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著作権保護期間の20年延長がTPP関連法案成立でほぼ確定、一方で延長は悪手だと示す膨大なデータが公開される


2018年7月現在の日本では、著作権は著作者が亡くなってから50年が経過すると消滅することになっています。しかし、2018年6月29日の参院本会議でTPP関連法案が可決、長年議論されてきた「著作権の保護期間延長」がほぼ確定しました。これに対して、著作権保護期間延長に反対していた丹治吉順氏が、今まで調査で収集したデータを公開しています。

【再掲】著作権保護期間の延長問題で、データをもって論じたのは、国内では私だけだったはずです。数字が語る結論は「延長は文化を振興させるのではなく、むしろ多くを滅ぼす」。にもかかわらず延長が決まり、データも役割を終えました。一つの墓標としてここに公開します。https://t.co/798acyGM5S

— 丹治吉順 a.k.a. 朝P (@tanji_y)


日本の著作権は「著作者が亡くなってから50年経過した年の12月31日」まで持続すると定められています。例えば、2018年1月1日をもって著作権が消滅した著作者には、作家の山本周五郎壺井栄、歌人の窪田空穂、国語学者の時枝誠記などがいます。

公開されたデータは、2007年に丹治氏が、国会図書館蔵書データベースと日本書籍出版協会データベースに基づいて、1957~1966年に亡くなった3674人の著作物の生前・没後・2007年の出版状況を調査し入力したもの。このデータに基づいた丹治氏の研究レポート「本の滅び方―保護期間中に書籍が消えてゆく過程と仕組み」が、「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」で公開されています。

(PDFファイル)本の滅び方―保護期間中に書籍が消えてゆく過程と仕組み
http://thinkcopyright.org/tanji-book.pdf


データと研究レポートによると、死後に書籍が出版される著作者は全体の50.1%とほぼ半数で、残りの49.9%にとっては保護期間そのものが意味をなしていないと丹治さんは指摘します。データを見ると、死後出版点数の平均は10年単位で減少していることがわかり、著作権保護期間の設定は50年でも長い可能性があると丹治さんは主張しています。もちろん著作権が消滅することで絶版だった書籍がすぐに再出版されるとは限りませんが、インターネットの登場によって、流通や製版など書籍化にかかる費用をほぼ削減し公開することも可能となっています。


丹治氏は一例として、無頼派作家・田中英光の「オリンポスの果実」を挙げています。「オリンポスの果実」は2007年当時ほぼ絶版となっていたにも関わらず、著作権が消滅して青空文庫に掲載されたことで新たな読者を獲得、2006年には青空文庫の作品ページには1年で3835件のアクセスがあったといわれています。日本書籍出版協会データベースによれば、2007年当時に田中英光の作品はすべて絶版となっていたとのことですが、この後田中英光が再評価され、2018年7月時点には新たに2冊の作品集が刊行されています。

また、没後の出版点数を見ると、2007年当時入手可能だった著書の75.1%が、出版点数の多い著書の上位5%に占められていることがわかりました。つまり、極めて有名でなければ死後の出版は絶望的であり、忘れ去られてしまう可能性が高いということを示しています。


丹治氏が示したようなデータがほぼないまま議論が進んだ結果、既にTPP関連法案が成立し、TPP11が発効すると同時に著作権保護期間の延長が日本でも施行されます。ヨーロッパやアメリカにあわせる形で著作権保護期間が70年に延びてしまいますが、ヨーロッパやアメリカで著作権の保護期間が70年に延長したのはインターネットが商用利用されていない時代のものであり、既にインターネットが普及した現代とは著作権を巡る前提条件が根本的に異なっている、と丹治氏は指摘しています。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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