平日はフルタイムの会社員として働きながら、国内外の離島や知られざるスポット、なかなか行く機会のない秘境へと精力的に足を運ぶ、旅するデザイナ−rumiさん。

週末を使って旅をしながら、アクティブに仕事もこなす彼女に、休日の限られた時間で行きたいところへ旅するコツや実際の旅を組み立てるポイントを教えてもらいました。

rumi

芸大卒業後、インテリアやオーガニックコスメなどのグラフィックデザインを行い、現在は株式会社スマイルズで「Soup Stock Tokyo」やファミリーレストラン「100本のスプーン」などのデザイン、店舗VMDなどを担当。デザイナーでありながら「Soup Stock Tokyo」のオリジナルビール「瓶のビール」の開発からデザインも行う。

秘境や島など旅先の日常を知るために日本の文化や新しい価値を探しに休日はよく旅に出ている。VMDインストラクター、インテリアコーディネーター、ビアソムリエ、旅ライターとしても活躍。

全部体験してみたい!が旅のモチベーション

――なぜ、旅をするようになったの?

きっかけはいろいろあります。でも、一番は、大阪の大学時代に、いろいろな地方から出てきている人たちに出会い、それぞれの故郷の話を聞いて興味を持ったのが大きいですね。

住民100人ほどの離島出身者もいれば、温泉街のある町で育った人、子どもの頃うどんがおやつだったという人。私の地元の静岡県浜松市では経験していないことばかりで、聞くだけでなく、全部見て体験してみたいと思ったんです。

気づけば大阪に住んでいた8年半で、西日本の府県はほぼ制覇していました。

人生初の海外は短期留学で渡ったイタリアのベネチア。ちょうどカーニバルの時期で、すれ違う仮面を付けた人達から紙吹雪やくるみを投げつけられ、衝撃を受けたのを覚えています。巨大迷路のようでエキゾチックでとても美しい街でした。

非日常の日常から学ぶことがクリエイティブにつながる

――旅することの仕事やプライベートへの効能は?

旅をするうちに、クリエイティブを作る仕事の進め方やアウトプットの仕方が変わりました。

私は、一人だと旅、二人以上だと旅行になると思っています。一人旅だと現地に友達ができたり、旅仲間同士で友達になったりしやすい。これまで、一人旅をした結果、のちにフリーのお仕事をいただいたケースもいくつかあるんです。

秘境や離島は私にとっては非日常でも、そこに住む人たちにとっては日常です。そんな非日常の日常から学ぶことはたくさんあります。

仕事柄20代の頃は、デザインの流行りを追ったり、新しい雑誌などむさぼり読んだりしていましたが、今はほとんど見なくなりました。時代の流れを知っておく必要はあると思いますが、それ以上に旅先で出会った新しい価値観や見たことのない文化や仕組みにヒントをもらうことの方が多くなりました。

昔ながらの手触りの良い薄い紙の束で作られた日めくりカレンダー、乾物屋でよく吊ってあったハエ取り紙などを目にするとつい気になってしまうのです。

旅をすると、世の中には数え切れないほどのたくさんの人のストーリーがあることに気づかされます。

結果、自分が生み出すクリエイティブによって、どんなシーンを描きたいのか、ストーリーのようなものを妄想しつくしてデザインをするようになりました。もう、ただグラフィックデザインだけすることはないと感じています。

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小笠原諸島の父島の保護地域に入る時に「島民」「ガイド」「調査」「観光」「行政」など誰が何人入ったかカウントするシステム。
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父島にある自然の素材を使用してのカウント。その土地ならではのアイデアに納得です。
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父島では24 時間かけて船で運ばれるパンは冷凍でやってきます。ここではゆっくり解凍されるパンは冷蔵棚に並びます。
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船の入港日はたくさんのお客さまで賑わうので棚に入りきらないほどの牛乳がダンボールのまま床に並べられます。初めて見る光景でした。

行きたい場所は、キーワードから画像検索で見つける!

――旅先を決めるきっかけ、情報源は?

すでに有名になっていて観光地化が進んでいる所より、地元の人も知らないような場所を見つけるのが好きです。

旅する上で欠かせない私の好きなキーワードは、

「島、建築、アート、秘境、廃墟、神社、洞窟、炭鉱跡、神秘的、懐かしい、独自の文化、あまり知られていない…など」

まず、よくこれらのワードを入れて「画像検索」をします。

普通に検索すると観光サイトや誰かの記事が上位に並んでしまうので、画像検索した方がよりディープな場所まで見つけやすくなります。

国内なら、仕事やプライベートで知り合う人に、出身地を聞き、興味深かったり、知らない街や聞いたことがない地名だったりするとワクワク、血が騒ぎます。その場でヒアリングして、すぐに旅に出る予定を立てることも。

海外旅行も、あまり人が行かないような場所や時期を選びます。

その方が、費用が安く済むことも多く、日本でまだ知られていない発見があったらすごく興奮するんです。

以前、年越しをマイナス30度以下の国、モンゴルで過ごした時はまつ毛や鼻の中が凍って驚きました。

ヨーロッパの火薬庫と言われていたバルカン半島の近年まで鎖国状態だったアルバニア共和国へ行ったときも、日本人はほとんどいませんでしたが、とても素朴で美しく、独特の文化や歴史を学ぶことができ感動しました。

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モンゴルの首都ウランバートルの大気汚染問題は世界規模で深刻化してきています。ビルと空の間のグレーの層は遊牧民に欠かせないゲルで燃やす石炭ストーブが原因とされている。こういったことも実際に来てみないとわからないこと。
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ボスニア・ヘルツェゴビナでは、まだ至る所に紛争時の銃痕があります。今ではお土産屋なども開かれていて少しずつ観光客も増えているそう。
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クロアチアにある世界遺産のディオクレティアヌス宮殿の階段が大胆にもカフェに!なんて素敵なのでしょう。日本ではなかなか見ないこういった発想がデザインへのヒントになることも。

「仕事が入ったらどうしよう」なんて考えない、まず決める!

――旅の目的地を決めた後のステップは?

できるだけ早めに交通の手段と宿を決めます。

最近は連休などになると外国人も多いため、なかなか宿が取れないことがあります。飛行機は出発日に近くなるにつれ価格が上がってしまうので、予約開始のタイミングで予約完了し、特割や早割チケットを購入します。

長距離の船も連休のときは争奪戦になることがあるので、予約開始と同時に押さえます。

「もし仕事が入ったらどうしよう」なんて考えません。全力で調整しますから。

次に、レンタカーを確保。

これも早いに越したことはありません。小さな島だと、レンタカーや原動機付自転車がすぐに予約でいっぱいになってしまうこともしばしば。

交通手段(飛行機、船、レンタカー)と宿は、1日でも早く予約したほうがいいんです。

宿のこだわりは普通のビジネスホテルを選ばないこと。その土地の良さや食事情が分かりづらいことがあるので、最近はもっぱら古民家改装宿や民泊、リノベホテル、泊まれるアートを利用しています。その方がその土地のリアルな声や食、暮らし、文化に出会うことができるから。

改装宿も最近は有名な設計事務所が手がけているものも増えてきていて、とても勉強になります。

泊まれるアートとは、各地で開かれる芸術祭に合わせて作られることがある、宿泊施設も兼ねたアートのこと。

新潟十日町にある大地の芸術祭のジェームズ・タレルの作品「光の館」や、瀬戸内芸術祭の豊島にある「檸檬ホテル」はオススメです。

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宿泊することができる「光の館」。光と空間を題材とした作品を制作している現代美術家のジェームズ・タレルの作品。
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なんと天井の屋根がゆっくり動いてそのまま空の色を観察することができます。
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昼間は青空が見えますが日が落ちてくると、どんどん空の色は変化を始めます。
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日が落ち始めると、黄色、青、緑、ピンクなど、空間が様々な色の光を演出してくれます。

有休を使わず、週末旅を目いっぱい楽しむワザ

――仕事のやりくり(時間の作り方)はどうしているの?

実はあまり有休を使わずに旅に出るのが自己流なんです。

連休をうまく利用し、土日で都内から沖縄、北海道に行くこともあります。

先日は金曜の夜から高速バスに乗り、早朝新潟港に着き、朝イチのフェリーで土曜の朝8時半には佐渡島に到着して土日でしっかり楽しむことができました。

東京都内の離島も、金曜の夜からフェリーに乗ってしまえば安く行くことができ、土日ゆっくり遊べます。

「土日で旅行なんて、なんだかもったいない!」と思っていたら、いつまでも行けませんし、ちゃんと行きたい場所とスケジュールをイメージしていけば、実は土日の2日間でも十分楽しむことができるんです。

もちろん、鹿児島の島々をアイランドホッピングしたい! バルカン半島を周遊したい!というような場合は、年に1回くらい1週間お休みをもらうこともあります。

必要であれば移動中に仕事もします!

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都内の竹芝桟橋からは東京都の島に行けるフェリーや高速船が出ています。東京都にこんなにすぐに遊びに行ける島があったことにとても驚きました。

事前準備は抜かりなく。行きたいところはGoogleマップに集約

――旅の準備(情報収集)はどうしている?

行く場所、移動手段、宿が決まったら、寄りたい場所をリストアップし、Googleマップに星をつけます。

本屋さんなどに売っているガイドブックはあまり買いません。

Discover Japan、Casa BRUTUS、商店建築、料理通信、POPEYE、FIGAROなどの雑誌を参考しています。写真もキレイなので、読みながら、行きたい! とGoogleマップに星を付けることもしばしば。

さらに、これらの雑誌は現地の雑貨の説明やその土地の豆知識などを専門的に解説してくれているのも参考になるポイントです。

私がよく行く離島や秘境は下調べをしておかないと帰れなくなったり、食事をするタイミングを逃したりと、なかなか大変なことになりかねません。

特に食事処に関しては「地元の人がよく行くお店を教えて」と現地の人にオススメの場所を必ず聞きます。観光客用のお店より地元の人が愛するお店は間違いないから。

海外の場合はへんぴな場所だと、ガイドブックや本などが売っておらず、なかなか情報を集めるのが難しくなります。その場合、気候や虫はいないか、治安はどうなのかなどの最低限の情報だけでも外務省の海外安全情報などから確認しておくのは必須です。

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Googleマップには気になるところ、行ったところをマークします。そういえばここも行きたかったんだ!とすぐに近くの星を検索し、余った時間など有効活用できることも。
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日本で一番人口の少ない村、青ヶ島村。その地形は世界にも珍しい二重カルデラ。船の就航率もとても低く、ヘリには9人しか乗れないため、選ばれし者だけが上陸できるという秘境。そんなところこそ、下調べと情報収拾が重要になってきます。
Photo: 青ヶ島村より提供
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真ん中の丸山のまわりに雲海ができるという絶景に出会えることも。上陸できると大冒険が待っています。
Photo: 青ヶ島村より提供

次回は、旅に出るときに欠かせない持ち物や愛用品、旅でインプットした記録をどうやって残していくのかなどを具体的に教えていただきます。

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