人生は「性癖」で変わる…老舗SMバー経営者が伝えたいこと

ここでは、誰もが自分を解放する

誰にも「性癖」を否定されない場所

東京・歌舞伎町の老舗SMバー、ARCADIA TOKYOには、日本全国から多種多様な性癖を持った「変態さん」たちが夜な夜な集う。

スパンキング、緊縛マニア、赤ちゃんプレイマニア、M女(マゾっ気のある女性)、女王様など多岐に渡る。いわば「アブノーマル」とされる嗜好を持つ人たちの桃源郷なのだ。

ARCADIAは、SMマニアが集結する場所として業界ではかなり有名で、近年ひそかに盛り上がっているSMバーブームの流れをけん引してきた。

なぜ、このバーを作ろうと思ったのか。オーナーである堂山鉄心(どうやま・てっしん、52歳)さんに話を聞いた。

ARCADIAは、15年前にオープンした大阪店が前身となり、9年前に東京店をオープン、現在は「アルカ」の愛称で親しまれている。

私がアルカを知ったのは、友人のM男性(マゾっ気のある男性)に、系列店に遊びに連れて行ってもらったのがきっかけだった。

店を訪れると、半裸の男性が、赤ちゃんのハイハイの格好で「バブバブ~、撫でて~」と言いながら店内を動き回っていた。また、後ろではスパンキングマニアの男性が、お尻を女王様に鞭で叩かれて、嬉しそうに身もだえているのがやけに印象的だった。

そう、アルカでは、一歩店内に入ると、どんな性癖の人間であっても、温かく迎え入れられる。アルカに入店する際のルールはただ一つ。

他人の性癖を否定しないこと――。

一般社会においては、後ろ指を指されるような性癖の持ち主であっても、ここでは否定されることなく、ありのままの姿でいられるのだ。

 

ずっと感じていた罪悪感

アルカができるまでは、個人的なSMマニアたちのオフ会などはあっても、恒久的に彼らが集える場所はこれまで存在しなかった。

SMバーと一口に言っても、いくつかの種類があるので、ここで簡単に説明しておきたい。ちなみに、一般的に知られている「SMクラブ」は、SMバーとはまったくの別物で、通常は一対一のSМプレイを目的とした風俗店のことを指す。

SMバーで一番多い形態が、六本木を中心に展開している、M男性や一般客をターゲットにした「ミストレスバー」である。こちらは、女王様の服装をした女性がカウンター越しなどで接客してくれるお店だ。

そしてもう一つの形態が、アルカのように、男女問わずSМマニアが集う「社交場」としてのSMバーである。SMマニアたちが集う交流スペースの先駆けとなったアルカは重宝された。

来店するお客さんは、年齢も職業も様々。下は20代から上は70代まで。職業も、会社社長、医者、弁護士、OL、はたまたニートなど幅広く、そのほとんどがおひとりさまで来店する。男女比は、男性4割、女性は6割で、女性客の9割はM女性だという。

オーナーである鉄心さんは、生粋のS男性。思春期を迎えても、セックスや射精に興味が抱けなかった。セックスよりも女性を服従させたり、叩いたりするほうが、性的に何倍も興奮する。

オレは頭がおかしいのではないか――。大人になり、社会人になり、家庭をもっても性癖は変えられなかった。何十年も一人で自問自答し続ける日々が続いた。行き場のない性癖を持て余し、苦しむ鉄心さんが、本当の自分をさらけ出せる唯一の居場所が、客として通うSMバーだった。

「性的なことに関しては、ずっと罪悪感を感じていました。自分は生まれてきてはいけない人間だったんだ、と思っていたんです。こんな異常な性癖を抱えているなんて、間違って生まれてきたんだと思っていたし、そんな自分がずっと許せなかった。こんな頭のおかしい人間は自分しかいないと思っていました。

性的にも、本当の意味で一生満足することはないんだろうなと思っていたんですが、SMを知ったときに初めて、これだ!と思いました。僕は、これがずっとしたかったんだ、と気づいたんです」

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