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超音波による「音響攻撃を受けた」と主張する人々は「集団ヒステリー」にかかっている可能性が指摘される

By Anders Sandberg

キューバのアメリカ大使館で2016年12月から断続的に発生したとされる音響攻撃事件では、大使館の中にいるアメリカ大使や職員を標的に目には見えない「超音波」を照射することで不眠や聴覚異常、脳の損傷脳などの症状を生じさせたといわれています。その後、2017年から2018年にかけて中国で勤務するアメリカの政府職員からも同様の症状を訴える報告が挙がっており、にわかに「音響攻撃」が注目を浴びています。しかし、多くの精神医学の専門家からは、これらの症状は被害者の「妄想」のようなものであり、被害者グループは集団ヒステリーの状態にあったとする見解が述べられています。

Those 'Sonic Attack' Victims Are Actually Experiencing Mass Hysteria, Expert Claims
https://www.sciencealert.com/sonic-attack-victims-actually-experiencing-mass-hysteria-expert-claims-psychogenic-illness-delusions-robert-bartholomew

一連の「音響攻撃事件」をめぐっては調査が行われていますが、その真相はなかなか明らかにされていません。「変調マイクロ波による「マイクロ波聴覚効果」を利用して目に見えない攻撃が行われた」という見解が示される一方で、キューバの外務大臣が「音響攻撃の証拠は見つかっていない」と国連総会で演説するなど、決定的な答えが見つかっていない状況が続いています。

「音響攻撃」が報告されたキューバのアメリカ大使館では一体何が起こっていたのか? - GIGAZINE


そんな中、医療社会学者のロバート・バーソロミュー氏は、「私たちが注目しているこの事件は、集団ヒステリーと集団暗示によるものであると確信しています」とABC Newsに対して語っています。バーソロミュー氏は集団心理、集団内の心因性疾患に関する専門家で、生物学的な根拠がないままに集団の中でヒステリーなどの症状が起こる事象についての研究結果を記しています。

Robert Bartholomew - The Sociologist
http://robertebartholomew.com/


キューバ大使館で起こったとされる音響攻撃事件をめぐっては、ペンシルベニア大学の調査チームが「被害者は、過去の頭部外傷に関係なく脳内のネットワークの広範囲にわたって損傷を受けている」という調査結果を2018年2月に公表しています。しかしバーソロミュー氏は、その内容を否定し、示される症状はあくまで心因的なものであると主張しています。

ABC Newsに対してバーソロミュー氏は「音響兵器は、脳しんとうを起こしたり、脳の白質に影響を与えたりすることはできません。それは物理的に不可能なことです」と述べ、アメリカの医師会雑誌「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に掲載された調査結果に異論を唱えています。

JAMAに掲載された内容を精査したバーソロミュー氏は、「論文で示された『脳しんとうのような症状』について実際のデータを見てみると、そこには脳の構造が影響を受けた様子は見受けられません。これらのデータはスキャンによって得られたものであり、スキャンによるデータにはさまざまな解釈を許す余地が存在します」と、論文の結論が決定的なものではないという見解を述べています。

By Mariano Cuajao

バーソロミュー氏は、さまざまな調査の結果や政府がとった対応には「根拠がない」と考えており、過剰反応のおそれさえあると考えている模様。「私がこの事件を簡単にまとめると、『暗い夜にひづめの音が聞こえると、まず思うのは"馬がやって来た"というものであり、"シマウマがやって来た"とは思わない。しかし大使館職員は"ユニコーンがやって来た"と考えてしまった。彼らはもっとも風変わりで科学的には不可能であるはずの仮説を立てた』ということになります」と述べ、そこには科学的な根拠がなかったと指摘しています。

また、この一件に関してCuban Neuroscience Centre(キューバ神経科学センター)のミッチェル・ジョセフ・バルデ=ソーサ氏は、「最初に『攻撃があった』と口にしてしまったら、もう後に引くことはできません」「自分は間違っていたと自ら認めたがる人はいるでしょうか?彼らは自らリングのコーナーへと追いやられ、どうやって脱出すれば良いのかわからないのです」と述べています。

バーソロミュー氏は否定的な見解を示す「音響攻撃」の手口ですが、一方では実際に多くの職員が体験したとされるさまざまな症状の本当の姿や、その原因についてはまだまだ説明が待たれるところ。バーソロミュー氏らの見解はあくまで「音響攻撃否定派」の考え方であり、この事件の真相を決定づけるものとはいえません。しかし、「音響攻撃はなかった」ことを裏付ける根拠を示すことは「悪魔の証明」にも似たものであり、決定的な攻撃の証拠が見つかるまで真相の解明は困難を極めることになりそうな様相を呈していることは確かです。

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in メモ,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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