W杯優勝はアフリカ? あるジョークが起こした「古くて新しい論争」

相手には相手なりの事情がある

アフリカがワールドカップを制した?

前回(「フランスがW杯優勝で得た『勝利以上のもの』とは何か」)取り上げたように、今年のワールドカップ・ロシア大会は優勝国フランスの「共和国万歳!」で幕を閉じた。

翌日(2018年7月16日)には、優勝チーム“Les Bleus(レ・ブルー)”がパリを凱旋し、市内は熱狂の渦に包まれた。大統領官邸であるエリゼ宮でマクロン大統領の歓待も受け、代表チームのメンバーは改めて勝利の美酒に酔いしれた。

そんなレ・ブルーだったのだが、思わぬところから物言いがついた。

〔PHOTO〕gettyimages

ことの発端は、三日後の2018年7月19日の夜のこと。アメリカの人気コメディショーである「デイリーショー」でホストのトレバー・ノアが、フランスの優勝をとりあげながら「アフリカがワールドカップを制した」と伝えたのだ。

理由は明白で、レ・ブルーのメンバーの多くが、アフリカからの移民の選手であったからだ。

 

試合を観戦した人なら誰もがうなずくことだと思うが、先祖がカメルーン出身のエムバペやギニア出身のポグバといった褐色肌の選手の活躍なくして優勝があり得なったのは一目瞭然だ。

つまり「アフリカ系の選手」こそが優勝を導いたのであり、その限りで「アフリカがワールドカップを制した」のだ。それがトレバーの発言の趣旨だった。

といっても、あくまでもコメディショーの中でコメディアンが発したジョークであった。

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ところが、このトレバーのジョークを聞き流せない生真面目な人がいた。在米フランス大使のジェラール・アローその人だ。わざわざレターを番組にまで送り、トレバーの発言が不当であると抗議の意志を示した。

アローの趣旨はこうだ。

肌は褐色であったとしても彼らもまた「フランス人」であることには相違ない。なぜなら、彼らのほとんどが、フランス国内で生まれ、出生時からフランス国籍を有するフランス人だ。

確かに、フランス代表23名のうち、15名については、カメルーンやコンゴなどのアフリカ系の先祖をもつ。だが、アフリカ生まれの選手は2名に過ぎない。その意味で国籍上は21名が、肌の色に関係なく生まれた時から「フランス人」である。

したがって、アフリカではなく「フランスが勝った」というのが正しい、というものだ。

この大使の反論に対してトレバーは、ウェブでビデオを公開し反論してみせた。

番組終了後に会場で収録されたそのビデオの中で、トレバーは、アフリカという出自を抹消して一律にフランス人と呼ぶことに対して「コロニアリズム(植民地主義)」という言葉まで用いて非難することも辞さなかった。

つまり、トレバーもまた、「大マジ」であったわけだ。

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