敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ子育て術「HOW I PARENT」シリーズ。今回は、男性目線の育児を描いた『そのオムツ、俺が換えます』を連載中の漫画家・宮川サトシさんの子育て術です。

ここ数年ウェブから人気に火がつくクリエイターが増える中、ウェブ漫画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』で強烈なインパクトを与えた宮川さん。その後も「オモコロ」で発表した『情熱大陸への執拗な情熱』や、今春からテレビアニメがスタートした『宇宙戦艦ティラミス』(原作)など、独自の切り口とコミカルな展開で大きな反響を呼んでいます。

なかでも自身の子育てについて描いた『そのオムツ、俺が換えます』(ベビモフにて好評連載中)は、妻の視線を意識した“見せる育児”で話題に。

妻に褒められたいがためにオムツ替えを率先してやったり、妄想上の “育児ポイントカード”が溜まると自分へのごほうびが許されると(勝手に)設定したり。(ちなみにオムツ替えは1ポイントで、20ポイントで友だちとの飲み会に行ける!)

男性なら「わかるわ〜!」と共感、女性なら思わずツッコミを入れたくなる些細なネタであふれています。そんな宮川さんの子育て術とは?

氏名:宮川サトシ(40歳)

居住地:東京都内

現在の職業:漫画家

家族構成・年齢:妻37歳、長女3歳

——最初に家族とキャリアについて。ここまでの人生は概ね計画通り? それとも予想外のことが多かった?

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まったく予想外の人生ですね。

もともと仕事は塾の講師をしていましたし、結婚も子どもを持つことも計画にはありませんでした。とくに子どもに関しては、僕が10年程前に骨髄移植をしていて自然に授かるのが難しかったので、マイナスなイメージがあって。

<骨髄移植の放射線治療により妊よう性(妊娠するための力)が失われる可能性がある。宮川さんの場合、それを知った亡きお母さんが内緒で凍結精子保存の手続きをして、将来子どもを持つという選択肢を残しておいてくれたことを著書『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』で綴っている>

でも、最初は「あなたが生きていてくれるだけでいいよ」と言っていた妻が、僕がだんだん元気になっていくうちに本音を出すようになって…。

いつの間にか子どもが欲しいという空気になり、最終的にはそれに乗っかった感じです。花束を贈るとか、アクセサリーを買ってあげるとか、何よりも子どもが妻が喜んでくれる最上級のプレゼントなのかなという気がしています。

仕事の方は、以前は地元の岐阜県で個人経営の塾をやりつつ、昔から映画が好きだったので、趣味で10分位のショートムービーを撮ってYouTubeにアップしていたんです。そのうち映画作りのワークショップに通ったり、シナリオや絵コンテを描くようになり、漫画も投稿するようになりました。

そうするとそれを「面白い!」と言ってくれる人が出てきて、どんどん承認欲求が高まってきて…。

妻も「これは世の中に出すべきだよ!」とお尻を叩いてくれました。そこで、京都で開催されていた出張漫画編集部というところへ持ち込んでみたところ、デビューが決まりました。

そのときは「よし行くぞ!」というより、ダメなら仕方ないかというくらいの気持ちでした。なんかちょっと自信はありましたけどね(笑)。

——家事と育児(日常生活、子どものイベント参加や送り迎えなども)をパートナーとどのように分担している?

お互いに得意・不得意がはっきりしているので、きっちり分担しています。

妻は洗濯物をきちんと干すのが苦手なので僕、食事やお弁当作りは僕ができないので妻というふうに、最初から役割を決めたわけではなくて、テニスのダブルスのように得意なボールをそれぞれが取りに行って、だんだん呼吸が合うようになり、バシッと決まったという感じです。

風邪で寝込むようなよほどのことがなければ、これは誰の役割と決まっているので、分担についてあまりケンカをしたことはありませんね。

——パートナーとの家計管理はどうしている?

すべて妻に管理してもらっています。

お金を見ると欲が出て「もっとこういうふうに描かなきゃ!」と余計なことを考えてしまうので、見ないようにしています。お小遣い制です。

——パートナー以外に、誰からどの程度育児を手伝ってもらっている?

お互いに実家は岐阜で、東京に出てきていますし、僕も妻も母親を亡くしているので、サポートはゼロですね。

たまに夜、ベビーシッターをお願いしたいと考えることもあるんですが、いざとなると踏み出せないでいます。

——「これがないと生きられない」というガジェット・アプリ・チャート・ツールは?

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Apple Watchです。

女の人ってカバンにスマホを入れているからかLINEの返事が遅かったり、電話にすぐに出られなかったりしますよね。妻もそうで、必要なときに繋がらなくて困ったことが多々あったのですが、Apple Watchだと通知が手首に来るので嫌でも反応してくれます。

保育園のお迎えの交代とか、打ち合わせで帰りが遅くなるとかの急な連絡もスムーズで、実務的にこれがないと困ります。

あと、お互いの予定を共有しているGoogleカレンダーもマストですね。

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それといま宮川家で大流行しているのがOQTA(オクタ)」という鳩時計。これスゴいんですよ!

どこにいても、スマホのアプリでボタンを押すと家でハトが鳴くんです。ただこれだけの機能なんですが、お互いの邪魔をせずに“想い、想われている”ことに気がつけるので、大事なコミュニケーションツールになっています。

こっちが「元気かな、何してるかな」と思ったときにLINEやメールをしちゃうと相手の時間を止めちゃうし、こっちもただ想っているだけなのに億劫じゃないですか。

だから、仕事で外にいるときに時々慣らすんですが、家で子どもがニコッとなっているみたいです。

——子育てをするようになってから仕事のやり方は変わった?

「子どもに仕事をしている姿を見せよう」と思うようになりました。

時間はかかってしまうんですが、家で漫画を描いているときに膝の上に乗せて「一緒に描いてみる?」と見せたりしています。

たとえヘタクソな絵を描いていても「これでご飯を食べているんだよ」と妻も横で言ってくれますし、仕事の可能性を幅広く考えていけるようになって欲しいなと。

そういう面倒なことも教育の一環にしたいなと思っています。

——娘さんには、自分のどんなところを見習って欲しい?

ユーモアですね。

自分がダメなところばかりを見ちゃう性格なので、見習うどころかいち早く、来年にも自分を超えて欲しいくらいなんですけど(笑)。自分の人生で唯一役に立っているのがユーモアなので、いま“ユーモア教育”をしています。

たとえば食べたかったおやつがなくて泣いたとき、オモチャのピアノを差し出して「泣くんじゃなくて、どのくらい悔しいのか表現してみろ!」って(笑)。

そうすると娘もピアノを鳴らしながらエネルギーを爆発させて歌うんですよね。そういう表現をしていたら、いつか友だちの前でギャグでやるようになると思うんですよ。そうしたら「面白い奴だな」っていじめられないんじゃないかと。たいがいのことはユーモアが解決してくれる気がします。

あと最近は友だちが子どもを連れて遊びに来たときに、“寝ながら笑います”っていう芸をするようになりました。まあこれも仕込んだんですけど(笑)。

やっぱりそういうユーモアを日々取り入れていくのは大事だなと思っています。

——(現段階での)子育てのベストなコツは何?

夫婦でめちゃくちゃ話すこと。

うちは子どもが寝た後、妻とハイボールを作って飲みながら一日の反省会をするんです。そのときはテレビを消して部屋を暗くして、バーみたいな雰囲気で語り合います。

最初こそ仕事の話はしますが、後はほとんど育児の話になりますね。

育児って共通の趣味じゃないですか。たとえがおかしいですが、一緒に育てているポケモンの話をしているみたいな感覚です。

「今日のあれ可愛かったよね〜」と話しているうちに、「保育園でオモチャの取り合いになったらしいんだけど、どう言うべきだったかな?」と、問題に思ったことや避けたいことをすり合わせられるし、共通認識が持てるようになりました。

夜話すようになって妻もストレス発散になっているそうで、僕も安心して仕事と育児ができるようになりましたね。

——1日のうちで一番好きな時間はいつ? 息抜き方法、リラックス方法は?

ちなみに夫婦で夜に飲みながら話す時間を“夜会”と呼んでいて、その夜会が一番のリラックスタイムでもあります。そろそろ休肝日を作らなきゃいけないぐらい、もう毎日。

ハイボールにシークァーサーを足すと美味しいのに気づいて、わざわざ沖縄から原液を取り寄せたり、間接照明を買ってムーディーな雰囲気を作ったりして楽しんでいます。

きっかけは、単純に夫婦でハイボールにハマったことから始まった習慣ですが、酔ったらすぐに寝られるし(育児会議という)生産性もあるし、家飲みは最高ですよ!

でも、あまりこれ言うと友だちから飲みに誘われなくなっちゃうかな(笑)。

——漫画の中で“育児ポイントカード”を頭の中で設定して、自分へのごほうびを許可するというシーンがあるけれど、実際もそうしている?

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もちろん、ポイントカードを本当に作っているわけではありません。

でも、「今日これだけ頑張ったんだから、その分ジャンプ買って読んでいいでしょ」とか「飲みに行ってもいいでしょ?」っていう“等価交換”みたいな感じでやっている部分って、育児にも絶対にあると思うんですよ。

「自分の子なんだから当然」という意見も多いけれど、頑張ったこと自体を否定する必要ないんじゃないかと。だから同じように、妻から「私も頑張ったから夜はお酒飲みたいな」と言われるとホッとします。

男ってやっぱりいつまでたっても幼稚で、だからこそ子どもと遊ぶときには一緒になってワーッとやれてしまうところがあるんだけど。お互いごほうびに目くじらを立てずに頑張ったことを認めていくのが大事なんじゃないかなと思っています。

——(現段階で)子育てで一番難しいことは何?

僕の場合、問題が起きたときに、まずそのことを漫画にしようといろいろな角度から(客観的に見て)考えるクセがついているので、そのうちに答えがちょっと見えてきます。

最近だと、娘がよく「お腹が痛い」って言うんですけど、本当に痛いのか? ただ構って欲しいだけなのか? どちらかわからなくなるときがあって。少し違う方法で確かめてみようと妻と示し合わせて、そう言われても一度あえて気にしないでみることにしたんです。そうしたらしばらくして「お腹が痛い」のは、おさまっているんです。

そんな風に、対処法はだんだんわかっていくし、「いつか漫画にしてやろう」と頭の片隅で思っているので、めちゃくちゃ悩むということはあまりないんです。

ただ少し前に娘が保育園に行きたがらなくなったときは、今までで最大に悩みました。それも漫画に描くことで様々な角度から問題点が見えてきたし、妻と試行錯誤しながら、考えていくうちに気づいたら解決できていました。

——家族を持って、将来の夢やプランはどう変わった?

いつ辞めてもいいと考えていた漫画の仕事を続けたいと思うようになりました。今は、娘が巣立つまでは元気でやっているところを見せたいんです。

でも、大きな野望ができたわけではなくて、家族3人が明日のご飯に困らない生活を維持していければなくらい、とくに目標も変わってはいません。

——子育てとキャリアを両立している(させたいと考えている)親御さんたち に伝えたいひと言は?

子どもを持ったら(大変になるから)仕事を減らさなきゃというのは、 自分の場合は少し違っていました

僕は子どもが生まれてからの方が圧倒的にこなせる仕事量は増えました。

それは、子どもができたおかげで、今までいかに自分がどうでもいい時間を過ごしていたのかがわかり、要領が良くなったから。

子どもが保育園から帰ってきたらなるべく一緒に過ごしたいので、夕方までにやることをギュッと詰めて終らせていますが、それでなんだかんだ回っています。

子育てもキャリアも、頭で考えている通りにはならないので、心配し過ぎて仕事を減らさなきゃと構えなくても僕の場合は案外大丈夫でしたよ! と伝えたいです。

——最後に親として、手渡したい娘さんへのギフトは?

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この漫画『そのオムツ、俺が換えます』です。

妻がよく「一番の育児記録で、最高のギフト。あの子は幸せだよ」と言ってくれるので、早くこれを読ませたいですね。

僕が仕事で大事にしているのは、“本当のことを描く”ということ。

最初は子どもができて戸惑ったけれど、今は大好きなんだっていうところを素直に見せたいと思っています。将来、娘が漫画を読んだときに「お父さん、ヒドイ」と言われることもあるかもしれませんが、「そう思ったんだから仕方ないじゃん」って胸を張って言えるようにしたいですね。

仕事の効率が劇的にあがった。Pinterestのエンジニア、シャー・シャー・チューさんの子育てハック

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取材・文: 佐々木彩子/撮影: 中山美華

撮影協力:名曲・珈琲 新宿 らんぶる