AOLと米ヤフーから生まれた新企業Oathは、「サブスクリプション」で事業を拡大する

AOLによる米ヤフーの買収により、事業統合で誕生した新会社のOath(オース)。親会社である米通信大手ベライゾンのユーザーに向けて、コンテンツやサーヴィスの定額課金(サブスクリプション)で販売するビジネスを強化している。傘下のメディアのヴィジターが毎月合わせて10億人を超える同社は、グーグルとフェイスブックの2強が占める市場を切り崩せるのか。
AOLと米ヤフーから生まれた新企業Oathは、「サブスクリプション」で事業を拡大する
PHOTO: RACHEL MURRAY/GETTY IMAGES FOR MAKERS

ティム・アームストロングは、この1年を会社の「改修」に費やした。アームストロングが9年間経営してきたAOLは昨年6月、新たに買収した米ヤフーと合併し、彼はこの2社を統合する任務を任されたのである。

彼はまず、「オース(Oath)」という新たな会社名を発表した。これが「誓い」を意味するところからも、多くの人がインターネットをAOLやヤフーと結びつけて考えがちな、初期のイメージから脱却しようという意図がうかがえる。

次に彼はこの領地を実際にひとつに統合した。ヤフー傘下のTumblrやYahoo Newsのようなまったく異なる事業を、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジにあるワナメイカー・ビルディングに集めたのだ。

オースは現在、このビルの4フロアを占めている(それ以外の4フロアには、フェイスブックのニューヨーク本社が入っている)。役員室やオフィスは取り払われ、代わりにヴィデオスタジオやポッドキャストスタジオ、ニュース編集室、研究室、軽食を出すレストランなどが設けられた。

隅には、アームストロングの打ち合わせ室がある。その前にはTumblrのステッカーを全身に貼りつけたゴリラ(オース傘下の「テッククランチ」のマスコット)の等身大ぬいぐるみが、見張りのように陣取っている。

オース傘下のブランドを反映したオフィス

こうしたリヴィングルームを思わせる会議室や偽物のゴムの木などからは、「WeWork」のコワーキングスペースのような印象を受ける。

従業員のなかに「America Online」のロゴ入りTシャツを着た従業員がいても不思議ではないような気がする。この皮肉な「AOL」Tシャツは、少し前にオンラインショップのUrban Outfittersで45ドル(約4,944円)で売られていたものだ。

しかしオースは、そういう雰囲気を出そうとしているわけではなかった。アームストロングは、こうした内装はオース傘下のブランドがつくるコンテンツが元になっているのだと指摘する。

有名投資家ウォーレン・バフェットの顔写真をあらゆるところで目にするような気がするが、これもYahoo Financeが最近バークシャー・ハサウェイ[編注:バフェットが筆頭株主]の年次株主総会を生中継したからだ。80歳を超える投資家の写真は、この新会社の一風変わった内装にしっくり収まらないものの、宣伝にはつながっている。

みんなに愛されるブランドをつくる

外部の人間から見れば、オースの使命は明白だ。フェイスブックやグーグルへの挑戦である。そうでなければ、親会社であるベライゾンとモバイル契約を結んでいる顧客を楽しませ、興味を引きつけておくことだ。

それでもないのなら、通信大手ならではのデータを、AOLとヤフーの幅広い客層や巧みなネット広告と結びつけることにある。あるいは、そのすべての使命を少しずつ、かもしれない。

しかしこれらの選択肢は、今日の世界ではいささか過剰に思える。ネット広告に対する猜疑心は現在ますます強まってきており、デジタル広告や通信の企業が集める個人情報については、厳しい規制と監視の目が向けられるようになった。

さらに、独立系のパブリッシャーが、フェイスブックとグーグルという2社の支配と張り合えるのかという不安もある。毎月のヴィジターが10億人を超えるオースですら、その点は同じだ。

アームストロングが最近、これまでになくシンプルなメッセージを掲げているのも、おそらくそこに理由があるのだろう。会社のロビーには、そのメッセージが巨大な文字でネオンサインのように掲げられている。「みんなに愛されるブランドをつくろう」と。

ネット配信サーヴィスとそのコンテンツについて、「どこよりも5パーセントくらい上を目指すだけでは足りないのです」と、アームストロングはいう。「15パーセントか20パーセント、もしくは30パーセントは上回らなければなりません」。なぜなら、ライヴァル企業が強すぎるからだ。「わたしたちにとっては極めて高い目標です」

ベライゾンの強力なサポート

しかしもちろん、オース傘下のブランドが目標に達しない場合には、ベライゾンのデータや契約の取得が及ぼす影響力が助けになるだろう。

アームストロングはある朝、オースが今後いかに発展していくのかについて語ってくれた。狙いはコンテンツの個別化だ。「ハフポスト(Huffpost)」や「テッククランチ」、「Yahoo Sports」「Yahoo Finance」など、オース傘下の企業のコンテンツを、オースのアプリやウェブサイト、種々のサーヴィスを通じ、直接消費者に向けて送るのである。

以前のオースは配信をソーシャルメディアにほぼ頼っていたが、現在では消費者と直接つながることを重視している。アームストロングはその一例として、ベライゾンが最近結んだ大々的な契約を挙げる。オースのメディアを通じて、全米プロフットボールリーグ(NFL)の試合をストリーム配信することが決まったのだ。「オースだけでは、こんな取引は結べなかったでしょう。ベライゾンがついていたおかげです」と彼はいう。

ベライゾンはサムスンとも契約を結んでいる。したがって、ベライゾンのサイトからサムスンのGalaxy S9やS9+を購入すれば、入手段階ですでにオースのアプリがインストールされている。

テクノロジー評論家らは、この「余計な機能だらけのソフト」を嘆いている。テック系メディア「The Verge」はS9ユーザーに、「これからベライゾンとオースのコンテンツがどんどん入ってくるはずだ」と警告した。アームストロングによれば、サムスンとの契約後、オースのコンテンツやヴィデオの閲覧時間は平均30パーセント上昇したそうだ。

ユーザーはオースのコンテンツが入るようになった理由を知っているのだろうか? 自分たちに選択肢があったことをわかっているだろうか?そんなことは気にしていないのか?

「個別化」ではなく「人間化」

ベライゾンのようなインターネットサーヴィス・プロヴァイダーは、過去の閲覧履歴を利用し、それぞれにふさわしいオースのコンテンツを配信しているかもしれない。ケンブリッジ・アナリティカの個人情報不正入手疑惑を経た現在、これに不安を覚える消費者もいるだろう。

しかしアームストロングは「プライヴァシーが守られるかたち」を貫いていると主張し、ベライゾンはこれまでデータ使用に関して保守的な姿勢を守ってきたという。「通信業界におけるデータの利用は、インターネット業界に比べてはるかに少ないはずです」と、彼はいう。

アームストロングは、オースのサイトに掲載されているプライヴァシーに関する取り決めを見てほしいと語る。ユーザーは各ブランドごとに、個人情報収集や個別広告を認めるかどうか選択できるようになっている。

さらには「個別化(パーソナライゼーション)」という表現も適切ではないらしい。「人間化(ヒューマニゼーション)」と呼ぶべきだと彼はいう。商品がその人にとって有益であれば、勝手に入り込まれたような感覚は与えず、むしろ喜ばれるはずだとアームストロングはいう。だからこそ「みんなに愛されるブランド」なのだ。

とはいえ、ユーザーが特定のメディア企業に忠実であることなど、そうそうない。むしろソーシャルメディアをスクロールして、ニュースやエンターテインメントを探すことのほうが多いだろう。同じ逆風を受けているパブリッシャーの多くは、定額課金(サブスクリプション)のビジネスモデルを採用するようになっている(そこには『WIRED』US版も含まれている)。

ベライゾンの強力なサポート

驚いたことに、オースも同じ方向に進むつもりだという。「みんなに愛されるブランド」を利用するのではなく、AOLのダイアルアップインターネットのビジネスモデルを採用するというのだ。

この事業にはいまも150万もの利用者がおり、最近になって「多面的なサブスクリプション」のビジネスに転じたのだとアームストロングは言う。AOLユーザーは現在、個人情報の盗難予防、保険、コンピューターのパフォーマンスを管理するツールなどを、AOLのアカウントから購入できる。

オースはすでに、100万人にこうした商品を販売したというが、どの程度の期間をかけたのかは明らかにしなかった。なかでも大きいのはAOLの顧客サーヴィスオプションで、顧客はコンピューターに関する問題について何でも相談できる。

アームストロングはこの事業の規模については詳しく明かさなかった。オースの第1四半期の収益19億ドル(約2,098億円)のうち、この事業が占める割合は少ないだろう。しかし彼は、サブスクリプションがオースの将来において鍵を握ると語った。

「わたしたちはコンテンツ事業でも、サーヴィスにおいても、サブスクリプションサーヴィスを提供できます。それが会社として考えていることのひとつです」と彼はいう。サブスクリプションに対するこうした方針を、オースの扱うブランドのさらに広い範囲に広げるつもりだという。ただし、こうした戦略を進める具体的な時期については、詳しくは語らなかった。

まだまだ改革は続く

合わせて1万3,000人の従業員数を誇る2社統合の舵取りをする一方で、アームストロングは元ヤフー最高経営責任者(CEO)であるマリッサ・メイヤーによる仕事の一部を「なかったこと」にした。

オースは、メイヤーが2億3,000万ドル(約254億円)で買収したファッションサイト「Polyvore」と、同じくメイヤーが再生に苦労した写真共有サイト「Flickr」の株式を売却した。一方で、メイヤーによる最大の買収先だった「Tumblr」に、再びフォーカスしている。Tumblrの創業者は2017年11月に退任した。

またオースは、ビジネス面での改革にも乗りだしている。「収益の規模を底上げするために打った手なのに、収益を生んでいないものがあります。こうした“エンプティ・カロリー”とでも呼べる事業にも、以前は相当に力を入れていました」とアームストロングはいう。

アームストロングによると、オースはヤフーの広告システムの水準を引き上げて価格を上げ、数カ月で平均価格を2倍にした。さらに同社では、数千もの組み合わせが可能だった広告メニューを、8つほどに減らしてシンプルにした。

「われわれは低価格化による底辺の競争から撤退し、消費者中心のビジネスモデルに切り替えました。これは極めて大きな変化です」。そう彼は語っている。


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TEXT BY ERIN GRIFFITH

TRANSLATION BY YOKO SHIMADA