アマゾンの「プライムデー」が、従業員ストライキや不買運動に見舞われた本当の理由

アマゾンの年に一度の大きなセールである「プライムデー」に合わせて、欧州の一部の国で従業員が賃金カットの撤回や労働環境の改善を訴えてストライキを実施した。この動きは消費者に飛び火し、アマゾン傘下企業のサーヴィスをボイコットする動きにまで発展した。強硬手段に出た労働者側の言い分とは?
アマゾンの「プライムデー」が、従業員ストライキや不買運動に見舞われた本当の理由
PHOTO: BESS ADLER/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

アマゾンの「プライムデー」は、同社のプライム会員を対象にした年に一度の大きなセールだ。この一大イヴェントで今年は、欧州の一部の国で従業員が賃金カットの撤回や労働環境の改善を訴えてストライキを実施した。

こうした動きに共感した一部の消費者の間では、Amazonでの不買運動が広がった。さらに、アマゾン傘下の高級自然食品スーパーであるホールフーズ・マーケットや、ゲームの実況配信プラットフォーム「Twitch」も含めて、ボイコットを呼びかける声がネットでは強まったのである。

スペインではプライムデーの初日に、配送センターなどで働く1,800人が一斉にストライキに突入した。賃金削減や休暇取得の制限などに抗議するためだ。国境を超えた連携の求めに応じて、ポーランド、ドイツ、イタリア、フランス、イギリスでも従業員が実力行使に出たと報じられている

7月16日から17日にかけて実施されたプライムデーに合わせた欧州規模でのストライキを働きかけていたのは、スペインの各労働組合の中央組織であるスペイン労働者委員会やドイツの統一サービス産業労組ヴェルディ(Verdi)などだ。

セールは36時間行われるため、プライム「デー」という言葉は実はあまり正確ではない。ドイツではセール2日目の17日からストライキが行われた。ヴェルディのウェブサイトに掲載されたプレスリリースによると、従業員たちは単調な仕事による精神的および肉体的なストレスから、何年にもわたって健康面に問題を抱えている。

ヴェルディの広報担当であるシュテファニー・ナッツベルガーは、「アマゾンはこの問題に対する責任を放棄しています。従業員が労働協約の内容を交渉する権利を認めていないのです」と述べている。

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「#AmazonStrikeが始まりました。スタッフは16日の#PrimeDayをボイコットするように呼びかけています。アマゾンの従業員は過度の疲労や脱水症状、職場での怪我などで苦しんでいます。ジェフ・ベゾスは世界一の富豪です。彼に雇われているのだから、もっとよい労働環境を与えられるべきです!」

こうしたストライキの結果、Amazonでは一部のページがダウンし、商品が購入できなくなった。オンラインサーヴィスの稼働状況や接続障害情報を提供する「downdetector.com」によると、16日夜7時(米国東部標準時)時点でアメリカ国内でサイト障害の報告が多数ある。

アマゾンは『WIRED』US版の取材に対し、書面で以下のように回答している。「弊社は公正かつ責任ある雇用主で、常に対話の用意があります。話し合いは、わたしたちの企業文化の重要な一部です。今後もすべての従業員に対し、満足ゆく雇用条件と良好な労働環境を提供する企業でありたいと考えています」

同社は従業員には「就業開始直後から競争力のある給与と福利厚生を提供しており、安全かつ良好な労働環境が整っています」とも述べている。

商品が購入できない状況については、「サイトの障害は確認しており、迅速な解決に向けて努力を続けています。ただ一部に限られた問題で、今年のプライムデー開始後1時間の注文数は、昨年の開始後1時間の合計を上回っています」と指摘する。

それでもベゾスは個人資産を「宇宙」に投じる

経済データを提供する「Bloomberg Intelligence」の試算では、プライムデーの売上高は約30億ドル(3,380億円)に上る見通しだ。ただ、この数字には外部事業者の売上高も含まれるため、すべてがアマゾンの収入となるわけではない。アマゾンの昨年の売上高は1,780億ドル(20兆552億円)で、うちプライムの会費および関連サービスの売り上げは97億円(1兆927億円)と約5パーセントを占める。

一方、ストライキに支援するための大規模な不買キャンペーンは、7月10日に始まった。Twitterでは「#amazonstrike」のハッシュタグが使われている。16日にはゲーム業界の統一労組結成を目指す市民グループの「Game Workers Unite International」が、Twitchを24時間にわたりボイコットする方針を明らかにした。

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「#amazonstrikeで従業員を応援するためにアマゾンのサービスを利用しないなら、子会社も含めて全部ボイコットするように! ここにリストを上げておくよ」

欧州各国の配送センターの従業員は過去にも、雇用条件の改善を求めて、ホリデーシーズンに合わせてストライキを打ったことがある。

アメリカに目を転じると、インターネットメディアの「The Intercept」は4月、アマゾンの従業員が低所得者向けの食料補助精度(フードスタンプ)を利用していると報じた。また、イギリスの配送センターのスタッフはトイレ休憩が取れないため、やむを得ずペットボトルを使って用を足しているという

こうした状況があるにも関わらず、最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾスはあるインタヴューで、自分の資産は有人宇宙飛行を目指して設立したブルーオリジンに投じたいと発言した。これを受け、ソーシャルメディアでは「そんなことより労働環境への投資を優先すべきだ」との批判が強まっている。

関連記事プライムデーでアマゾンが売りたかった「たったひとつ」のもの

ベゾスはドイツのメディア大手アクセル・シュプリンガーCEOのマティアス・デフナーとの対談で、「この金融資産の活用先として思い描くことができるのはひとつだけです。アマゾンから得た利益は宇宙旅行開発に使いたいと考えています」と言ってのけたのだ。


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TEXT BY NITASHA TIKU

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA