防護服を着た子供像「サン・チャイルド」は、なぜ福島で炎上したのか

「被災地と現代美術」がもつ複雑な問題

「住民は怒っている」と世界で報じられた

2018年8月3日、JR福島駅前にモニュメントが設置されました。現代美術家として知られるヤノベケンジ氏が2011年に、東日本大震災をきっかけに制作した、「サン・チャイルド」と呼ばれる全高6.2mにもなる巨大な子供の像です。

その容貌は、黄色い放射能防護服を着た子供がヘルメットを脱いで左手に抱え、顔に傷を負い、絆創膏を貼りながらも、空を見上げて立っているというものです。胸には「000」と表示されたガイガー・カウンター(放射線測定器)が表現されています。

2012年にイスラエルで展示された「サン・チャイルド」。これは福島市に展示されているものとは別の個体(CC BY-SA 3.0, Photo by Oren Rozen)

しかし、この像が設置されると、様々な批判と議論が起こりました。

国内のメディアの他、英国BBCが 「福島市がJR福島駅付近に設置した防護服姿の少年像に、住民らが怒りの反応を示している。2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、同市が未だに放射能に汚染されたままだとの印象を与えるとの声もある」と報じ、同国のガーディアンやデイリー・メール、シンガポールのストレイツ・タイムズや香港のSCMP、中国新華社通信などの海外メディアまでもが報道する事態となっています(https://www.bbc.com/japanese/45192561

批判に対し、像を受け入れた福島市の木幡浩市長は「空を見上げ立ち上がる姿に、力強さと希望を感じる。風評への影響は限定的だ」とコメントしているものの、騒動は今も続いています。

また、「サン・チャイルド」のコンセプトについて、作者であるヤノベケンジ氏は自身のブログで以下のように説明しています。

 
立ち上がる子供たち

《サン・チャイルド》(2011)は、東日本大震災・福島第一原発事故を受け、復興・再生の願いを込めて制作された全長6.2mの巨大な子供像です。(中略)子供は未来を表しており、それらは放射能の心配のない世界を迎えた未来の姿の象徴でもあります。そして、右手に持つ「小さな太陽」は、次世代にエネルギー問題や放射能汚染が解決される「未来の希望」を象徴しています。

(註)この度の福島市での設置にあたり、衣装と胸のカウンターがゼロであることが、誤解を招くとのご意見が出ております。作者は、1991年からガイガー=ミュラー計数管を海外から取り寄せ、作品の素材として使っており、自然放射線の計測数で動く作品も多数制作しておりますので、空間線量がゼロになるという理解はしておりません。あくまで、原子力災害や核がゼロになった世界を象徴的に示しており、「ガイガー・カウンター」と簡略化して説明をしたことが誤解を招く元になっていたと反省しております。防護服もまた、巨大な問題と闘う甲冑のようなイメージを持たせた象徴的なもので、未来に続く宇宙服のようなイメージを持たせております。作者からのこの度の設置に対する声明文が出ておりますのでご一読下さい。http://www.yanobe.com/20180810_KenjiYanobe_Statement.pdf

(以上引用、http://yanobe.hatenablog.com/entry/2018/07/04/213853

ヤノベ氏のブログでの(註)にもあるように、「サン・チャイルド」の胸につけられた線量計の数値が「000」を示していたことも、確かに批判が起こった要因の一つではあったでしょう。世界のどこであっても原発事故とは無関係に放射線は存在し、数値がゼロになることはあり得ません。

しかしヤノベ氏の作品はあくまでもアート作品ですから、通常、科学的な厳格さを求められるものではなかったはずでした。──それが少なくとも、福島駅前という、沢山の人々が日常を暮らす生活圏に展示されなかったならば。

この作品は2011年に制作され、震災からほどない頃には福島空港にも展示されていたものです。なぜそれが、いまになって「炎上」したのか。それを理解するためには福島県全体、そして福島市で今まで何が起きてきたのか、震災直後と現在で何が変わったのか、という経緯を知らなければ十分ではありません。

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