アメリカ人は、良くも悪くも引っ越し魔として知られています。今はその予定がなくても、いずれどこかの時点で荷物をまとめ、はるか遠くへ移り住むことになる人は多いでしょう。それくらい、引っ越しはアメリカでは一般的です。

ところが、引っ越しは、人生の中で大きなストレスになる出来事の中でも、「親しい人の死」と「離婚」に次いで第3位に入るという話があります。それほど心理的負担が大きいわけです。では、何かと気が重い引っ越しに、どう向き合えばいいのでしょうか?

そこで米Lifehackerは、LMSW(ニューヨーク州認定ソーシャルワーカー免許)を持ち、ニューヨーク市にあるメンタルヘルスクリニックでプログラムディレクターを務めるRosalie Knecht氏に話を聞きました。

引っ越しは人を不安にする

Knecht氏のところに来る患者さんは両極端で、「それまで持っていたものすべてを捨てて」遠くから移住してきた人と、両親が暮らす実家から一度も出たことがない人に分かれるといいます。

Knecht氏の経験によると、「これまで住んでいたところとまったく違うところ移り住んだ人はもちろん、そうした長距離移動をすると想像しただけでも、人は不安感に襲われることがあるというのです。

この記事では、引っ越しがストレスとなる要因をKnecht氏に分析してもらい、その心労を和らげる方法についても考えていきます。

金銭的負担に備えよう

当然ながら、引っ越しを繰り返すと、「たとえセーフティーネットがある場合でも経済的な不安が伴うものだ」とKnecht氏は指摘します。仕事のあてがないのに住むところを移る人も多いですし、ほとんど、あるいはまったく貯金がないのに引っ越しを余儀なくされる人もいます。

移動の費用は、運ぶ荷物が多い場合は特に、どんなに事前に計画を立てていても、驚くほどの高額に達しがちです。また、引っ越しに伴うそのほかの費用も、積もり積ればかなりの額になります。

こうした金銭的な問題は、引っ越しに伴う不安の中でも、一番予想がつきやすいものの1つでしょう。ですから、あなたにもし定職があり、将来のために貯金ができる恵まれた立場なら、ぜひ蓄えておくべきです。また、前もって計画を練り、あらかじめ引っ越し先に荷物を送ったり、売れる物を売ったりしておくのも一案です。

家の家具などについては、引っ越しを機会に断捨離を敢行するのもいいでしょう。

私自身、アメリカを横断する大きな引っ越しをしたばかりなのですが、今の家にある家具のほとんどは中古で、無料でもらい受けたものです。

わざわざ前の家にあった家具を運んだり、倉庫に預けたりすることはありませんでした。そこまで費用をかける価値はないと判断し、廃棄することにしたのです。

このあたりの事情は人それぞれですが、今の家にあるものが引っ越し先で本当に必要なのか、できるだけ現実的に考えてみてください。

これまでの人間関係が失われることを覚悟しよう

引越しをすると、これまで頼りにしてきたセーフティーネットは失われます。

「親に孫の世話をお願いできなくなる」「金曜の夜に飲みに出かける仲間がいなくなる」など、さまざまな不便を実感するでしょう。

Knecht氏によると、私たちが心のよりどころにしている「ここが自分の居場所だ」という感覚は、こうしたさまざまな人とのつながりから生まれるのだそうです。

私たち人間は社会的な要素の強い生き物です。そのため、これまで築いてきた社会的状況から切り離されると、自分が無防備で場違いのように感じ、さらにはアイデンティティの危機を迎える場合さえあります。

というのも、私たちのアイデンティティというのは、別の人格を持つ人たちとの関わりの中で形作られていることが多いからです。

こうした喪失感は、移動が長距離の場合はさらに悪化すると、私は考えています。ごく近場の移動であれば、既存の人間関係をそのまま維持できる可能性もあるからです。

とはいえ、Knecht氏は、これまでの診察例から、たとえ短距離の引越しでも、人が不安を覚えるきっかけになり得ると釘を刺します。

「人間にとっては、社会的状況がすべてです。そして新たな状況に自分を合わせていくには、少し時間がかかります」とKnecht氏は書いています。

この移行期間には、誰もが殻のないヤドカリのように、自分が無防備になったと感じるものです。

これまでの付き合いを維持しつつ、新しい関係に踏み出そう

こうした不安感に打ち勝つため、Knecht氏が勧めるのは、こうしたヤドカリのような気分からできるだけ早く脱することです。

慣れ親しんだ人たちと、引越し後も連絡を取り合うことがカギになると思います。幸い、今はテクノロジーが進歩し、遠くの人とも簡単に連絡が取れます。その一方で、できるだけ早く新しい環境に触れ、慣れるようにしましょう。

そうすることで、新たな環境での自分の立ち位置がはっきりしますし、居場所も見つかります。とはいえ、言うのは簡単で、実行するとなるとなかなか大変です!

確かにその通りです。でも私は、これは足がしびれた時と同じだというふうに考えるようにしています。しびれた足を引きずって歩くのは大変ですが、ただじっとしているより足を動かすほうが、早く歩けるようになります。

日曜の礼拝に教会に通う習慣があるなら、近所に教会がないか探してみましょう。また、Facebookで地元のグループを探し、興味があるコミュニティーのイベントがないか探すのもいいでしょう。

地域のボランティアに参加してみるのも手です。肩を並べ、一緒に汗を流しながら近所の海岸の掃除をすれば、きっと友達ができるはずです。

また、もし自分から働きかけるつもりがあるなら、思い切って近所の人に自己紹介してみてはどうでしょう?

新居では、近所の人が食料品を家に運び込んでいたら、こちらから手伝いたいと申し出てもいいでしょう。

引越しのプラス面を心に刻もう

こんなに大変なのに、なぜ人は、やむを得ない事情がない時でも、引越しをするのでしょうか。実は引越しは、ストレスや不安の原因になるだけではありません。人を成長させるというプラス面もあるのです。Knecht氏もこう書いています。

大きな変化に直面した時、人は心構えの見直しを迫られます。多くの場合、変化は、自分を幸せにしてくれる要素、してくれない要素について、あるいは、自分が必要なものとそうでないものは何なのかについて、改めて考える機会になります。アイデンティティが時間とともに移り変わるのは自然なことです。外部環境の変化は、今までそうした成長の機会を避けてきた人にとっては、殻を破るきっかけになるはずです。

というわけで、環境の変化に対応するのはなかなか大変ですが、それでも、引っ越しがすばらしいメリットをもたらす可能性を秘めていることも、また事実なのです。


Image: Rawpixel/Pexels

Aimée Lutkin - Lifehacker US[原文