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「暴力の連鎖」を断ち切るために複数の国で取り入れられている新しい考え方とは?

By Zack Lee

人が人を傷つける暴力や犯罪は、社会からなかなか姿を消そうとはしません。少しでもそんな悪意を減らして暴力のない世界にするために、従来の「罰則」とは異なる新しいアプローチがいくつかの国で取り入れられています。

Violent crime is like infectious disease – and we know how to stop it spreading | Mosaic
https://mosaicscience.com/story/violence-crime-knife-chicago-glasgow-gang-epidemic-gun-health-prevention/

外科医としてスコットランドのグラスゴーで勤務していたクリステン・グッドール氏はある日、顔に大きな傷を負った急患の男性を受け入れました。グラスゴーは世界でも非常に高い殺人率を示す都市であり、暴力事件が日常的に起こる街であるとのこと。男性の傷を見たグッドール氏は「この傷は治せない。どうやって彼に説明すればいいのだろう」と悩んだそうですが、当の男性は顔に傷を負ったことを全く気にしていなかったそうです。

一般的に、顔に大きな傷を負うことは心にも大きなダメージを負い、その後の人生にも少なからず影響があると考えるもの。それにもかかわらず、男性があっけらかんとした態度を示していたことが理解できなかったグッドール氏でしたが、見舞いに来た友人の一団を見てその謎が解けたとのこと。運ばれてきた男性の友人はいずれも、なんと男性と同じように顔に傷跡を持っていたそうです。つまり、この男性にとって顔の傷は、「もう昔には戻れない、人生における大きな傷」ではなく、「仲間に認めてもらえる勲章」のようなものだったというわけです。

By Rob

この出来事は、暴力を考える上で1つの大きなヒントとなり得ます。法治国家において、暴力で他人やその財産に損害を与えたものは、刑事罰や民事上の責任を負うこととなります。悪事に対しては罰則を与えることで犯罪を抑止しようというのが一般的な犯罪マネジメントの考え方であるわけですが、本当に犯罪を抑止するという意味においては、この方法は対症療法であるといえます。暴力が起こることを未然に防ぎ、社会から本当に暴力をなくすためには、法で抑え込むのではなく「暴力に至る考え方」をなくすことが重要であるという考え方が注目を集めており、実際に一部で実践されています。

この考え方は、「病気のまん延」に共通するものがあるとのこと。多くの人が命を落とすAIDSや、インフルエンザや風邪といった伝染性・流行性のある病気は多くの場合、事前の対処が十分でないことから人々の間に広まることが多くあります。性交渉が伝染の大きな要因の1つであるAIDSは、コンドームなどの道具を用いることが有効な防御策になり得ます。また、インフルエンザはワクチンを摂取することで一定の予防効果が期待できます。これと同じように、「暴力の伝染」を草の根レベルで抑え込むことで、社会から暴力そのものが起こる環境を少なくしようという考え方が興っています。

それを実践に移している例の一つが、グラスゴーにある暴力抑止部隊「VRU(The Violence Reduction Unit)」です。VRUはスコットランド警察に所属する組織で、従来のように暴力の罪を犯したものを逮捕して法律で裁くだけでなく、自分が犯した罪がどのようなものだったのかを、警察や救急隊員、前科のある人、また被害者の家族などに引き合わせて、理解させるという取り組みです。

By Iqbal Osman1

VRUが取り入れている考え方は、暴力抑制のための「公共衛生」のアプローチであるといわれています。これはつまり、暴力が病気のように人から人へと伝染していくことを食い止めるアプローチであることを意味します。人が暴力をはたらく原因の一つは、「自分が暴力の犠牲者になった」という事実です。暴力が暴力を呼び、悪意の連鎖が無限に広がることをどこかで断ち切ることで、暴力をそれ以上拡大しない環境を作る取り組みが行われています。

WHO(世界保健機構)が掲げる暴力抑止ガイドラインには、「暴力は常に存在しているものではあるが、世界はそれを人間の条件の不可避な一部として受け入れる必要はない」と述べています。またこのガイドラインは、暴力は公衆衛生によって種々の病気が回避されるのと同じように暴力も抑止できるとし、「態度や行動の要因であろうと、より大きな社会的、経済的、政治的、文化的条件に関連するものであろうと、暴力的な反応に寄与する要因は変わる可能性がある」と述べています。

アメリカのシカゴでも、暴力の伝染を防ぐために同様の取り組みが行われているとのこと。イリノイ大学公衆衛生学部に属する「Cure Violence」と呼ばれる組織はVRUと同様に、犯罪を犯した人物に接触し、ケアを施して考え方(マインドセット)を改善することで、人々を暴力が連鎖する世界から普通に働いて生活を送る平和な世界へ移行することを促しているとのこと。この取り組みを実践するスタッフは「インタラプター(抑止者)」と呼ばれ、暴力が暴力を生む悪循環を断ち切るための取り組みを日夜行っているそうです。

By Pedro Ribeiro Simões

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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