【更新あり】なぜオウムが密造した自動小銃は品質が悪かったのか?→ノウハウや技能を盗むのは非常に難しいからです

こと工業の世界においては、デッドコピーも簡単ではないようです。 ※サムネはオウムのそれとは関係ありません
660

事件の概要

 1992年、オカムラ鉄工という会社がオウム心理教に乗っ取られる事件がありました。
 その会社が倒産した際、社内にあった工作機械が持ち出され、AK-74のコピー品を製造するために利用されました。
(画像→https://www.jiji.com/jc/d4?d=d4_mili&p=ojk428-jlp05755197)

 しかし、密造発覚後に押収した銃を科捜研が検証したところ、「すぐ弾詰まりを起こす」などの欠陥が多数見つかりました。

 銃器の密造は世界中で行われており、AK-74もその例には漏れません。オウムにもその時十分な設備はあったはずなのに、なぜうまく作れなかったのか――

有馬桓次郎@1日目南め20a @aruma_kanjiro

オウムの密造AKは頭の良い連中が集まって結局モノにならなかったんだけど、だとすると今時どこの町工場でも使ってないようなショボいボール盤や旋盤でAKやM4の模造品を大量生産しているパキスタン・ダッラやフィリピン・ダナオのガンスミスはどんだけ凄いんだっていつも思う pic.twitter.com/0AoS1SuJ5u

2018-07-08 13:55:17
拡大
拡大
拡大
拡大

みなせ氏による解説

みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

機械設計や金属加工は、科学・技術を先端先端に掘り進めていくような物ではなく、どちらかというと、ノウハウとか技能がものをいう世界。 そうすると「頭の良さ」よりも「経験」が重要なので、オウムが自動小銃を作れなかったのは、そこが原因なんだろうなぁ、と。 twitter.com/aruma_kanjiro/…

2018-07-08 15:13:26

ここから、部品一つとっても、次の要素を考慮しなければならない……といった解説に入ります。

  • 材質
  • 表面処理
  • 加工法
  • その他特記事項
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

「AKの実銃を入手して、コピーを試みました」 ここにリバースエンジニアリングの難しさがあるんだよね。 各部品の寸法がわかっても、実物からでは寸法公差がわからないのよ。 ある部品の長さが12.68mmだったとするじゃん? これが設計上「12.7±0.05」なのか、「12.5±0.2」なのか、わからないのよ。

2018-07-08 15:17:32
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

経験があれば、ある程度推測できるけどね。 次に、材質が何かわからない。 例えば、アルミの部品があったとしよう。 日本のアルミの材質規格は、板材だけで50種類以上。ここに数十種類の熱処理の規格が掛け合わされる。 膨大な選択肢の中から、何が使われたのか、解析するのはとても難しい。

2018-07-08 15:23:01
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

アルミの規格材だけでこうなる。 これが小ロットの独自材質(銃だとまれによく見る)とかだと、お手上げですね。 材質の成分分析を行って成分を割り出し、硬さや比重、結晶構造から、加工法を分析するには、それはそれは大変なの。

2018-07-08 15:26:27
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

次に、表面処理の問題があるの。 よく「クロムメッキされた銃身」とかって聞くよね。あれよあれ。 あれも、現物から割り出すのはとても大変なの。 表面処理は、潤滑改善、防錆、硬度の向上、寿命延長etc 様々な役割を持ってるの。これができないと、うまく機械は動かない。(場合がある)

2018-07-08 15:30:06
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

「テフロン加工の鍋のつもりで、鉄板の鍋でカレーを温めたらどうあるか?」というのがわかりやすい例だと思う。 自動小銃の場合、摺動がうまくいかないと、ジャムって終わりなの。 あるいは、「ガッ」って撃針が引っかかって途中で止まるか。

2018-07-08 15:32:48
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

次に加工法の問題があるの。 基本的に、切削加工はもっとも自由度が高く、かなり自由に形が作れるの。 だからと言って、全部それじゃダメなのよ。 「鍛造」で作られた部品を、切削で再現すると、悲劇が起こるの。

2018-07-08 15:35:39
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

切削加工は、金属の塊から、部品を削りだす加工方法。 それに対し、鍛造は、金属を超強力なハンマーで叩いて、形を作る加工法。 出来上がったものの強度が、まるで違うのね。 もちろん、ハンマーで叩いて加工したほうが、一般的に強く硬い物になるのよ。 (これを加工硬化という)

2018-07-08 15:38:41
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

そして、設計意図より弱い部品がどうなるかは…… 使用状況と部品の役割によって一概には言えないけれど、たいていはあまり良い結果をもたらすことはないのね。 PL法に則った壊れ方 = 「人を傷つけたり、何かを壊す前に、製品そのものが故障」してくれれば良いねって思う。

2018-07-08 15:41:31
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

最後に、特に注意すべき特記事項があるの。 一概に何があるとは言えないけど、 例えば、ある種の航空機用リベットは、使用直前まで冷却状態で保存しないと使い物にならない、というのがあるの。 そういう特記事項を無視すると、例えばリベットなら、きちんと固定ができなくなる、という悲劇を生むの

2018-07-08 15:47:36
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

こうした感じで 材質 表面処理 加工法 その他特記事項 最低限でも、こういう部分を押えないとね、

2018-07-08 15:49:34

 部品一つとってもこうなので、当然「銃」などの複雑な物体を生み出すにはかなりの労力を要します。
 ただ、一応抜け道は存在するようで……。

みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

んで、この辺のところを抑えずに物を作るとどうなるか? 形にはなるでしょう。 ですが、マトモに動かないでしょう。 というのが起こります。 オウムの自動小銃は、まさにこれ。

2018-07-08 15:51:28
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

じゃあ、どうすればよかったか 「銃を作りたいけど、ノウハウがないよ~ 助けてどらえもーん!」 「ドラえもんなんかいねーよ、バカ!」 って状況なんですよね。 答えは簡単、ドラえもんを連れてくりゃいいんです。

2018-07-08 15:53:58
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

「ノウハウがないからできない」→「ノウハウがある人間を連れて来よう」 ってやつ。 少なくともオウムは人材面では余裕があり、特にロシアなんかにも勢力を広げていたわけですから、そこから人を連れてくるというのは、自前でノウハウを蓄積するより、短い時間でできたんじゃないか、と思います。

2018-07-08 15:58:11
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

少なくとも、比較検討はずべきでした。 ・自前でノウハウを作る(技術開発を行う) ・よそからノウハウを引っ張ってくる どれがいいかは、目標と金と時間とツテ、それぞれ質と量に依存するので、どれが良いとは一概には言えません。が、比較検討して取捨選択するのが、合理的なのです。

2018-07-08 16:00:30

ゆえに

みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

CADデータだけで物ができると思てる方、技術者でもたまにいます。 ですが、これは限られた状況でのみ、成立する話です。 特に複雑な構造をもつものだと、特に成り立たないです。

2018-07-08 16:33:10
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

いくつか理由があって ・図面に不備があった/図面が完ぺきではない場合 ・メーカから技術的問い合わせが来た場合 ・加工困難部分での設計変更要請が生じた場合 ・製造品の検査の合否判定基準を求められた場合 これらは図面だけではどうにもなりません。 これらは設計―現場間でよくあるやり取りです

2018-07-08 16:37:32
みなせ ★C103_31(日)_東_サ-13ab @Ton_beri

むろん、簡単なものだけであれば、図面だけでもなんとかなるでしょう。 しかし、複雑なものほど、設計―加工現場とのやり取りは必須です。 これをなくすことは、理論上は可能でも、事実上は不可能です。 「デバッグしなくて良い、複雑なプログラム」が存在するか? と考えるといいかもしれません。

2018-07-08 16:40:18