マンガでぐっすり! スタンフォード式 最高の睡眠』(西野精治著、四方山哲イラスト、サンマーク出版)は、30万部超のベストセラーとなった『スタンフォード式 最高の睡眠』のマンガ版。

海外とのやりとりが多く寝不足に悩む主人公が、若手睡眠研究家と出会ったことから「睡眠負債」を克服していくというストーリーです。

眠りは人間の脳や体と深く密接に関係しています。(中略) 良質な眠りを確保できれば、日中のパフォーマンスは間違いなくアップします。

ではいったい、どうすれば睡眠の質を上げられるのかーーその方法をまとめた『スタンフォード式 最高の睡眠』のエッセンスをマンガにしたのが本書です。

(「プロローグ ぐっすりを追求した、究極のスタンフォード・メソッド」より)

こう解説するのは、原作の著者。スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長という肩書を持つ医師、医学博士です。

本編は漫画ですが、きょうは文章による解説部分に焦点を当てることにしましょう。

第4章「スタンフォード式覚醒戦略 ――睡眠の質がさらに高まる『日中の過ごし方』」のなかから、いくつかを抜き出してみたいと思います。

「体温や光など身近な『覚醒のスイッチ』を効果的にオンにできれば、日中のハイパフォーマンス、ひいては質の高い睡眠を導ける」という考え方に基づき、「ぐっすり眠るための覚醒戦略」を明らかにしているパートです。

アラームを「20分間隔」でセットする

目覚まし時計を使うにしても、スマホを利用するにしても、アラームをセットする際には「20分間隔で2つの時刻」にセットすると目覚めよく起きられるのだそうです。

たとえば7時に起きたいとき、6時40分と7時、2つの時刻にアラームをセットします。20分間隔で2回アラームが鳴るようにしておけば、どちらかが浅いノンレム睡眠やレム睡眠に当たる可能性が高くなるからです。

ポイントは、1回目のアラーム音は「ごく微音で、短いもの」にすること。レム睡眠時は覚醒しやすいので、小さい物音でも目覚めやすい性質があるためです。(160ページより)

1回目のタイミングで起きられなくても問題なし。そのときに目覚めなかったとしたら「深いノンレム睡眠で、眠りの真っ最中」ということなので、起きないほうが得策だというわけです。

しかも深いノンレム睡眠時に無理をして起きると、目覚めは悪くなるのだといいます。

なお明け方は睡眠周期が短いため、1回目のアラームをスルーしても、2回目のときには浅い睡眠に変わっている可能性大。そのため高確率で、すんなり起きられるというわけです。(160ページより)

「日光」を浴びる

起床後にベッドから出たら、天気にかかわらず朝の光を浴びることが大切。そうすることで体内時計が調節され、睡眠をうながす物質である「メラトニン」の体内での合成・分泌リズムが正常に整うからです。

その結果、「日中は眠くならずに覚醒をキープ」「夜になると自然と眠くなる」下地が整っていくということ。

なお室内でも太陽光が入れば十分な光量が得られるので、まずはカーテンを開けて外の光を取り込むことを著者は勧めています。

夜間に分泌されるメラトニンは、「眠りの誘惑物質」ともいえる成分です。

人間は網膜に「メラノプシン」という受容体があり、それが「470ナノメーター」というブルー領域といわれる特定の波長の光(いわゆるブルーライト)を感知すると、メラトニンの合成と分泌が抑えられることがわかっています。

この効果は瞬時に発生するため、夜間にスマホの画面から発せられるブルーライトなどの強い光を浴びることは厳禁とされています。

反対に、日中に太陽光を浴びれば、メラトニンの前駆物質(後々メラトニンになる物質)「セロトニン」が体内で合成されるので、夜を迎えた頃には入眠しやすくなります。(161ページより)

このメラノプシンによる光の感受は、視覚とは別経路で発生する現象。そのため、太陽を直接見なくても、日の光に当たるだけで効果が得られるということです。

なお曇りや雨の日でも、メラトニンの分泌リズムを整え覚醒度を上げるレベルの日の光は地上に降り注いでいるといいます。

朝は、コルチゾールというホルモンが分泌されて体温も高くなるタイミング。だからこそ、光を浴びることで、「リズムの調整」「覚醒」をブーストすべきだという考え方です。(161ページより)

「裸足」で過ごす

「上行性網様体」という脳の部位を動物実験で破壊したところ、“寝たような状態”になることが判明したのだそうです。つまり、この結果を裏返すと、「上行性網様体を刺激すれば覚醒する」ということになります。

たとえば夜中の救急車の音やパトカーのサイレン音で目が覚めるのは、聴覚や視覚に注意が喚起されると、上行性網様体が活性化するからだというのです。

そこで、この体の仕組みを応用し、朝は感覚を刺激してスッキリ覚醒するべき。そして、その手段のひとつが「裸足で過ごす」こと。

自宅ではスリッパや靴下を履いている人も多いでしょうが、起き抜けに裸足になってみるだけで、2つの効果が期待できるのだといいます。

1つは、床にじかに触れることで皮膚感覚を刺激し、上行性網様体を活性化させられること。もう1つは、裸足で皮膚温度を下げると、起き抜けで自然に上がっている深部体温と皮膚温度の差をさらに広げられること。

「皮膚温度と深部体温の差が縮まると眠くなる」という性質を逆手にとって、覚醒度を上げるわけです。(163ページより)

冷たい水で「手」を洗う

朝に起きて顔を洗う際、よい覚醒のために加えるべきなのが「手を洗う」習慣なのだそうです。しかもポイントは「冷たい水で洗うこと」

朝は深部体温が上がっているタイミングなので、手を水につけ、深部体温と皮膚温度の差を広げることで、よりスピーディに気持ちよく覚醒できるというわけです。

さらに加えるとするなら、歯磨きやうがいも冷たい水で行うとよりよいのだとか。

一方、同じ「水に触れる」という習慣でも、朝の長風呂は推奨できないそうです。

体温には「大きく上がるとより下がろうとする」性質があるため、朝風呂に入ると入浴後に体温が下がり、しばらくすると眠くなりかねないから。そのため、朝はシャワーが得策。(164ページより)

よく「噛む」

「噛む」ことと睡眠の間にも、深い関係があります。SCNラボの姉川絵美子氏、酒井紀彰氏らによるマウスを使った実験では、次のような結果が報告されています。

マウスの飼育には通常固形のペレットを与えるのですが、咀嚼と覚醒の関係を知るため「固形のペレット」を与えたマウスと、ミキサーで砕いた「粉末のペレット」を与えたマウスを比較しました。

その結果。「固形のペレット」を食べるマウスには睡眠や行動パターンに昼夜のメリハリがあったのに対し、「粉末のペレット」を与えたマウスには昼夜のメリハリがなくなっていたのです。

また、記憶の中枢である海馬の神経新生にも、後者のマウスの場合、悪影響が及んでいることがわかりました。 つまり、よく噛んで食べないと、覚醒度に加えて記憶力も下がってしまうのです。(165ページより)

「噛む」という行為は、脳からの指令で行われる一方、逆方向の働きも認められるといいます。つまり「噛む」ことで口まわりにある三叉神経から脳へと刺激が伝わるということ。

そのため「よく噛む」ことは脳を目覚めさせ、1日のメリハリをつけるのに役立つわけです。それほど「噛む」ことと覚醒はつながっているので、食事の際には意識的に「噛む」ことを心がけるべきだといいます。

特に1日のスタートである朝食は、よく噛んで食べるべき。なぜなら、そもそも朝食自体に、体温を上昇させ、体に目覚めを知らせる効果があるとされているから。

またマウス実験では、「朝食を抜いて、夕食だけとったマウス」「1日2食でも、夕食を多めにとったマウス」は肥満になりやすかったとの報告も。

「体内時計のリセット」と「肥満防止」という2つの効果が手に入る朝食を、ぜひともよく噛んでとってほしいと著者は記しています。(165ページより)

テイクアウトのコーヒーを飲む

「眠気を覚ますためにコーヒーを飲む」のは、よくある覚醒手段。そして著者は、ビジネスパーソンには「コーヒーをテイクアウトして飲む」ことを勧めています。

カフェインの覚醒効果に加え、「会話」という感覚刺激をプラスすることで相乗効果が狙えるから。

コーヒーを飲むなら、自動販売機で買ってその場で飲むのではなく、店員さんのいるお店で求めてテイクアウトし、職場で飲むことができれば有益です。

お店で口に出して注文することで会話刺激が加わり、さらにテイクアウトして会社の誰かと雑談しながら一服したほうが、覚醒のスイッチがよりしっかり入ります。

また、「覚醒中=深部体温が上がっている」ことを考えると、アイスよりはホットコーヒーがおすすめです。(168ページより)

コーヒーには、覚醒効果以外にも適温であれば健康効果が認められており、成人の2型糖尿病、肝臓がん、子宮内膜がんのリスクを減らすという研究結果も報告されているといいます。ただし、「1日5杯まで、ブラックコーヒー」にすべき。

また、飲んだカフェインの体内濃度が半分になって効き目が薄れるまでには約4時間かかるため、夕方以降の摂取は控えたいところ。どうしても飲みたい場合はデカフェ(カフェインレス)を選んだほうがいいそうです。(167ページより)




著者が主張するように、睡眠の質が低ければ、日中のパフォーマンスにも悪影響を及ぼすはず。そんな状態を克服するためにも、ぜひ本書を利用して睡眠に関する知識を身につけておきたいところです。


Photo: 印南敦史