自動化による失業、どこまで進むのでしょうか。
人間のような自然な会話でレストランなどの予約を入れてくれるAIアシスタント、Google Duplex(以下、Duplex)はその性能の高さで、Google I/Oにいた多くのプレス陣を驚かせました。テクノロジーに疎いユーザーでも簡単にAIを使って日常の作業を簡単にしてくれる点で真に画期的な技術として、注目の的になったのです。
ただ、Google I/Oでは語られなかったのが、Duplexをコールセンター側で活用する可能性について。The Informationが報道したところによると、GoogleはDuplexを使って、人間のように聞こえるAIアシスタントをコールセンターやテレマーケティングに配置する実験を行なっているとのこと。もしもこれが実現すれば、世界中で何百万人という人たちの職に大きな影響を与えることが確実です。
The Informationは、Googleのこの計画の情報を握っている関係者の発言を引用し、GoogleはすでにDuplexを活用するクライアントの少なくとも一社と交渉に入っていると伝えています。クライアントの名前は明らかになっていませんが、どうも大手保険会社とのこと。AIの音声アシスタントを活用したシンプルなカスタマーサービスの電話対応をさせることを計画しているようです。
噂のいっぽうGoogle側は否定
Googleの広報担当者はこの件に関して、米Gizmodoに次のようにコメントを回答しています。
私たちは現在、企業における活用よりも一般ユーザーの助けとなるような、Duplexテクノロジーのコンシューマー活用事例に集中しています。企業クライアントとDuplexを実験するということは行なっていません。
Duplexのデザインは非常に特定の事例に特化したものとなっており、現時点ではレストラン、ヘアーサロンの予約、祝日の営業時間確認といった機能を一部の信頼関係のあるテスターと試しています。この実験を適切に行なうことは我々にとって非常に大切です。そして試験運用からのフィードバックと学習内容を取り入れる中で、時間をかけて慎重にアプローチすることを重要視しています
と、企業クライアントにDuplexを売る予定はない、という内容になっています。パブリックに向けては認めないということなのでしょうか…それともThe Informationの報道に、何らかの間違いがあるのでしょうか。
Googleがもしも自動コールセンターを実現することができれば、それは非常に巨大な収益を生むことになるでしょう。リサーチ企業ResearchAndMarketsの予測によると、クラウドベースのカスタマーコールセンターは2022年までに210億ドルのマーケットに拡大するとのことです。ちなみに2017年の時点で68億ドルとなっています。成長の早さがよく分かりますね。
Google Duplex導入時の懸念
マーケットが拡大する中で、競争も激化するのは確実です。コールセンター業務に参入が予想されるのはGoogleだけではありません。昨年、Amazonは電話や文字メッセージ経由での質問に回答することに特化したバージョンのアレクサを販売開始しています。IBM、Microsoft、シスコといった企業もこの分野への参入を睨んでいるとThe Informationは述べています。
これらの企業がコールセンター分野で巨額の利益をあげる一方で、確実に発生するのがカスタマーサービスにおける失業です。現在では大企業はこういったコールセンター・サービスは賃金の安い国へと委託しているため、このようなAIサービスが普及することでフィリピンのような国の労働市場は大きな影響を受けるでしょう。The Wall Street Journalによると、フィリピンには推定120万人のコールセンター労働者がいるそうです。
AIによるカスタマーサービスがさらに普及するために一番大事なのは、精度の向上でしょう。アメリカではすでに企業のカスタマーサービスに電話をすると、ロボット音声につながることは珍しくありません。ですが、2015年に行なわれたThe Conversationの調査によると、90%の回答者がカスタマーサービスに電話をかける時は人間と話すことを望んでいるとわかっています。10人に8人は自動音声の部分をとにかく飛ばして、いちはやく人間と話そうとするとのこと。「インタラクティブな音声反応システム」に満足していると答えた人は、全体の10%に過ぎませんでした。
AIの音声と倫理観の問題
Google Duplexによって、こういったカスタマー関連の会話がこれまでより自然になるかもしれません。「um」や「uh」といった、日本語の「えーっと」などに当たる言葉を挿入することで、まるで本物の人間のような印象を与えてメディアを驚かせました。
人によってはDuplexに対する反応も違ってくるでしょう。Duplexの自然さを逆に「怖い」と感じる人もいるようです。またAIが人間のフリをすることに対して倫理的な懸念を持っている人もいます。
こういったバックラッシュの結果、Duplexは通話相手に自分がAIであることを伝えるようになる、とGoogleは発表しました。今後も、倫理的な要素はDuplex関連のビジネスにつきまとってくるでしょう。The Informationによると「倫理的な懸念」がDuplex技術のデモンストレーションの後に広がっており、この影響でコールセンター活用を考えている企業もためらっている、とのことです。
Image: Tyler Olson/Shutterstock.com
Source: The Information, The Conversation, The Wall Street Journal, ResearchAndMarkets, engadget
AJ Dellinger - Gizmodo US[原文]
(塚本 紺)