宇宙の最大の謎「ダークマター」を地下1800メートルで追い求める科学者

この宇宙には「目には見えないけども質量を持つ」という謎だらけの物質・ダークマター(暗黒物質)が存在していると考えられています。目には見えず、さまざまな機器を使ってもまだ観測が不可能であるダークマターですが、宇宙の動きを物理的に解明するためにはその質量を計算に入れないと、宇宙そのものが成り立たないことになってしまいます。そんな宇宙最大の謎であるダークマターの検出を目指して研究を20年以上にわたって続けている科学者の様子がNetflixのドキュメンタリーシリーズ「未知の科学」で描かれています。

The New Hunt for Dark Matter - The Most Unknown | Ep. 2 - YouTube


「『ダークマター』とは、まだ人類がその正体が何かわかっていないものです」と語るのは、ミラノ大学の物理学博士であるダビデ・ディアンジェロ氏。

「この宇宙には、人間の目には見えない物質抜きには説明できない現象が存在します」

「その粒子は今こうやって話している時も体を通り抜けており、ほとんど何も反応を残しません」

「私たちはダークマターは必ず存在していると確信していますが、これまで観測に成功したことはありません」

今回ディアンジェロ博士とともにダークマターの観測施設を訪れるのは、ペンシルバニア州立大学の微生物学者のジェニファー・マカラディ博士。

二人が乗った車は、地下深くにつながるトンネルの中へと進んでいきます。

到着したのは、「グラン・サッソ国立研究所」。ローマから東に約100km離れた山中にある原子物理学研究施設で、厚さ1800メートルの巨大な岩盤の地下に作られています。

地下深くに作られているのは、ダークマターなどの観測に邪魔な「宇宙線」の影響を排除するため。この施設の上にある山そのものを宇宙線のフィルターとして使用するというもので、この施設の中は「Cosmic Silence(宇宙的に静寂)」な環境が作られているとのこと。

「この中では、宇宙線の音を聞くことができますよ」とイタリア人らしく茶目っ気っぽく語るディアンジェロ博士。

ディアンジェロ博士が案内したのは、まだプロトタイプ段階にあるというダークマター検出器の「SABRE」。

内部にはヨウ化ナトリウム結晶が設置されています。ダークマターの正体はまだ不明ですが、その有力候補とされる素粒子「ニュートラリーノ」はヨウ化ナトリウムに衝突すると青い光を出す性質があり、その光をセンサーで観測してほかの要素と分離することでダークマターの検出を目指しています。

「ダークマターはどこにあると思う？」と尋ねるマカラディ博士に対し、「科学は推測する学問じゃないから」と答えつつ、持論を説明するディアンジェロ博士。

調査すべき領域はいくつもあり、世界中で多くの科学者が「ダークマターの発見」を発表すべく研究を行っています。

「この宇宙に、まだ私たちが知らない物質が存在しているというのは、じつに驚くべきことです」

「宇宙にある全ての物質のうち、85％はまだ人類が観測不可能なものであると考えられています。私たちは本当にダークマターが存在するのか、それとも他に謎を説明するものがあるのかなどを知らなければなりません。もし考えていたことが事実ではなかったら、考え方を変える必要がありますからね」

「人類は基本的に、自分たちが住んでいる世界について知りたいという好奇心があります」

「私が携わっている物理学という学問のゴールは、この世界がどのように機能しているのかを知るために知識の境界線を次々に広げることです。物理学者というものは基本的に、とにかく『なぜ』ということを突き詰めるもので、『それにより何ができるのか』ということはあまり考えません。純粋に、対象物がどのようなものかを知りたいのです」

「ひょっとしたら、最終的にはダークマターは存在しない、ということがわかるかも知れないという心配はあります」

「でも、それが悲劇だとは思いません。それが科学の世界で物事が進む道のりです」

「ある疑問が解決されたら、そこからまた新たな疑問が生まれます。でも誰もそれを気にはしません。それが楽しいことなのですから」

「これまでの人類の歴史では、それぞれの時代に解明されていない謎が存在してきました」

「私が生きている間にダークマターの謎が解明されるかはわかりませんが、もしかしたら次の世代になれば全てが明らかになるかもしれません。しかしそれまではいくつもの疑問が次々に現れることになるでしょうね」