最低賃金引き上げは生産性向上が前提だ
働く人には少なくともこれだけは支払わなければならないという最低賃金が、2018年度は時間あたり26円上がる見通しになった。16、17年度の25円を上回り、最低賃金が時給で示されるようになった02年度以降で最大の上げ幅となる。上がり方が急なため副作用の心配もある。
中小企業の負担は増す。政策として最低賃金の引き上げを積極的に進めるなら、中小企業の成長力強化の後押しも政府の役割としてより重要になる。生産性向上の支援に力を注ぐ必要がある。
厚生労働省の審議会の小委員会が、都道府県ごとに定める最低賃金の上げ幅の目安を時間あたり平均26円とすることを決めた。最低賃金の年3%程度の引き上げをめざす政府方針に沿った形だ。全国平均の時給は874円になる。
最低賃金の引き上げは消費を刺激する効果が見込め、非正規労働者の処遇改善にもつながる。日本の最低賃金はフランス、ドイツなどと比べ低い水準にあり、引き上げが求められているのは確かだ。
ただし、最低賃金の引き上げは、企業の生産性向上と歩調を合わせて進めるべきものだ。
人手不足で中小企業にも賃上げが広がるが、賃金水準が最低賃金の近辺の企業も少なくない。人件費負担が重くなり雇用削減を招く事態になっては本末転倒だ。
12年末に第2次安倍政権が発足して以降の最低賃金の上げ幅は、18年度が目安通りになれば計120円を超える。最終的に上げ幅を決める都道府県は地域経済への影響を十分考慮して判断すべきだ。
政府は賃上げに努める中小企業の人件費負担を和らげるため助成金を出しているが、企業の競争力向上につながるわけではない。
政府がもっと強力に進めるべきは、企業が無理なく継続的に賃金を上げていくための環境整備だ。成長分野への進出を促す規制改革や従業員の能力を高める職業訓練の充実など、生産性向上の支援に多面的に取り組まねばならない。
下請け企業への過度な値下げ要求など、不公正取引の監視強化も課題になる。中小企業自身、低賃金の労働力に頼らずに済むようにするために、経営改革に力を入れる必要があるのはもちろんだ。
最低賃金を守らない企業の取り締まり強化も求められる。外国人労働者の受け入れ拡大を円滑に進めるためにも、企業は法令順守を徹底しなくてはならない。