この2年というもの、アメリカでは「憲法の危機」という言葉が話題にのぼる機会がずいぶん増えました。
イスラム教徒に対する入国禁止令、子どもを親から強制的に引き離す移民収容所の施策など大統領が変わってから、アメリカ合衆国憲法は危機に瀕していると指摘する声が一部からあがっています。
しかし、「憲法の危機」とはいったいどういう意味なのでしょう? 憲法が危機に陥ると、どんなことが起きる恐れがあるのでしょうか?
日本には直接的な影響はないかもしれませんが、今アメリカで起きようとしている変化は知っておいて損はないでしょう。
この記事では、この言葉について知っておくべき基礎知識を解説します。
憲法の危機とは?
実際には、「憲法の危機」はやや曖昧な概念で、厳密な定義はありません。その意味では、「燃え尽き」や「ノイローゼ」に近い言葉と言えるでしょう。
とはいえ、政治学者や弁護士のほとんどは、この言葉の意味するところを知っているはずです。
憲法の危機とは、ある国の憲法が、差し迫った問題(紛争や法的問題など)を明確に解決することができない状態を指します。こうした危機が起きる原因は、以下のようなカテゴリーに大別されます。
- 特定の問題について、憲法がまったく触れていない。
- 憲法の文言が不明瞭で、さまざまな解釈が可能である。
- 憲法が指示している内容が、実行不可能、あるいは今の時代にそぐわない。
こうした状態にある場合を憲法の危機といいます。
ルールができるまで続く
わかりやすい例で説明しましょう。
友達と一緒にボードゲームで遊んでいる時に、イレギュラーな事態が起きたとします。ルールブックにはこうしたケースが触れられていないか、曖昧な言葉でしか説明されていません。
憲法の危機もこれと同じ状態です。
一人ひとりが、このゲームをどうプレイすべきかを自己流にルールを解釈しているため、参加者間の議論はヒートアップしがちです。
また、中には自分の解釈をほかの参加者に押しつけ、自分に有利な展開に持ち込もうとする人も出てくるかもしれません。
こうした状態は少なくとも、参加者全員がルールブックの修正に同意し、独自ルールを導入して既存のルールの穴を埋め、誰にとってもフェアなルールブックが完成するまで続きます。
昔にもアメリカには憲法の危機があった
聞き覚えがあるかもしれませんが、こうした危機の中でも最悪の事態は、対立する人たちの中の誰かが妥協を拒否し、解決に至る道が閉ざされたケースです。
こうした人は自分にとって有利なのを良いことに、既存のルールの抜け穴を突き続けるか、プレイするのをやめてゲームを不成立に追い込むか、最悪の場合はかんしゃくを起こしてゲームボードやテーブルをひっくり返してしまいます。
憲法の危機にも同じことが当てはまります。
とはいえ憲法の場合は、ゲームよりもはるかに重要な問題ですし、国全体に適用されるとなれば、影響が及ぶ範囲もかなり大きくなります。
こうした危機が内戦という形であらわになったのが、アメリカの南北戦争でした。
この時は南部の数州がアメリカ合衆国からの脱退を宣言しましたが、当時の合衆国憲法には、各州が合法的に脱退できるか否かについて、明確な規定がありませんでした。
それでも、連邦政府は「脱退は認められない」の回答を突きつけたため、これらの州はテーブルをひっくり返し、内戦に至ったというわけです。
最悪のケースは政府が機能不全になること
とはいえ、憲法の危機が必ずしも内戦に至るわけではありません。ほかにもいくつかの道が考えられ、その1つが行政のまひ状態です。
この場合、政府は手詰まり状態になって機能不全に陥り、最終的には崩壊します。また、政治の合法性が徐々に損なわれ、政府が国民からの信頼や信用を失うというルートをたどることもあります。
これは「憲法の腐敗」と呼ばれます。
そして、もう1つ重要な点として、憲法の危機は反乱や革命、クーデターとは異なることも指摘しておきましょう。
これら3つのケースは、現政権とは異なる党派が、政府の統治権を直接的な手段で奪おうとするものです。
また、これらの政変は突然起きることが多いのも特徴です。そうしたものとは違い、憲法の危機は徐々に起こる変化で、一般市民には気づかれないことさえあります。
さて、今後のアメリカの憲法はどう変わっていくのでしょうか?
Image: Savvapanf Photo/Shutterstock.com
Source: Google, Wikipedia, Five Thirty Eight, NPR, SSRN
Patrick Allan - Lifehacker US[原文]