渋谷慶一郎が手がける、アンドロイドとオーケストラの共演。人間は機械に共感を覚えるか?

  • 11,954

  • author ヤマダユウス型
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
渋谷慶一郎が手がける、アンドロイドとオーケストラの共演。人間は機械に共感を覚えるか?
Photo: ギズモード・ジャパン

とても実験的な夜に立ち会えました。

アンドロイドは人間の感動を解するのか。そのようなことを考えさせられるプロジェクト「アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』」が、2018年7月22日(日)、日本未来科学館にて開催されました。


Video: ATAK/Keiichiro Shibuya / YouTube

渋谷慶一郎さんを中心に進められたこのプロジェクトは、アンドロイドが人間のオーケストラの指揮をするという試み。アンドロイド同士の演奏ならケーブルやらワイヤレスやらで同期させれば済む話ですが、こと人間とアンドロイドではそう簡単にはいきません。ましてや奏者との呼吸がなにより大事な指揮者をやろうっていうんですから。

アンドロイドに対する「違和感」が「感動」へ変わる

180723scarybeauty_02
Photo: Kenshu Shintsubo
日本科学未来館 「ジオ・コスモス」の下で指揮をするオルタ2

コンサートでは、アンドロイド「オルタ2」が、30名に及ぶオーケストラを指揮しました。照明が落ちて、オルタ2の動きとともに演奏が始まると、まずもって感じたのは心臓を撫でられるような不気味さです。なんだコレは、なにがどうなってるんだ。脳の理解が及ばない、名状しがたい衝撃がありました。

オルタ2にはAIが搭載されており、指揮のテンポは周期的ではなく、状況に応じて乱れたり、あるいは規則的になったりと、セル・オートマトン的に変化します。人間の指揮者も同じように流動的で、オーケストラはそれに従うことで演奏に表情をもたらしますが、同じことをアンドロイドがやるだけでこんなに違和感を抱くなんて。

180723scarybeauty_03
Photo: Kenshu Shintsubo

しかし、演奏が5分、10分と経つにつれて、オルタ2と演奏の間に双方向性を見つけられるようになってきました。動きに合わせてリズムが生まれ、躍動に合わせてダイナミズムが生まれている。オーケストラの人たちも、じっとオルタ2を見ています。はじめは恐怖の無機質兵器が踊っているように見えたのに、その光景に慣れ、演奏が叙情的になるにつれて、演奏に感動できるようになっていったんです。理解が及ぶようになったと言っても良いかもしれません。

180723scarybeauty_04
Photo: Kenshu Shintsubo

特に、オルタ2が歌うパートは『攻殻機動隊』のようなサイバー&情緒な世界観があって、これまた心臓に迫る高揚感がありました。その時、「あぁ、僕たちはアンドロイドの感情に共感している」と思って、ちょっとゾっとしたんです。オーケストラをバックに歌い上げるアンドロイドが、まるで音楽に酔い痴れているように見えたんですね。ビョークの『All is full of love』にも似た、不気味さと感動入り交じるふしぎ体験!

Video: BjorkTv/YouTube

たとえば、このPVに出てくるようなアンドロイドが、僕たちに何かを要求してきたら恐ろしくないですか? 『Scary Beauty』の場合は指揮者と奏者という関係で、アンドロイドが演奏を要求しています。吹奏楽や楽団経験者なら、指揮者がアンドロイドになったと想像してもらえればわかりやすいかと思いますが、どんな気持ちでしょう?

1時間に及ぶ演奏は、渋谷さんのピアノとオルタ2のデュオで幕を閉じました。アンドロイドとアイコンタクトをして演奏するのは一体どんな気分なのか、想像もつきません。しかし、会場に鳴り響く万雷の拍手が、感動と呼ばれる感情を多数想起させたことを物語っています。

指揮の鍵となったのは「呼吸」

コンサートの後は、人工生命を研究する池上高志さん、アンドロイド研究で知られる石黒浩さん、そして渋谷さんの3人によるトークセッションが催されました。はじめはオーケストラの人たちもオルタ2の指揮を読み取るのに苦労したそうですが、ある日「人間の呼吸のように肩を上下させる」ことで、一気に理解しやすくなったそうな。それまでは指先や腕の動きの改良に注力していましたが、呼吸の大事さに気付かされたそうです。

180723scarybeauty_anime
Photo: ギズモード・ジャパン

こうして見ると、あぁアンドロイドだなって感じなんですけどね。石黒さんが「複雑なものと関わることで生命感が宿る」と話していたのも印象的で、言われてみれば複雑さやカオスさって生きてる感じがします。「臓器とか義手とか、僕らはこれからもっと機械化していく。そうしたものに生命さを感じれるようになる可能性が、オルタ2にはある」とのこと。

180723_scary_beauty_5
Photo: ギズモード・ジャパン

渋谷さんが演奏していたピアノの周囲。Prophet 5にMoog Mother 32、それからRolandの名テープエコーRE-201が見えます。アンドロイドがこれらの機材をバックに歌うというのがまずエモい。


180723_scary_beauty_4
Photo: ギズモード・ジャパン

PCやコンソールが所狭しと並んでいました。オルタ2の動きや照明を制御しているのかな。

人間はどのように「共感」するのか

公演を見た帰りは、さすがにいろいろと考えました。僕たちは何に共感を覚えるんだろうとか、人と人との呼吸や情動ってどこに宿るんだろう、とか。犬や鳥、昆虫にしろ、どこか人間らしい部分があれば共感できると思うんです。コテンって転がる動きが可愛い、みたいな。ピクサー作品の機械生命体だって、人間の仕草を上手く取り入れている。あざとい、さすがピクサーあざとい。

でも、たとえば代々受け継がれていたドリルが壊れたりとか、錆びてもなお仕事を続けるベルトコンベアとか、そういうのにも感情が想起させられることもあって、条件と想像力があれば人間は何にでも共感できるんじゃないか、とも。想像が実感に、実感が感情に。オルタ2と僕らのあいだにあった不共感の障壁は、何がどうなって拍手にまで反転(オルタ)したのか。考えてみると、なんとも興味深い話です。

180723_scary_beauty_6
Photo: ギズモード・ジャパン

今回の『Scary Beauty』は、世界の人工生命研究者が集う「ALIFE 2018(人工生命国際学会)」のパブリックプログラムとして発表されました。「ALIFE 2018」は2018年7月27日(金)まで開催され、ルンバの開発者であるRodney Brooksさんや、美しすぎる山ゲー『Mountain』を開発したDavid OReillyさん、メディアアーティストの落合陽一さんなどが登壇されます。オルタ2はしばらくの間、日本未来科学館の常設展エリアに展示されますよ。

たとえば、指揮者の体の昂りや内分泌系をセンシングして感動を定量化し、その時と同じ音響環境になるようにアンドロイド指揮者が自分で動けるようになったりしたら、これはアンドロイドが感情を求め始めたと言えるんでしょうか。バッテリーを求めて休憩するロボット掃除機が空腹を解するとは思えませんが、意味や感情は僕たちが勝手に決めてるところもありますしおすし。

などなど、アンドロイドに置き換えるだけでいろいろと考えてしまいますね。パンフレットにも「僕たちは見つけにくく忘れやすい」とありますし、僕たちは多くのものを当たり前に受け取ったり与えたりしてるんでしょう。でも、今夜の素晴らしい公演は忘れれたくないですね。

(7/30 17:28)1つ目のYouTubeの動画を差し替えました。


Photo: Kenshu Shintsubo, ギズモード・ジャパン
Source: Scary Beauty, ALIFE 2018, YouTube(1, 2

ヤマダユウス型