ゲノム編集技術「CRISPR」が、感染症の流行を抑止する:『WIRED』US版の未来予測(4)

テクノロジーに関する『WIRED』US版の未来予測、第4回のテーマはゲノム編集技術「CRISPR」。がんをはじめとする難病の治療に期待されてきたこの技術が、実は感染症などの検査や抑止に導入される日が先に近づいている。
ゲノム編集技術「CRISPR」が、感染症の流行を抑止する:『WIRED』US版の未来予測(4)
IMAGE BY SAMMY HARKHAM

ゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)」の短い歴史のなかで、遺伝子編集による病気の治療以上に注目された用途はない。CRISPRはがんと闘い鎌状赤血球症を治療する[日本語版記事]ことが期待されており、ヒトを使った試験が始まったばかりだ。

しかし、これらは最初の医療への応用事例とはならないだろう。その栄誉は、家庭での妊娠検査に似た診断法に与えられることになる。それは尿や唾液や血を乗せると、ウイルスに感染しているか、あるいはどの遺伝子の突然変異がガンを引き起こしているのかわかる──というものだ。

DNAを切り離し、遺伝物質を挿入または除去する非常に精密なCRISPRのテクノロジーは、特定のゲノムにのみ存在する遺伝子配列を標的とするようプログラムできる。少し処理を加えれば、このシステムは「おい!ここにデング熱があるぞ!」と知らせる信号を放つことだってできる(あるいはジカ熱にも使えるし、理論上は薬物耐性ブドウ球菌にも使える)。

感染症の抑制にも効果を発揮する

CRISPR研究の先駆者であるジェニファー・ダウドナと張鋒(チャン・フェン)は、それぞれCRISPRの診断能力を明らかにする論文を2017年から発表している。現在彼らのグループは、こうした検査を商品化しようとしている。これらの検査は一般的な検査手法よりも精度が高く、結果が数時間で明らかになり、どれも非常に安価な手段となる見込みがある。

ダウドナは4月、検査の試作を始めるMammoth Biosciences[日本語版記事]を立ち上げるべく研究グループに参加した。同社は液体生検の企業と提携してガンの突然変異を解析しようとしているが、最終的にはCRISPRの検出能力を農業や工業分野にまで拡大しようと目論んでいる。

チャンのグループは、自らの「Sherlock」と呼ばれるシステムを感染症の安価な検査として発展途上地域にもち込むライセンス戦略を模索中だ。18年の終わりには、最近ラッサ熱が流行しているナイジェリアで国際試験が始まる。

コンピューター遺伝学者のパーディス・サベティらが所属するウイルスハンターグループは感染症を追跡しており、願わくばいつの日か、現地の保健衛生当局が同様の流行を抑制するためにこれらの検査を利用できないか計画しているという。

これはCRISPRによる治療ではない。しかし、CRISPRが人の命を救う初めての出来事になりうるだろう。


連載:『WIRED』US版の未来予測


TEXT BY MEGAN MOLTENI