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テック企業が明確な文章を書く必要がある理由

Why tech companies have to write clearly

2018.07.31

Updated by Mayumi Tanimoto on July 31, 2018, 05:48 am JST

ここ最近、日本では移民問題が話題になることが多いですが、実はこれはテック企業の採用だけではなく、サービス運用にも大変大きな影響を及ぼすことからですから、十分ウォッチしておく必要があります。

日本政府は先日、研修生制度や就労許可の緩和を発表しました。私はこの内容を読んでかなり驚いたのですが、そもそも研修生という就労ビザは、他の先進国から見ても恐ろしく自由度が高く、審査基準もゆるいものです。その研修生の滞在期間を延長し、おそらくは将来的に家族の呼び寄せも可能になるのでしょう。

これは実質的には、大規模な非熟練労働者の移民の導入です。

移民国の米国やカナダ、オーストラリアであってもここまで緩い制度を運用してるところはありません。例えば、ほとんどの国では非熟練労働者には就労許可がでません。先進国の例外はEU加盟国で、EU圏内でEUの国籍があれば、どこの国に住んだり働いたりしても自由ですから、賃金水準の低い東欧の国々や失業率の高い欧州南部から、サービス業、工場の生産ライン従事者、農業労働者、建築労働者、清掃員などがドイツやフランス、英国など賃金の高い国に移民して働いています。

東アジアにはEUのような仕組みがありませんが、日本はおそらくEUのような状態を作り出したいのでしょう。

日本政府は、こういった移民たちに厳しい日本語の試験や日本社会に関するテストを実施しない方針ではありますが、そういった外国人が増える場合に必要になるのは、外国語で書いた注意書きや規約です。

これは、テック企業にとっては実は大変重要なことで、サービス契約や契約条項などを外国の人でも分かるように書いておかなければ、サービス利用後に、サービスレベルや提供サービスの内容などでユーザーと意見が食い違ってしまいトラブルにつながる可能性が高くなります。サービス規約だけではなく、ユーザーマニュアルなども同じです。

ところが、現在の日本の多くのサービス契約やユーザマニュアルといったものは、日本社会の「常識」をもとに書いたものが多いのです。

日本人であれば知っていると思われる単語や事柄を前提に書いてあります。ですから、肝心な点が抜けており、外国の人には理解できないことが出てきます。

例えば

「何々のご利用はご遠慮願います」

「これは見本品です」

「いつもきれいに使っていただいてありがとうございます」

 

と書いても、外国の人からすると

 

「遠慮してくださいと書いてあるだけだから禁止しているわけではない」

「見本品と書いてあるがこれも売ってくれるのだろう」

「この店の人はやたらと感謝をするのだな」

 

と考えるに過ぎません。

 

何かを禁止したいのであれば

 

「これは売り物ではない」

「触るな」

「動かすな」

「汚すな」

 

と単刀直入に書かなければ意味が通じません。

 

こういった書き方は、日本語では大変違和感があるものですが、これは日本では相手に対して単刀直入にものを言ったり注意することがないからです。 この言語体系というのは、思考を言語化し、メッセージを明確に伝える体系になっていません。

これは、日本が農業を主体とする集団主義の文化圏であり個人主義の文化圏ではないということが影響しています。集団主義の文化圏においては非言語的なコミュニケーションが重要視される側面が大きく、メッセージや意思を言語化して伝えることはあまり重要ではありません。暗黙の了解により相手との意思疎通を図ることが多いのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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