水力発電ならぬコンクリート力発電が誕生。瓦礫でも発電できます

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水力発電ならぬコンクリート力発電が誕生。瓦礫でも発電できます
Image: Quartz

第3の蓄電技術になるのでしょうか…?

家庭に電気を送る電力系統は、使う分だけ発電して需給バランスをとらなきゃならないので微調整用の蓄電技術を装備しています。その主役は「揚水発電」、つまり余った電力でポンプを回して下のダムから上のダムに水を汲み上げ、日中のピーク時にドバっと放流して水車を回し発電する蓄電技術でありまして、これが世界全体では96%を占めます。

ただ揚水発電は「標高差」と「水」が必要。できる地域が限られているのがネックです。日本には40カ所以上ありますけれど、世界の揚力発電の4分の3はたったの10カ国に集中しているんだそうですよ?

火力発電から風力や太陽光の発電まで裾野が広がる中、ダムに頼ってばかりもいられない!と立ち上がったのがスイスの新会社「Vault Energy」です。ダムとポンプの代わりにコンクリートとクレーンを使う新蓄電技術を極秘開発し、米コネチカット州で8月半ばに開かれたイベント「Kent Present」で発表しました。

GQが7月にミラノから車で2時間北にあるスイス国境の街ビアスカを訪ねてその様子を取材し、「コンクリート・プラン(手堅いプラン)」として報じています。

コンクリート塊は水より密度が大きいので、同じ体積の水を持ち上げるよりエネルギーがかかります。そのぶん蓄電できます。

Video: Quartz/YouTube

このブルーのドラム缶のものは、約9カ月かけてつくった、新しい技術を10分の1サイズで再現したミニチュア版です。かかった工費は200万ドル(約2億2223万円)。高さ20m、コンクリート塊は重量500kgですが、動画の最後のほうにあるように、実用版(トップ画)では真ん中に高さ120mのクレーンを置き、その周りに重量35トンのコンクリート塊を円筒状に積み上げます。蓄電量は20MWh 。スイスの2,000世帯の丸1日分の消費電力をこれでカバーできるんだそうですよ? へー!!

持ち上げるエネルギーの約85%は、下におろすときに回収できるので、リチウムイオン蓄電池の90%と比べても遜色ありません。ハードウェアは単純ですけど、コンクリートが揺れないようにするところなんかの制御ソフトは結構開発が大変だったみたい。リチウムイオンに比べたらコンクリートは市販品だし、ずっと安い気がしますけど、何百個も必要なので資材の中では一番コストがかかります。そこでビルの解体で出る瓦礫なんかを混ぜて再利用する機械も開発しました。これだと新品のコンクリート混入量は6分の1で間に合います。

CEOのRobert Piconi氏が営業で回っているのは主にアフリカとアジアの諸国で、米国では早くも受注を確保し、来年はじめの初の実用化に向けて取り組み中とのことです(詳細は不明)。

第3の蓄電技術になるのか…?

コンクリート発電の強味はコスト、そして長期保存ができることなので、第3の蓄電技術…といきたいところですが、そのためにはコストを落とさなきゃなりません。現在の送電網の蓄電技術をそれぞれ見てみましょう。

1)リチウムイオン電池:〇時間の蓄電が可能。蓄電量は数十~数MWh。コストは280~350ドル/kWh。夜間に使わない電力を貯めておいて日中に吐き出したりできる。

2)フロー電池など:〇週間の蓄電が可能。蓄電量は数百~数千MWh。風が凪いで発電できなくても1~2週間はこれでもつ。

3)これからの蓄電技術:〇カ月の蓄電が可能。蓄電量は数万~数十万MWh。冬の電力を夏のエアコンがピークの時に使ったり、夏の電力を冬の暖房がピークの時に使ったりできる。

コンクリート発電が第3の蓄電技術になるためには、10ドル/kWhまでコストを落とす必要があります。10基実用化する頃にはコストは150ドル/kWhまで抑えることができるとCEOは見ていますが、今のリチウムイオンは100ドル/kWhまで落ちるっていう話もありますので、そうなると競争に勝ち残れません。土地も直径100mほど必要だし…なかなか厳しい現実が…。ただ、「劣化する・再利用不能・20年で寿命がくる」のリチウムイオンに比べ、コンクリートの塊は「劣化ゼロ・メンテほぼ不要・30年稼働できる」ので、土地と資材が十分ある場所ならニッチな需要があるんじゃないかとCEOは期待していますよ。

コンクリートで電気が貯められるなんて、面白いですね。みんな理科で高さとかエネルギーとか習ったときに心のどこかでイメージした図なんじゃ…。うわ本当に積み上げてる!となりますよね。

Source: Quartz, YouTube