Wikipediaイタリア語版、存続の危機に対し怒りのブロック攻撃!

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  • author Kaori Myatt
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Wikipediaイタリア語版、存続の危機に対し怒りのブロック攻撃!
Image: Gizmodo US/Wikipedia

あのWikipedia、存続の危機に瀕していました。

その理由は、インターネット全体を危機的なカオスに陥れるかもしれないと危惧されている欧州議会法務委員会によるEU著作権指令(EU Copyright Directive)。法案に対する投票のゴーサインを受け、この法案が通ったあかつきには存在自体が危ぶまれることになるWikipediaが、決死の対応としてイタリア語版のサービス提供を完全ブロック、イタリア語版全ページで抗議文を表示する事態となっていました。

EU著作権指令の問題点

この指令が得票し、実行されることになったらどうなるのでしょうか。著作権を理由にニュースが監視・抑圧される、面白おかしいミームが作れなく(作っても公開できなく)なる、結果的に大企業が優遇されるようになる、革新に抑制がかかるなど、さまざまな弊害が予想され、今、学識者や業界人を大きな不安に貶め、悩ませています。

2001年の施行以来初の改正であるEU著作権指令。どんどん身近になっていくインターネットの世界で著作権をどう規制していくか、その動向は大きく注目されています。そしてテックエキスパートたちからはこの指令を問題視する声が聞こえています。

Wikipediaの創設者であるジミー・ウェールズは、ハイテク企業の先駆者たち100社とともに立ち上がり、欧州委員会で投票権のある人たちに良識ある投票を呼び掛けています。参加企業にはインターネットの父・ヴィントン・サーフやWorld Wide Webの発明者・ティム・バーナーズ=リーもその名を連ねています。

EU著作権指令の中でも第13条はその必要要件があいまいであり、なんとウェブ上の20パーセントもの人気の動画・コンテンツプラットフォームに著作権作品が投稿されないようなフィルタリングシステムを導入しなくてはならなくなる、というハチャメチャな内容。

それから「リンク税」あるいは「スニペット税」と呼ばれる第11条も問題視されています。読者をニュース配信会社の元ページへと導くことがその目的と謳われてはいるものの、記事をリンクしたりその記事のスニペット(編注:断片、一部)を使用した場合に税を課すというものです。

いずれの条項も、現在私たちが知るインターネットの機能性そのものを根底から変えざるを得なくなる恐れがある、といいます。また活動家たちは当初からフェアユース(※)に依存しているオンライン百科事典の存在自体が危ぶまれることについても警告しています。

※編注:著作権者の許諾なく著作物を利用しても、分量や用途といった基準に照らして公正な利用に該当する場合は、著作権侵害に当たらないとする。米国の著作権法において、著作権侵害に対する抗弁事由として認められている。

「インターネットのオープン性」が脅かされうる

2018年7月3日、Wikipediaイタリア語版は全ページにわたってEU著作権指令の弊害を啓蒙する文面を、各ページのかわりに表示してその重大性をアピール(編注:強調は原文ママ)。

2018年7月5日、EU議会の総会ではEU著作権指令を進めるか否かの投票を行ないます。これが承認されれば、インターネットのオープン性が大きく脅かされることとなり得るのです。

著作権法の改正でなく欧州指令を定め、情報社会に棲息する市民すべての参加を促進するならば、インターネット上の自由が脅かされ、ウェブにはアクセスの障壁が立ちはだかり、フィルター規制が乱立してしまいます。このまま草案が承認されてしまえば、ニュースをソーシャルメディアでシェアしたり、検索エンジンで検索してそれを見たりことすら不可能になってしまい、Wikipediaは存続の危機にすらさらされます。

これまで説明してきたとおり、この規制の最大の問題は内容があいまいにしか書かれていないことであり、規制をどう施行していくのか、細かい部分が決められていないことにあります。

たとえば、ウェブサイトが適切な措置を講じて著作権保護素材がアップロードされるのを監視する「効力のあるコンテンツ認識テクノロジー」を施行することについては、その意味・意義には触れられておらず、ただすべてのプラットフォームに、ユーザーがアップロードしたコンテンツがウェブサイトに掲載される前に、YouTubeのようなアルゴリズムフィルタをかける必要が生じるのではないかという推測を余儀なくされるばかりなのです。

この法案が、インターネット百科事典の運営を不可能なものとする恐れに対し、議員たちはこういったプラットフォームに特例を設ける動きを見せてもいます。あまりにもゆるく書かれだらしない法案を危惧するあまり、Electronic Frontier Foundationのような運動家は、オンライン百科事典が危機的状況に置かれているその理由について、警鐘を鳴らしているのです。


幸いなことに、7月5日の法案採択の投票結果は否決。法案は見直しのために委員会に差し戻され、9月に改めて投票が行なわれると予想されます。

なお、スペイン語版も一時ブロックされました。現在ではすべてブロックは解除されている模様です。



Image: Wikipedia

Rhett Jones - Gizmodo US[原文
(Kaori Myatt)

2018年7月12日:指摘を受け、「イタリア版」「スペイン版」を「〜語版」と修正いたしました。