【ネタバレ】「真実味」のある設定と「リアル」な恐竜が恐怖を引き起こす。映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』レビュー

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  • author 中川真知子
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【ネタバレ】「真実味」のある設定と「リアル」な恐竜が恐怖を引き起こす。映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』レビュー
Image: (c)Universal Pictures, (c)Giles Keyte, (c)Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. and Legendary Pictures Productions, LLC.

面白すぎて震えます…!

日本各地で大ヒット上映中の『ジュラシック・ワールド/炎の王国』。いやー、すんごく良いモンスターホラー映画ですよ、これ。最近あんまり面白いモンスターホラー映画に出会えてないな、って人に是非見て欲しい作品になってました。

ジュラシック・ワールドの惨劇から3年が経過し、恐竜たちの楽園と化したイスラ・ヌブラル島は火山噴火の予兆を示していて、何もしなければ恐竜たちは再び絶滅。そこで人類は自分たちのエゴで生み出した恐竜を保護するべきか、また自然に委ねて絶滅させるかの決断を迫られます。しかし恐竜を使って金儲けを企てる輩が現れ、事態は保護云々から人類と恐竜の本格的な共存を問われることになる、というのが『炎の王国』の大まかなストーリーです。

大きく分けると、前半の島での恐竜レスキューが明るくスピード感のあるアクション、後半の屋敷で行なわれる恐竜オークションがキメラ恐竜に追われる密室ホラー。なんといっても見どころは後半のホラーパート! さすがサスペンスを得意とするJ.A.バヨナ監督です。私が考える「良ホラーの条件」を見事に満たしていました。


真実味のある設定

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Image: (c)Universal Pictures, (c)Giles Keyte

『ジュラシック・パーク』があれだけ大ヒットした理由のひとつに「琥珀の中に閉じ込められた蚊の血液から恐竜のDNAを取り出して〜」という、ありえそうな嘘化学の設定があげられます。あまりにも非現実的だとロマンが感じられないし、単なるファンタジー扱いになっちゃうんですよね。

では『炎の王国』はというと…、実話がベースです。具体的には、現実の人間と動物の関係を、人間と恐竜の関係に置き換えています。

たとえば、本作公開前にキタシロサイの最後のオス「スーダン」が死んでしまい、このままいくと絶滅する運命にあるというニュースは記憶に新しいでしょう。

ウー博士が殺戮マシンとしてインドラプトルを作りましたが、生き物を軍事利用する動物兵器や病原体を利用する生物兵器は古くから使われています。

また、今回、恐竜以外にもクローン人間が登場しますが、クローン動物なんて数年前から世界中で誕生していますし、人間への移植を目的とした臓器製作でヒトの細胞を持つブタの胎児や、人間と羊のハイブリッド胎児の作製に成功したといったニュースも世間を賑わせています。

こうした背景を知っていれば監督のメッセージに共感しやすいし、全く知らなくても楽しめるエンターテイメント性の高さでした。


役者も観客も恐竜に対する「リアルな恐怖」を感じる


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Image: (c)Universal Pictures, (c)Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. and Legendary Pictures Productions, LLC.

ストーリーに真実味があっても、登場人物から本物の恐怖を感じられなかったらホラーとしての価値は下がってしまいます。J.A.バヨナ監督はホラーサスペンスが得意というだけあって、リアルな恐怖を出すためにふたつのアプローチをとっています。


■アニマトロニクスを使った俳優と恐竜のリアルな触れ合い

VFX過多になりすぎたシリーズの原点回帰と、登場人物と恐竜の関係をリアルに描く目的で、アニマトロニクスの恐竜が多用されています。だから、傷ついたヴェロキラプトルのブルーを介抱するシーンも、Tレックスのコンテナに入り込んで血液採取するシーンも、インドラプトルが少女の髪の毛を背後から触るシーンもCGではなく、実体のある恐竜(アニマトロニクス)を相手に俳優が演技しています

しかも、俳優の安全面を確保するために油圧式差動装置ではなく、実際に何人ものパペティアが操作して微妙なニュアンスを出しているから、テーマパークのアトラクションにありがちな機械的な動きではなく、本物のクリーチャーみたいでした。あれを目の前にして演技するのはさぞ怖かっただろうと思います。


■俳優から引き出した本物の叫び

いい悲鳴や叫び声というと、絶叫クイーンで知られる『サイコ』のジャネット・リーや『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティスが思い出されますが、ああいった類ではありません。本作の叫びは、あくまで自然体、ナチュラルに発せられる叫びです。

演技の叫びか本気の叫びかっていうのはすぐに判断つくんですね。というのも、私はホラー映画を流しながら仕事や家事をするのを日課にしているんですが、真に迫る叫びは、作業の手を止めさせるだけの威力があります。でも、演技しているのがバレバレな叫びだと「ハイハイ、頑張ってねー」としか思えません。正直いって白けます。

『炎の王国』では、『ジュラシック・パーク』の時と同じく、撮影中に恐竜の唸り声を流して雰囲気を高めているだけでなく、俳優に黙ってセットに仕掛けをして実際に驚かせているから恐怖に嘘っぽさがありません。オーガニックな恐怖だから、こっちも白けることなくストーリーを追い続けられました。


モンスターのデザインが秀逸


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Image: (c)Universal Pictures, (c)Giles Keyte

どんなに恐怖が本物っぽくても、モンスターのデザインが悪ければすべてが台無し。姿が見えないときは怖いのに姿を見せた瞬間から怖くなくなる、というのは残念ホラーのあるあるです。

本作におけるモンスターは、インドミナス・レックスとヴェロキラプトルの遺伝子を組み合わせて作ったキメラ「インドラプトル」。あくまで恐竜をベースに、ワニやネコといった私たちに身近な動物の要素を加味して作っているから、突拍子もないデザインというわけでもありません。それでいて、人間が本能的に不安に感じる離れすぎた目とか、意思疎通できなさそうな小さすぎる黒目とか、癒しとは真逆のトゲトゲボディとか、くっきりと見える鱗とか、気張りすぎていないのに不快感を覚える外見をしているんです。

姿を現しても「あーあ、見せなきゃよかったのに。ガッカリだよ」を感じることなく、インドラプトルが出てきて、なお緊張感が上がる。改めて、恐竜のモンスターとしてのポテンシャルの高さを実感させられましたね。


なんといっても脚本が素晴らしい

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Image: (c)Universal Pictures, (c)Giles Keyte

いいテーマ、凝ったモンスターのデザイン、ハリウッドらしいビッグバジェット。でも脚本が良くなくちゃ駄作です。仰々しい謳い文句に期待して、いざ見て見たら中身スッカスカな映画、多いですよね。

その点『炎の王国』の脚本は魅力的です。そりゃ『ジュラシック・パーク』と比較したら劣りますよ。あの「恐竜はアセット」呼ばわりしていたクレア・ディアリング(演:ブライス・ダラス・ハワード)が恐竜保護活動家に転身していたことも釈然としません。でも、ホラーとして見たらこんなに満足度が高くて丁寧に心情と観客へのメッセージを書いた脚本って珍しいと思います。

脚本を担当したのは、前作で監督をしたコリン・トレボロウ。今作でメガホンを握ったJ.A.バヨナ監督の才能に惚れ込んで、彼が最高の能力を発揮できるように書いているんです。

で、トレボロウにここまで愛されるバヨナ監督というのが、とても興味深い人物で油断ならない映画をつくるんですよ。 43歳の彼は『炎の王国』以前に長編を3本しか撮っていませんが、これが全部大当たりでした。

長編デビュー作はメンターである映像監督のギレルモ・デル・トロと共同制作した『永遠のこどもたち』(2007年)で、よくある邪悪な子供を描いた作品とは一線を画すバッドエンドで美しいホラー。

次に撮ったのが、スマトラ沖地震に巻き込まれたスペイン人の裕福家族の実話を基にした『インポッシブル』(2012年)。

3本目は2016年にはパトリック・ネスのヤングアダルト小説を原作とする『怪物はささやく』。複雑な環境にある少年の心の葛藤、余命いくばくも無い最愛の母親に対する正直な気持ちを丁寧に描いています。

この3作に共通するのが、ラストの衝撃と余韻。それまで見てきたものがすべてではないということを気づかせたり、考えさせたりする構成になっているんです。

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Image: (c)Universal Pictures, (c)Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. and Legendary Pictures Productions, LLC.

で、『炎の王国』はトリロジーの中間話だから含みを持たせたエンディングにする必要があったんですが、その「縛り」がバヨナ監督の得意とする衝撃と余韻を感じさせるラストに見事にハマっていて、まさに理想!

究極のネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、言ってみれば、人間から恐竜へ、視点のどんでん返しです。あまりにも確信をついた展開に思わず唸らずにはいられませんでしたよ。


というわけで、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』が素晴らしいモンスターホラー映画である理由を4つ挙げてみました。どれかひとつ欠けても駄作になるし、世の中にはそういった残念なモンスター映画が溢れています。

本作は最初から最後までジェットコースターなみにドキドキハラハラさせられっぱなし、しかもダレることも白しさせることもありません。見終わった後はグッタリ疲れるほど目一杯楽しめるはずです。こんな良いホラーは滅多にないし、私は大変満足しましたし、久しぶりに良いモンスターホラーを見たと純粋に嬉しいです。

今夏大本命恐竜映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は現在全国で絶賛公開中です。ぜひ劇場で、可能であれば4Dでお楽しみください。


Image: (c)Universal Pictures, (c)Giles Keyte, (c)Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. and Legendary Pictures Productions, LLC.
Source: 映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』公式サイト

(中川真知子)