小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第859回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ミラーレスの手ブレを強力補正、小型化したDJIのジンバル「RONIN-S」

RONINブーム?

 映像機器における海外製品のネーミングセンスには時折理解不能なものが出現するが、その先陣を切ったのはやはりオーストラリアのATOMOSだろう。Ninja、Shogun、Sumoあたりは強そうな職業・階級という理解はできるが、Roninとなるともはやそれは職業とは言いがたい。むしろ無職である。

DJI RONIN-S

 まあおそらく「7人の侍」あたりのイメージなのかもしれないが、Dual RoninsとかRonin Duoなるワードがサイトにあると、日本人ならちょっと笑ってしまう。

 そんなATOMOSのRoninはフィールドレコーダだが、DJIにもRONINなる製品群がある。DJIはご存じのように元々ドローンのメーカーだが、空撮に必要なジンバル技術を切り出して、撮影専用モデルを多数輩出している。

 RONINはDJIにおける撮影用ジンバルのプロ用ラインナップだ。初代RONINはT字型の両手持ち大型ジンバルで、その後RONIN-M、RONIN-MXとマイナーチェンジした。新型のRONIN 2はさらに大型のカメラが搭載できるよう強力なモデルとなり、2017年4月のNABで発表された。

NAB2017で発表されたRONIN 2

 DJIのジンバルは、大型化するのと逆方向に、小型化も進めているのはAV Watch読者諸氏ならご存じだろう。スマートフォン用ジンバルOsmoシリーズは、本連載でも新作が出るたびに取り上げている。

 今回ご紹介するジンバルは、Osmoシリーズではなく、プロ用ラインナップRONINシリーズで最も小型となる「RONIN-S」だ。

 これまでDJIのジンバルは、それこそ映画機材を載せるための大型機か、スマートフォンを載せる小型機しかなかった。普通のデジタル一眼やミラーレスを乗せる程度の中型ラインナップが存在しなかったのだ。RONIN-Sは、そのジャンルをカバーする製品となる。

 ミラーレスカメラ用ジンバルは、日本ではそれほど注目されていないジャンルだが、中国・台湾あたりの通販ショップを覗くと、製品が非常に多いことがわかる。相場としてはだいたい4万円台から8万円台といったところである。

 そんな中、プロ向けのDJI RONINシリーズがこのジャンルに入ってきたことで、業界的には戦々恐々としているところである。価格的には92,800円(税込)と、同ジャンル製品の相場より1万円程度高いが、RONIN 2のフルセットが約90万円であることを考えれば、1/10なのである。

 プロも注目のRONIN-Sの実力を、早速テストしてみよう。

モノ作りのレベルが違うボディ

 RONINシリーズは、その重量から両手持ちが基本であるため、グリップ部が2つある。一方RONIN-Sは小型ジンバル同様ハンドル1本だが、これも両手持ちが基本である。ジンバルとグリップ部合わせて総重量1.85kg。搭載可能なカメラ・レンズの総重量は、約3.6kgだ。従って総重量は、最大で5kgを超える。これを片手で支え続けるのは無理だ。

ワングリップながら、全体ではかなりの重量になるRONIN-S

 構造としては、メインの本体とも言える3軸ジンバル部、バッテリが入ったグリップ部、さらには延長グリップ兼脚部の拡張グリップに分けられる。

パーツに分けて収納できる

 ジンバル部とグリップ(バッテリ)部は取り外して収納できるようになっているが、バッテリーを充電するためのポートがグリップ部になく、ジンバルと合体しないと充電ができない。

メインのジンバル部
バッテリーがある脚部とはスライドで固定
グリップ側の接合部分
底部には2サイズの三脚穴
内部はバッテリとなっている

 脚部としての拡張グリップは、取り外して撮影はできるが、バランス調整等の際にはジンバルを立てておかなければならないので、こちらもある意味必須パーツである。

拡張グリップも付属
広げると三脚になる

 基本的にジンバルはカメラをスタビライズするためのものなので、撮影中は高いものも安いものも、使い勝手に大きな差はない。一番使いやすさを分けるのは、バランス調整をしやすくするためにどれだけ工夫されているか、である。

 この点でRONIN-Sはプロ向けとあって、さすがに良くできている。まずカメラ底部の三脚穴にライザープレートをネジ留め。そのライザープレートをスライダーにネジ留めし、先端にレンズサポートを取りつけたらカメラ側の準備はOKだ。

カメラ底部にライザープレートをネジ留め
そこにスライダーを取りつける
先端のY字型のレンズサポートで、レンズを支える構造

 続いてスライダー部をジンバルに取りつけ、前後の重量バランスを取る。ロックはレバー式なので、微調整も楽だ。特にこの前後バランスは、レンズ交換したりズームレンズで焦点距離を伸ばしたりするだけで変わってしまうので、頻繁に調整が必要になる。

スライダーをアーム部に取りつける

 低価格なジンバルは、この調整がスライダーになっておらず、ネジ穴の位置で調整する。すなわちバランスが取れるまでネジを付けたり外したりしなければならず、調整に時間がかかるし、一度取りつけてしまうと微調整もままならない。

重量の位置合わせがやりやすい

 続いて横アーム長、縦アーム長を調整し、3軸のバランスを取る。背面のモーターは斜めに取りつけられており、カメラの下側から斜め上に向かってカメラを支える構造となっている。こうなっていないと、カメラ背面にあるモニタが、モーターのせいで見えなくなってしまうのだ。低価格ジンバルはそのあたりも考慮されていないものが多い。

 細かいキャリブレーションや特殊撮影を行なう為には、DJIが提供するアプリ「Ronin」を使用する。アプリとジンバルは、Bluetoothで接続する。

専用アプリ「RONIN」
専用アプリでバランステストを実行。チルトだけもう少しバランスをとる必要がありそうだ

 今回撮影用にお借りしたカメラはパナソニック「DC-GH5S」で、レンズは「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S」。ジンバル部脇にコントロールポートがあり、付属ケーブルでカメラのUSB端子に接続すると、シャッターや録画スタート/ストップ、フォーカスがジンバル側からコントロールできるようになる。コントロール可能なカメラとレンズの組み合わせは、こちら(リンク先はPDF)を参照していただきたい。

今回使用したカメラ、パナソニック GH5S

 これで電源を入れれば、基本的な撮影は可能だ。ジンバル部背面には、カメラコントロール用のジョイスティックと録画ボタン、Mボタンがある。Mボタンは3パターンの動作設定を切り換える事ができる。左サイドにはフォーカスコントローラがあり、対応カメラとレンズであればここでマニュアルフォーカスも可能だ。

ジョイスティックはさすがドローンメーカー、使いやすい
フォーカスコントロールも可能

 人差し指がかかる前方にはトリガーボタンがある。ここは押し込むとフォローモードの切り換え、2回押しで位置リセット、3回押しで前後反転など、Osmoと同じ動きをする。

多彩な撮影に対応

 では早速撮影である。スタビライザーはカメラ自体の動きを補正するものだが、カメラ内部にも手ぶれ補正がある。撮影する際には、スタビライズはジンバルに任せた方がいいのか、それとも組み合わせた方がいいのかは悩むところである。

今回の撮影スタイル

 条件を揃えて撮り比べてみたが、どちらも歩行による上下の揺れはあり、カメラ側の手ぶれ補正の有無はあまり影響していないように見える。だが歩き出しの静止している瞬間の安定性は、カメラ側の手ぶれ補正ありのほうがはるかに安定している。悪い影響はないという事であれば、カメラ側の手ぶれ補正は「あり」でいいだろう。

カメラ側の手ぶれ補正あり/無しを比較

 今回はちょうどレビュー期間内に地元のお祭りがあったので、さっそく威勢のいい御神輿を撮影してみた。あいにくプライバシーの関係で祭りの模様はメディアの記事には掲載できないが、神輿に併走しながらの撮影は、さすがに安定感がある。

地元のお祭りで実践投入

 加えて見た目が大げさなので、わけのわからない道具を持ったガチなオジサンに関わり合わないよう、スマホで撮影している皆さんがサーッと道を空けてくれる。その点では非常に撮影しやすかったが、周囲の方にドン引きされたのも事実である。こうしたジンバルが一般的なものになるまで、もう少し時間がかかりそうだ。

 拡張グリップは、三脚部を閉じることでグリップの延長となる。それではと長すぎるのではないかと思われるかもしれないが、マイクまで含めて合計3kg前後の重量を両手で支えるには、グリップは長い方がいい。またグリップが長ければそれだけ高い位置からの見下ろしが撮れるので、便利である。

 ちょっと困ったのは、背面のジョイスティックの動作の反転ができなかった事である。標準ではジョイスティックを右に倒せば右動くというセッティングになっているが、筆者はOsmo Mobileで、いつも上下左右を逆のセッティングで使っている。そのほうが、ジンバルの動きのイメージに合うからだ。アプリの設定項目を丹念に見たのだが、設定を反転するパラメータがわからなかった。

 フォーカスコントロールは、カメラ側でマニュアルフォーカスになっているときのみ動作する。レンズのフォーカスリングを動かした場合には、カメラ側がセンシングして拡大表示となったりするが、USB端子経由のリモートでは拡大表示にならないようだ。カメラの背面モニターだけを頼りに4K撮影でマニュアルフォーカスを使うのは、あまり現実的ではない。

 レンズの画角は、基本的には一度バランスを決めたら簡単には動かせない。ズームするとレンズがせり出してくるので、チルト方向のバランスが崩れるからである。実際にはモーターにかなりのトルクがあるため、多少のバランスのズレは力づくでどうにかしてくれるのだが、バッテリ消費が早くなるはずだ。本来ならばズームしてもレンズ全長が変わらないシネマレンズか、軽量化のため単焦点レンズを使いたいところである。

自動撮影にも対応

 ジンバル使用のメリットは、なにもハンディ撮影時のスタビライズに限らない。モーターやシャッター制御を使って、プログラマブルな撮影ができるのも大きなメリットだ。RONINアプリでは、「キャプチャー」、「パノラマ」、「タイムラプス」、「モーションラプス」、「トラック」と5つの機能がある。

5種類の特殊撮影機能がある

 「キャプチャー」は、単にワイヤレスリモコンおよびリモートシャッターである。「パノラマ」はOsmoでも同様の機能があるが、空間を複数ブロックに分け、自動でそのブロックごとに静止画を撮影する機能だ。これを繋げて1枚のパノラマ画像を作るわけである。

パノラマ撮影機能
パノラマ写真撮影中

 Osmoでは撮影画像のステッチングまでアプリ内でやってくれるが、RONINでは撮影するだけである。そのかわり、オーバーラップ範囲や撮影間隔を自分で決めることができる。よりプロフェッショナル向けと言えるだろう。撮影した連番ファイルは、PhotoshopのPhotomerge機能を使う事で、自動的にパノラマ写真が生成できる。

連番ファイルをPhotoshopに読み込ませて自動でパノラマ化
自動的に生成されたパノラマ写真

 「タイムラプス」は、カメラ位置は固定のままで、単純にシャッターのリモートによりタイムラプス撮影をさせるモードだ。「モーションラプス」は、カメラ位置を動かしながら、タイムラプス制御を行なう。ゆっくりパン・チルトしながらのタイムラプス撮影は、マニュアルではなかなか難しいものだが、ジンバルを使えば簡単だ。

モーションラプス設定画面。3秒間隔でトータル10秒間になるように撮影

 ここでPushモードについて説明しておいた方がいいだろう。普通はジンバル動作中にカメラを触るとモーターが抵抗するものだが、Pushモードではカメラを手動で動かすと、モーターが素直に追従する。つまりカメラを掴んで直接撮影したい方向に動かし、アプリ上でそのポジションを覚えさせることができる。スタートとエンドの構図が意図通りに決められるのは便利だ。

モーションラプスで撮影したもの

 今回の撮影では、一箇所強風にあおられて大きくズレたところがある。動画撮影セッティングのまま、重たいズームレンズにマイクまで付いているので、風に負けてしまったが、通常はマイクなしで単焦点を使うなど、軽量化して撮るべきだろう。

 動画で使い出があるのが、「トラック」だ。これは複数のポイントを繋ぐ格好でジンバルを自動的に動かすモードで、動き始めの秒数、2点間の秒数を決める事ができる。これを使うと、完全に等速のパン、チルトが撮影できる。低速な動きは、手動ではなかなか難しいが、ジンバルにおまかせすれば完璧だ。

動画撮影に使える「トラック」
トラックで撮影中
完全に一定速度なので、オーバーラップでの繋がりも綺麗

 欲を言えば、位置決めの設定画面がちょっと小さい。テレ側の焦点距離で動かす場合、移動範囲は少なくて済むわけだが、設定画面が小さいので微妙な位置合わせに苦労する。Pushモードがあれば問題解決なのだが、なぜかトラックにはPushモードが付いていない。今後のアップデートで期待したい部分である。

総論

 動画撮影において、ジンバルのようなスタビライザーは特殊機材であり、必要であれば持っていくという類のものだ。RONIN 2のように90万円ぐらいする機材なら、通常はレンタルだろう。

 一方10万円以下で買えるRONIN-Sは、重量級のカメラは載せられないが、調整のしやすさや動作の確実性から考えれば、三脚と並んでデジカメ動画撮影の基本ツールに加えてもいいのではないかという気がする。

 もちろん重量がそこそこあるので、常時ハンディはしんどいだろう。だがこれをワンタッチで取り付けできる三脚が出てきたら、話が変わるんじゃないだろうか。同じパン、チルトを何回でもやってくれて、微調整もできるのだ。人間がパン棒持って振った方が早いか、モーションを調整したほうが早いか、という問題になっていくだろう。

 単にハンディ撮影時のスタビライズだけでないモーター制御撮影は、もっと一般にも普及していい。一時期タイムラプスブームで様々な治具が登場したが、「どうやって撮ったの?」と思われる使い方が、アイデア次第でどんどん産まれてくることを期待したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。