インターネットは、巨大な腐ったポテトサラダである

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  • author 塚本 紺
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インターネットは、巨大な腐ったポテトサラダである
Image: DigiPub/Getty Images

腐っていても止められない僕ら。

時折、感動を呼ぶ現象やムーブメントを生み出す一方で、ハラスメントや犯罪の温床ともなっているインターネットです。米GizmodoのHudson Hongo記者はどんどんと劣悪な世界を作り上げるインターネットを「腐ったポテトサラダを食べるのを止められない僕らが原因」と評しています。


インターネットは失敗した

ピクニックテーブルの席についたアナタの目の前にひとつのポテトサラダが置かれます。普通の量ではありません。巨大なポテトサラダです。一口食べてみると、味はまぁまぁ。しかし食べた直後から気分が悪くなります。しかし、問題はあなたはポテトサラダが世界で一番好きなことです。なのでもう一口だけ、と言ってスプーンをもう一回、口に運びます。すると気分はもっと悪くなります。けれど、あと一口だけ、を止めることができません。

あと一口、あと一口。もちろん、頭の中では「これは大変なことになる」と気付いているわけです。「なんで私はこんなことをしているのか?」とポテトサラダを次から次へと口の中に放り込みながら自問自答をします。「このままでは吐いてしまう」とは分かっているんですが、止められません。

現在のインターネットを比喩的に表現するとこんな具合になります。お金ではなくて、参加している人々の健全さ、健康さでインターネットを測れば、インターネットは間違いなく大失敗と言えるでしょう。気分が悪くなるにも関わらず、もっと食べたくなるようなビュッフェ料理の連続。オンライン上のコンテンツはそんな様子を呈しています。

失敗の原因はクリック至上主義

ソーシャル・メディアもかつてはポジティブな変革の訪れ、として期待されていましたが、今となってはハラスメント誤った情報の温床となっています。調節する機能を改善する試みは何度も行なわれてきましたが、社会的な弱者をさらに抑圧する結果を生みながら、巧みにシステムを悪用するユーザーたちをかえって促進してしまっています。

バイラル市場においては、良いクリックも悪いクリックも等価値であるため、「人の注目を集めたもん勝ち」なオンライン経済における最大の利益享受者は、ドナルド・トランプやYouTuber、ローガン・ポールといった社会の分断を生む醜悪な人物となっているのです。

これは端的に言って、非常に残念です。

この現実はどんどんと明らかになってきています。「ソーシャル・ネットワークが世界をより良い場所にしてくれる」という我々の希望は、「もしかしたら他の代替策が登場するかもしれない」という願いへと変わり、そして「このソーシャル・ネットワークがこれ以上劣化しませんように」へと変化し、今となっては「国営化とか他の何らかの手段を講じた方がいいんじゃないの……んーもういいやどうしようも無いや」といった具合です。

根本的な原因は人のウロボロス的な性質

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Image: Alexeybakhtiozin/Getty Images

時に、解決策のように思えるものが提案されることがあります。たとえば私が(偽善的に)提案した「アプリを削除しよう」といったものです。しかしこういった対策は問題の本質を見誤っています。われわれ人類はゴミのような物を自分の口に入れてしまうことが好きなのだ、という点です。

「人間関係でゴタゴタもめるのは嫌い」と主張していながら、人間関係をどんどんゴタゴタに揉めさせている友人。皆さんもきっと心当たりがあるのではないでしょうか。それと同じように、私たちはインターネットの劣悪な状況を嘆きながら、さらに劣悪になることを促しているわけです。

ニュース・メディア、ソーシャル・ネットワーク、そしてネット上の個人アカウント群の根本的なゴールは、人に見てもらうことにあります。もしそれらのクオリティが劣悪だとすれば、ほぼ間違いなく、ネット上では劣悪な物の効果が高いことにあるのでしょう。

ユーザーたちが過ごす時間を最大化したいと考えるサイトやアプリと、退屈が最大の敵であるユーザーによる無限ループは、まるで自分の尻尾を飲み込んだ蛇ウロボロスのような様相を呈しています。もちろん、ネット上には価値のあるニュースもたくさん存在しています。しかしその一方で「#PlaneBae」のようなただ人々の注目を集めて消え去るガラクタのような流行がネット上を圧倒しています。

「#PlaneBae」の責任はみんなにある

「#PlaneBae」は、飛行機の中でとある乗客が他の乗客と席を交換した結果、隣同士に座ることになった男女二人が意気投合し、理想的なカップルになるかも...という期待を持った傍観者(席を交換した乗客)がソーシャルメディア上で二人の様子をシェアしまくり、最初は多くの人から(潜在的な)カップル二人への声援が集まったものの、プライバシー侵害として大きな批判を集めた事件(で使われていたハッシュタグ)です。

と、語れば語るほど馬鹿げた事件にしか思えない#PlaneBaeですが、これほど我々が食中毒になっているポテトサラダ現象を見事に体現しているイベントも無いのではないでしょうか。こういった出来事を取り上げて人々の注目を消費するニュースサイトにも責任がありますが、元々のツイートを何度も何度もRTした何十万人もの人々にも責任があります。

またこれに関する記事、追記の記事、それに関するツイートなどを生み出した何千人も同じです。ネット上の盛り上がりを理由に、まったく知らない一般人をオンライン上で祭り上げてもいい、と判断を下した点ではすべての人が有罪なわけです。

たぶんまた繰り返される

もちろん、我々が住んでいるのが完璧な世界であれば、この事件をきっかけに多くの人が反省し、学ぶわけです。「コンテンツとしては確かに面白かったけど、結局のところは良くない行為だった。二度とこんなことは繰り返さないようにしよう」と。

しかしこういった、勝手に割り当てられる注目、ハラスメント、批判炎上、そしてそれに続くハラスメント、というプロセスを私たちは何度も何度も目撃してきています。繰り返されるパターンとその原因に注目せずに、個別のケースの酷さに注目してしまうことで、数週間後にはまた同じことが繰り返されるでしょう。もしかしたら数日後かもしれません。

ネットでも食事制限をしよう

このような、人々の注目を集めるソーシャルメディア上の現象は、「意識のハック」として説明されることがあります。しかし我々が逆に学んできたことを考えると、「ハック」なのでつい引っかかってしまう、という説明も十分ではありません。たとえば、我々の多くはちょっと興味を引くけれども、結局は意味のないオンライン・コンテンツの多くは、無視するようになりました。またいわゆるあからさまな「釣り」コメントや、恥ずかしいほどの無知を晒しているようなユーザーも、あまり相手にされなくなっています。

その一方で、他人のプライバシーを侵害する行為や、醜悪な行為を撒き散らす無礼な人物、そして抵抗の術を持たない人に対する無礼、といった言動に対してはまだまだ留まる所を知りません。これらすべて、現実世界の公の場では誰もしないことです。それぞれのユーザーが注意して需要を減らすことで、供給を減らすことができます。もしも似たようなタイプのコンテンツがあれば、クリックせず、シェアせず、ましてや「これに対する自分の意見が正しい」と公に発表することでかえって広めてしまうということは避けるべきなのです。

どうやってインターネットが楽しい場所から醜い場所へと変化したのか、その流れを振り返るとアルゴリズムによるフィード表示がその大きな要因として挙げられます。しかしそれでも、最悪な状況を生んだのは、あくまでもコンテンツ・ベンダーによる人々の注意を集めたいという欲望、そして注意を引くコンテンツが一番効果的であるという事実です。ここで言う「注意を引く」というのは「健全」でなくとも「良い」物でなくとも大丈夫です。

ポテトサラダが腐っていたら、食べてはいけません、ということです。


Image: Getty Images

Hudson Hongo - Gizmodo US[原文
(塚本 紺)