか、あるいは(一見したところ無害な)クイズを受けるためだけに。
それと引き換えに、わたしたちは無料の電子メールや音楽ストリーミング、検索エンジン、クラウド上のストレージを手に入れた。しかし、結局のところその代償は法外なものとなり、ロシアの煽動家やハッカー、わたしたちについて少々知りすぎているように見えるターゲット広告の標的へとわたしたちを変えてしまった。
わたしたちが共有する情報は、より私的なものになろうとしている。事実、何年もの間、企業はわたしたちの心のなかを覗き込むべく「表情」に手がかりを求めてきた。笑顔を認識すること自体は簡単だったが、その笑顔が意味するところを理解するのは、はるかに困難だ。しかしディープラーニングの進歩によって、感情の微妙な変化の徴候を探るプロセスは自動化されてきている。
このため初期の「感情認識AI」が、広告主が商品をより魅力的にする方法を学ぶために実験室の中で使われていたのに対し、いまや企業はこの技術をユーザーに直接用いる準備をしている。
感情の共有は「お得な取引」か?
ユーザーの表情を(キツネやパンダのような)動く絵文字へと変えるiPhone Xの「Animoji」機能を思い出してほしい。この可愛いツールの下で、アップルは50以上の表情筋の動きを分析している[日本語版記事]のだ。一方、Affectiva、Beyond Verbal、Kairos、EmoShapeといった感情認識を扱う企業は、自律走行車やヘルスケア、個人向けロボット、ゲームなどの分野に新たな応用方法を見出している。
理論上、わたしたちは「感情」の利用規約に対して「はい」をクリックするだろう。データを活用すれば、わたしたちが使う製品の体験は個人的な領域を越えるからだ。
そうすればSiriやAlexaは、もっと会話がうまくなるだろう。買い物体験は非常に最適化されるはずだ。これは権利の侵害だろうか? 濫用されるだろうか? もちろんそのはずだ。
ソーシャルメディアの大企業とわたしたちが結んだ取り引きが指し示しているかもしれないのは、わたしたちは感情の共有をお得な取り引きだと考え続けるということだろう。少なくとも、不適切なアプリがわたしたちの頭のなかをのぞき込む日までは。
連載:『WIRED』US版の未来予測
TEXT BY NITASHA TIKU