CERNの大型ハドロン衝突型加速器がはじめて、「原子」を加速させることに成功!

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CERNの大型ハドロン衝突型加速器がはじめて、「原子」を加速させることに成功!
Image: Maximilien Brice/Julien Ordan/CERN

宇宙の謎にまた一歩近づけそうです。

スイスの欧州原子核研究機構(CERN)にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)ではじめて、電子が残っている状態の原子核、「原子」を加速させることに成功しました! この研究で、より幅広い実験が可能になり、ダークマターに関する研究など、さまざまな分野への応用が期待されています。

LHC(大型ハドロン衝突型加速器)を改造

LHCは、通常地球上では不可能なほどの高エネルギーを素粒子に与えるが可能な実験施設で、宇宙の謎を解き明かすために作られました。ヒッグス粒子とみられる新しい粒子を発見するなど、新聞やテレビのニュースでも取り上げられたことがあることから、少なくともLHCの名前を聞いたことがあるという読者は多いと思います。今年亡くなられた理論物理学者スティーブン・ホーキング氏が、ヒッグス粒子の発見により最終的に「宇宙が崩壊する」と警告したことで、知った方もいるかもしれません。

LHCで加速させる対象として、中性の鉛原子や水素ガスがよく使用されます。しかし、これらの原子は加速器の中に入る前にある金属箔を通過するときに、電子を失ってしまいます。そこで、LHCのエンジニア、Schaumann氏率いるチームは、金属箔の幅を調節することで、従来の方法では失われていた電子が1つ残るようにしました。 そうして、原子の状態を維持したままの鉛原子を、LHCで加速させることに成功しました。

Schaumann氏はプレスリリースで、「私たちはCERNの研究プログラムとインフラストラクチャを拡大するための新しいアイデアを探しています。まず、何が可能なのか研究することが、最初の一歩です。」と述べています。

求めているのは人類最強のガンマ線

今回の実験は、LHCをガンマ線光源として利用するという提案の概念実証として行なわれました。もし実現すれば、もっとも高エネルギーな人工光を作り出すことが可能です。このガンマ線は、ダークマターに関する研究を含め、基礎研究や産業利用など、様々な分野への応用が期待されています。

まずひとつの電子を持つ原子にレーザーを当てることで電子をよりエネルギーの高い状態に遷移させた後、電子が基底状態に戻った時に光子が発生します。要は、原子ひとつひとつが光を発するわけです。

ただLHCではこの原子が光速に近い速度まで加速しているために、光のドップラー効果によって進行方向に放たれた光子の波長が凝縮され、エネルギーが増加→ガンマ線になります。

これからも続くLHCの応用、なにを加速したい?

今回の研究に参加していませんが、CERNの物理学者であるJohn Jowett氏は米ギズモードに対して、「今回のSchaumann氏の研究は素晴らしく、興味深いものである」と述べています。

今回の研究以外にも、LHCの科学者たちは昨年、鉛原子の代わりにキセノン原子を加速させるなど、新しいことにチャレンジしています。また、もっと早くデータを集められるようアップグレードも実施されました。こうした新しい試みを通して、宇宙の謎を解き明かしていくんですね。

Source: CERN, arXiv /