ビッグ・フランチャイズの進化には、常に新しい才能が不可欠だ:『ジュラシック・ワールド/炎の王国』製作総指揮/共同脚本家インタヴュー

1993年に公開された『ジュラシック・パーク』から22年、2015年に再始動したシリーズ第4作『ジュラシック・ワールド』は、世界興行収入が約16億ドルを越え、歴代第5位のメガヒットを記録した。いまやハリウッドで最も注目されるフィルムメーカーとなったコリン・トレヴォロウは、シリーズ第5作目であり、新2部作の第2弾となる『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では、朋友のデレク・コノリーとともに共同脚本、シリーズの生みの親スティーヴン・スピルバーグとともに製作総指揮を務めている。次々とリブートされる過去の大作のなかでも最も成功したフランチャイズのキーマンに、成功の秘訣を訊いた。
ビッグ・フランチャイズの進化には、常に新しい才能が不可欠だ:『ジュラシック・ワールド炎の王国』製作総指揮共同脚本家インタヴュー

──1993年に大ヒットしたスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』が、あなたの監督した『ジュラシック・ワールド』で蘇ってから3年。ジュラシック・シリーズは、とても息の長いフランチャイズになりました。前作で監督として大成功を収めたにも関わらず、今回は、なぜ自ら監督しなかったのでしょうか?

フランチャイズを成功させるためには、常に変化&進化し続けることが必要。今回、続編をつくるに当たっては、違う人の表現、見せ方、世界観を取り入れるのはとても重要だと思ったんだ。(共同脚本家の)デレク・コノリーとストーリーを考えながら、「監督の特質を生かしてサポートする」という方法がベストだという結論に至ったんだ。新鮮なエネルギーを注入することは、作品をマンネリ化させないためには必須だからね。

──いまの話は、フランチャイズ映画を製作することの面白さでもあり、また難しさにも関係しますね。ヒット映画のフランチャイズ化は、一見、簡単そうに見えますが、成功させるのは実は難しい…。

そう。存続していくことが、実は一番難しい。前作の監督を引き受けたときもそうだったけど、そもそも続編をつくる必要があるのか、ということは常に頭をよぎる。なんといっても、1作目の『ジュラシック・パーク』はとても愛された作品だからね。続編なんていらないと思っている観客も多いはずだし。なので、そういった観客にも納得してもらえるような、映画的な体験を与えられるか、ということが重要になってくるんだ。『ジュラシック・パーク』のなかに、1993年を生きる人々にとって意味のあるメッセージがあったように、『炎の王国』にも、2018年の観客の心に響くようなメッセージを盛り込むことができるかどうかが鍵だったんだ。

──2018年ならではのメッセージとはなんでしょう?

人間がこれまでしてきた選択が、時間の経過とともに環境や動物たちにとって危機的な状況を招いてしまっているという状況に、われわれは気づきはじめている。それに直面しているという状況は、まさに2018年的だよ。

人間の欲深さの結晶としての「恐竜」

──脚本を書くことは、あなたにとってどういう意味があるのでしょうか?

脚本家の役割は、監督のヴィジョンを支えること。個人的には、ほかの人とコラボレーションをすること。自分だけでなく、ほかの人の目を通して世界を見られることが楽しいね。『ジュラシック・ワールド』では、2作目で監督を変え、3作目では(監督はトレヴォロウ自身が手がけることが決定)脚本家を変えるなど、人を入れ替えている。デレクは常に関与しているけれどね。とにかく、ほかの視点を入れることが大事なんだ。

──今回のJ・A・バヨナ監督は、デビュー作であるホラー『永遠のこどもたち』(07年)やナオミ・ワッツ主演のパニック映画『インポッシブル』(12年)で注目されている新鋭です。彼には何を期待したのでしょうか?

彼を推薦したのは、ぼくなんだ。彼の作品を観て、パニック的な状況のなかで感じる恐怖の表現が素晴らしいと思っていた。もちろん映像美もすばらしいし、わくわくするような語り口もすばらしい。でも、キャラクターに感情移入できなければ意味がないからね。

──すでに『ジュラシック・ワールド』は3部作としての構想が発表されているので、今回の作品はある意味、ブリッジの作品となります。このような“中継ぎ”は最も難しいと思います。どのようにクリアしようと思ったのでしょうか?

バヨナ監督は、明確なヴィジョンをもっている人なので、プロデューサーとしてはそれが確実にスクリーンに映し出されるように監督をサポートすることに全力を尽くしたよ。

──脚本家としては?

これまでの基準をすべて変えようと思った。地球上での人間と恐竜の関係。今回の物語で恐竜に起こったことは、すべて人間が引き起こしたことだ。世界は変わってしまったんだ。その責任を負わなければならないんだよ。自分たちが生み出した恐竜の“新しい世界”にね。これはネタバレになるけど、物語の最後では、主人公のふたりはあの女の子をひきとり、実質親にならなくてはいけなくなるんだ。

──前作では、遺伝子組み換えによって生まれたインドミナス・レックスという肉食恐竜が登場しましたが、今回はそのDNAをベースにさまざまな遺伝子を組み合わせ、“最強の軍事用生体兵器”として創造されたインドラプトル(インドミナス・ラプトル)が“脅威”として登場します。

この恐竜は、人間の欲深さの結晶だよ。

──それこそ、シリーズの原作者マイケル・クライトンが発信したメッセージですね。ストーリー的には、原作といえるほどクライトンの小説をなぞっているわけではありませんが。

今回の映画の冒頭と最後でのイアン・マルコム博士のセリフは、まさにクライトンの小説から引用しているんだ。われわれが後戻りのできない変化を生んでしまった。遺伝子操作による箱をあけてしまった。そこから生じるものは、われわれが予想しないものになってしまった。核や原子力に関してもそうだよね。原子力は、最初は電力を生み出す素晴らしい技術だと謳われたけれど、やがて兵器化され、いまや世界で15〜16もの国が保有するようになった。つまり、脅威になった。それを恐竜になぞらえているのは、原作から一貫したものだよ。

PHOTOGRAPH COURTESY OF UNIVERSAL PICTURES

若い監督が大作を撮る功罪

──インドラプトルだけでなく、新しい恐竜はこのシリーズの楽しみのひとつとなっていますね。あなたの思い入れのある恐竜は?

アンキロ・サウルスだよ。亀みたいなやつ。中が柔らかいので、外には硬い殻があるのが、とても共感がもてる。新しい作品ごとに新しい恐竜が登場しないと観客ががっかりすると思うので、考えないといけないんだ。実は、とても思い入れのある恐竜がいるのだけど、まだ今回のストーリーには取り入れるべきではないと判断して、今回は登場していないんだよ。

──ところで、あなたは長編デビュー作である『彼女はパートタイム・トラベラー』のあと、すぐに『ジュラシック・ワールド』という大作を任され、成功を収めました。最近のハリウッドの傾向として、1、2作目で頭角を現した若い監督に大きな作品を任せる傾向がありますね。

いい傾向だと思う。さっきも話したように、新しい才能が必要だからだね。ひとつダウンサイド(負の部分)があるとすれば、その若きフィルムメーカーたちが1作目から徐々に大作にのし上がって行くまでに「つくっていたかもしれない作品」を、観ることができないことだ。(『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の)ギャレス・エドワーズとか、(『スター・ウォーズ/最期のジェダイ』の)ライアン・クーグラーも友人だけど、もしかするとスター・ウォーズのような大きな作品を手がける前の、もっとパーソナルな作品を観ることができたかもしれない。もちろん、今後そういう作品も見られたらいいと思うけどね。例えばクエンティン・タランティーノが『レザボア・ドックス』のすぐあとに『007』シリーズの監督に抜擢されていたら、ぼくらは『パルプ・フィクション』を観られなかったわけだからね。

──あなたも『ジュラシック・ワールド』の前に、タランティーノにおける『パルプ・フィクション』のような作品は撮るはずだったのでしょうか?

あはは、そうだね。『パルプ・フィクション』ほどじゃないだろうけど。でも、『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』という思い入れのある作品もつくったし、デレク・コノリーの『セイフティ・ノット・ギャランティード』(12年)をプロデュースしたし、デレク・コノリーと共同で脚本を書き、レベッカ・トーマスが監督する『インテリジェント・ライフ』をいま製作しているところだ。自分なりにはいろいろつくれていると思うし、文句は言えないよ。

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、コリン・トレボロウ、監督:J・A・バヨナ、脚本:デレク・コノリー、コリン・トレボロウ、出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワードほか、配給:東宝東和 7月13日(金)より全国ロードショー、http://www.jurassicworld.jp/PHOTOGRAPH COURTESY OF UNIVERSAL PICTURES

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、コリン・トレボロウ、監督:J・A・バヨナ、脚本:デレク・コノリー、コリン・トレボロウ、出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワードほか、配給:東宝東和 7月13日(金)より全国ロードショー、http://www.jurassicworld.jp/


RELATED ARTICLES

TEXT BY ATSUKO TATSUTA