伝え方 | 戸田和幸オフィシャルブログ「KAZUYUKI TODA」Powered by Ameba

伝え方

  サッカー解説者として臨んだロシアワールドカップが終わりました。
実はTBSでは決勝戦も翌日の朝に録画放送を行うことになっていますが、やはりスポーツはリアルタイムで見てこそエキサイティングなもの。

もちろん録画放送だとしても、心構えは変わることはありませんが。
とはいえ録画放送ですから見る人が大幅に減ることは間違いありません。
間違いありませんが。
翌朝にチャンネルを合わせ、また録画をして見てくれる人がいてくれることを願いながらリアルタイムでの収録に臨むことになります。

昨日のフランスvsウルグアイ戦。

エムバペvsスアレスと銘打たれた前枠が1時間に渡り放送されていましたね。

試合中にも右上に「神童エムバペvs怪物スアレス」というテロップが出ていることを確認しながらのライブ中継となりました。

僕は常々、サッカーとは絶対的にチームスポーツだということを念頭に置いて選手生活を送り、引退後の仕事にも打ち込んできました。

エムバペとスアレスという2人のアタッカーが、世界的に評価の高い素晴らしい選手だということには異論を挟む余地はゼロ、全くありません。

但し。

例えば昨日の前枠をサッカーに詳しくない人が見たとして。
そのままの流れであの試合を見た時に、何を思うのか。
何を感じるのでしょうか。

間違っても、エムバペvsスアレスではない昨日の試合が。
エムバペvsスアレスとなってしまった時に。

前枠から番組を見たサッカーに詳しくない人達は、どんな風にあの素晴らしい試合を見てくれたのか。

ずっと考えています。

この仕事を始めて僕ももう5年目です、テレビにはテレビの論理があるのはだいぶ理解出来るようになりました。

視聴者に視点を与えることの重要性は、CSでも地上波でも大切なのは同じです。

大切なことは。

サッカーの本質と魅力を損なわない事を大前提とした上で、その試合を見た時に理解に繋がる視点を与えられるかが大切だと考えています。

変な言い方にはなりますが。

今まで一度もサッカーを見たりプレーした経験のない人が昨日の試合を見たとして。

何をどうやったとしても、一晩でサッカーとワールドカップレベルの試合について、理解できることはありません。

4年に1度、世界のトッププレイヤー達が。
国を代表して、己の全てを懸けて闘う舞台。

それだけのレベル、想いの強さ、一つ一つの試合に費やすエネルギーの大きさを考えた時に。

僕に出来る事は、実際に行われている事を
可能な限り。
理解に繋がる言葉に変換して、その中継を見ている人達に届けること。

これ以外に出来ることは見当たりません。

ですから僕の立場、解説者として出来ることは。

・サッカーはチームスポーツだということ
・全てのチームに独自のスタイルがあるということ
・個々人が自由にプレーするものではないということ
・その試合特有の闘い方が存在するということ

サッカーというスポーツは、1人の選手が90分行われる試合の中でボールに触れられる時間は2分から3分と言われています。

2分から3分です。

メッシ、ロナウド、ネイマール、エムバペ、スアレス、アザール、デブライネ、ケイン。

こうした、トップレベルの選手達の遥か上にそびえ立つワールドクラスの選手達であっても。

一つの試合でボールに触れられる時間は、多くてもたったの3分です。

サッカーとはそういうスポーツなのです。

その僅か3分の中で、彼等は世界中のサッカーファンを楽しませ、時に気が狂うほどに熱狂させてくれるからこそ、スーパースターと呼ばれるのです。

彼等が違いを生み出す3分があったとして。
その3分の為にその他の選手達、チームがどんなことをしているのか。

そこにこのスポーツの本質が隠されていると思います。

別に複雑な言葉を使わなくとも、如何にしてアルゼンチンが成り立っているのか。
何故メッシは代表でプレーすると、バルセロナの時とは違う選手に見えることがあるのか。

その答えは全て「チーム」にあります。

昨晩のフランスvsウルグアイ戦。

ウルグアイの誇る世界的ストライカー、
ルイス・スアレスは。
90分の試合の中で、一本もシュートを打つことが出来ませんでした。

フランスの未来、おそらくはロナウド、メッシの後に続く選手となると言われているキリアン・エムバペも。
この試合で記録したシュートは。

前半に放ったヘディングでのもの、1本のみです。

チームの絶対的な得点源であるスアレス、今大会素晴らしい活躍を見せてきているエムバペ。

この2選手が90分の中で記録したシュートは。
若干腰砕けになるような、エムバペのヘディングシュートただ1本のみです。

仮に彼等2人がチームの最重要人物だとして。
その背後には確実に「チーム」が存在しています。

そのチームの紹介をせずに、この2人のアタッカーの 
パフォーマンスについて話をすることは。
不可能です。

今回は地上波での放送だということを自分なりに正しく理解し、両チームの闘い方や選手個々の紹介も出来るように努力してみましたが。

サッカーはあくまでもチーム単位で結果を競うスポーツなので。
ピッチに立つ22人の中の、たった2人にフォーカスした話はどうやっても出来ませんし。
逆にサッカーの理解、試合の理解、彼等2人に対する理解から離れていくことになってしまいます。

自分の仕事が日本におけるサッカーの未来に繋がると
いう責任を最大限感じながら、今回の仕事にも臨みましたが。

全くサッカーを見たことのない人に、1度のサッカー中継をもってサッカーを理解してもらうことが出来るはずがありません。

但し、1度見た時のサッカーが。
理解することは出来なくても、「なんか面白そうだな」「足でボールを蹴るだけのスポーツではなさそうだぞ」という気持ちになってもらえたら。

次また見てみようかなという気持ちになってもらえたら。

それで十分だと考えて仕事に臨みました。

常日頃からの僕の仕事を見てきてくれた方達からすれば、随分端折った大雑把な仕事だなと言われることは覚悟しながらも。

背番号、ポジション、名前。
これらをなるべくセットにしながら話すように心掛けたり。
ディテールについて言及し過ぎずに気を付けながら、実際にどんなことが行われているかの話が出来るように努力はしました。

ウルグアイが如何にしてフランスのビルドアップを止めようとしたのか。
それが実はとてもリスクの高い、また難易度の高い守備だったということを詳細に伝えたい気持ちを抑え。

どうにか伝えられる方法がないか模索をしながら話をしました。

自分なりに話す内容と深さに気を付けて仕事に取り組んだつもりですが。

それでも、自分の仕事は地上波には相応しくないという意見はたくさん出たと思います。


今までの良いところは残しながら、今の時代に適したものを届ける中継のスタイルがあると信じて、今回のワールドカップ中継に携わらせていただきました。

既に現地スタッフの方達にはお伝えさせていただきましたが。

願わくば。

前枠の1時間の中で。
5分でいいから、両チームの紹介と。
これから担当する試合に向けての見どころをプレゼンさせて欲しかったなと。

中継の中で、両チームの紹介を行うことは至難の業。

サッカーを初めて見てくれる人達がいるのであれば、尚更丁寧な言葉と理解を促す時間が必要となります。  

今回TBSさんにて機会をいただき、ワールドカップを現地から解説するという素晴らしい仕事を与えてもらいました。

その事については、心から感謝しています。

いち解説者がと言われてしまうことは分かっていますが。
願わくば、せっかくの1時間の前枠の中での両チームの紹介と。

後枠の1時間の中での試合の振り返り。

これをしてみたかったと。

試合前にはそれまでの勝ち上がりの様子、スター選手を中心とした形でよいので、それぞれのチーム構成について紹介しながら、どんな闘い方を選んでくるのかという話を。

試合後には試合映像を使いながら、何が試合を分けたのかについて改めて振り返りを行いつつ。
スーパースターの凄さや、チームが如何にしてスーパースターを支えているのかについて話をする。

こんなことをやってみたかったです。

時間をかけて、丁寧に。
チームから話を始めスター選手までカバーすることが出来たら。

間違いなく、サッカーの楽しさを知ってもらえるきっかけを与えることが出来ると。

確信しています。

今回のワールドカップでの僕の仕事は。

昨日をもって、ほぼ終わりました。

どれだけ多くの視聴者の人達に、この最高に素晴らしいサッカーの大会と。
それぞれの試合の面白さを伝えられたか分かりませんが。

自分自身の志は変えず、今後も日本サッカーに少しでも少しずつ貢献出来るよう。

努力を続けていきます。

とりあえずにはなりますが。
 
日本からお送りしたオフチューブを含め7試合。

TBSの中継を見てくれた視聴者の皆さん、ありがとうございました。

これからも、どうぞサッカーをよろしくお願いします。