生き物

人は切断された四肢を再生する能力を覚醒させることができる、という可能性がウーパールーパーの研究から示されつつある

by Tambako The Jaguar

メキシコサンショウウオ(ウーパールーパー)はペットとして愛されたりから揚げの材料にされたりでおなじみです。ウーパールーパーは四肢を切断しても元通りに再生するという驚異の再生能力を持っていることから、研究対象としても扱われています。ウーパールーパーの研究を進めることで体の一部を失った人の治療はもちろんのこと、ガン治療にも大きな影響を与える可能性があるとみられています。人間の再生能力を覚醒させるかもしれないウーパールーパー研究の現状について、サイエンス系メディアのQuanta Magazineがまとめています。

Axolotl Genome Slowly Yields Secrets of Limb Regrowth | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/axolotl-genome-slowly-yields-secrets-of-limb-regrowth-20180702/


ウーパールーパーの持つ治癒力・再生能力は人間のそれとは全く異なります。人間が傷を負った場合はマクロファージによって即座に傷跡が作られ組織の再生は行われません。一方でウーパールーパーの体ではマクロファージが死んだ細胞を取り込むのに加え、幼胚の細胞集団である「芽体」が切断された腕や心臓を再生するのに一役買います。そのため、ウーパールーパーは肩から切断が行われた時は腕全体を、肘から切断された時は前腕と手を、手首を切断された時は手だけを再生します。

ウーパールーパーの研究を続けることで、人間の再生能力を覚醒させることも可能かもしれない、ということで現在も研究が続けられています。


ウーパールーパーが研究対象になった歴史や、個体数の減少が危惧されている理由については、以下の記事から詳細を読むことができます。

人間が手足を切断されても再生できるようになるには「ウーパールーパー」を救うことがカギとなる - GIGAZINE


生き物のゲノムの配列を読むためには、科学者はDNAを断片化し、その後、ジグソーパズルのようにそれらを組み立てていく必要があります。ウーパールーパーのゲノムはヒトゲノムの10倍以上にあたる320億塩基対であり、あまりの数の多さから近年になるまで解読が行われていませんでした。しかし、コンピューターの力や最新アルゴリズムなどによって技術が大きく進歩したことから、2018年にはドイツなどの国際研究チームがウーパールーパーのゲノム解読に成功しました。これまでに解読された生物のゲノムでは、最大のものだそうです。

◆ウーパールーパーのゲノムはどのように医療に役立つのか?
ウーパールーパーのゲノムが解析されたことで、「どのようにして動物は体を再生させることができるのか?」という問いに対する答えに一歩近づいたといえます。しかし、ウーパールーパーの体を再生させる特殊な遺伝子はわかったものの、それを例えば人間に適用させたときに、人の体がうまくコントロールされるのかどうかはまだわかりません。ウーパールーパーのゲノム解析を行った研究チームの一員である、分子病理学研究所のElly Tanaka氏は、「論文は単にゲノム配列をほかの研究者に示しただけのものであり、再生を行うゲノムを理解するための本番は今から。これには数年を要するだろう」としています。


一方でTanaka氏は「四肢の再生において、人間にはないと思われる比較的数多くの遺伝子がウーパールーパーには見られる」と述べており、これらの遺伝子の調査は、再生能力の理解へと続く「成功への道」かもしれないとのことです。

ウーパーパーのゲノム研究が新しい時代に入ったことを受けて、2018年夏に世界中のウーパールーパーの研究者がオーストリアのウィーンに集まることになっています。ゲノム配列やその他のリソースをどのように使うかや、ウーパールーパーの研究に新しい研究者を配属させることなどが話し合われる予定とのこと。ノースイースタン大学のJames Monaghan氏は「2つのゲノムアセンブリが可能であり、さまざな研究施設で分子ツールも開発されています。このゲノムは本当に、スタート時点のゲートに立ったところなのです」2018年7月現在の状況を語っています。

Monaghan氏は、ウーパールーパーの網膜を研究することにより、老化により衰えた人間の目に施す幹細胞治療に役立てようとしています。また、ウーパールーパーは肺の再生の速さが、人間の肺の治療に役立つともMonaghan氏は考えているとのこと。このほか、ウーパールーパーの四肢の再生においてどのタンパク質が重要なのかを明らかにすることで、切断手術を受けたマウスの治癒反応を測る指標を作った研究者もいます。この研究は最終的に、四肢切断を余儀なくされた患者のうち、どの人が回復するかを医師が予測する助けになる可能性があるとのこと。

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さらに、ウーパールーパーの再生組織はガン細胞と似ている点が多いことから、ウーパールーパーの再生された四肢の組織環境が、どのようにして細胞をコントロールしているかを研究することで、ガン細胞の周囲の環境をコントロールし「通常通りに振る舞うこと」を強いることもできる可能性があるそうです。ただし、「組織の再生」と「ガン」の間につながりがあるという事実は、悪い方向に捉えることもできます。頻繁に四肢を再生させることが、発ガンのリスクを高める可能性も考えられるためです。しかし、この点についてハーバード大学医学大学院の准教授であるJessica Whited氏は「興味深いのは、ウーパールーパーは体を再生させてもガンになることがほとんどないということです」「一方で、人間は常にガンにかかっています」と述べました。

実際に、1952年に科学者のCharles Breedis氏が500匹以上のイモリの腕に発ガン物質として知られるコールタールなどを注入するという実験を行いました。イモリとウーパールーパーは同じ両生動物で、イモリもウーパールーパーど同様に再生能力を持ちます。実験の結果、500匹のうち腫瘍ができたのは2匹で、残りのほとんどは「追加の腕」を生やすという反応を示したとのこと。発ガン性物質がなぜこのような反応を生み出すのかを理解すれば、ガン治療の分野に大きな影響をもたらすはずです。

なぜウーパールーパーが再生能力を進化の過程で身につけたのか、あるいは他の動物がなぜ進化の過程でこの能力を失ったのかはわかっていません。多くの研究者は、再生能力は「多くの動物が進化の過程で失ったもの」であるとしていますが、一方で古代の生物が持っていた「尻尾の再生」との関係に着目している研究者もいます。ただし、尻尾の再生は体の軸の延長線上で起こることであり、ウーパールーパーのような「四肢の再生」とは別物であるという見方もあります。

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もし、古代の生物の多くが再生能力を有していたのならば、その子孫ある私たち人間が持つ「遺伝子の引き出し」の中にヒントがあるかもしれません。四肢の切断を余儀なくされた人の中には、神経繊維の成長がコントロールできずに神経腫という腫瘤ができてしまう人もいます。これは再生能力の名残ではないかという見方もあるとのこと。Whited氏はこれまでの研究から、人間は、2018年現在認められている以上の再生能力を持っていると考えており、体を適切な状態に置けば、再生能力を用いていつの日か四肢を再生できる可能性があると見ています。

上記の可能性は他の研究者も同意するところであり、Tanaka氏も可能性を排除していません。「それがどれだけ複雑なことであるのかを理解するのは、少し難しいのですが」と前置きしつつも、人間の再生能力を覚醒させる研究は「努力する価値のあることだと考えています」とTanaka氏は語りました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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