社交的すぎないソーシャルロボットが自閉症の子どもを助ける

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社交的すぎないソーシャルロボットが自閉症の子どもを助ける
Image : Brian Scassellati(Science Robotics)
自閉症児と実験する研究者ブライアン・スカセラッティとロボットのJibo

研究レベルですが、これは大きな一歩。

血の通っていないロボットが唯一の理解者…な~んてお話、ありましたね。自閉症とは、主に先天的な原因から生じる障がいで、社会性言語コミュニケーションに質的障害があり、こだわりを持つことがあげられます。

コミュニケーションが苦手な自閉症児にとっては無駄な干渉をしてこない、相手が持つこだわりも気にしないロボットこそが人間を超える良き理解者になってくれるかもしれません。そして、これからが期待できるような研究成果がでています。ソーシャルロボットと呼ばれるロボットと一緒になら、治療や療育を目的としたゲームも気長に楽しくやれそうです。そんな明るいニュースを米GizmodoのEd Caraがレポートしてくれました。


自閉症児とロボット

ロボット技術の最近の進歩にはめざましいものがありますね。わくわくすると同時にロボットたちがどう進化していくのか、ある意味、空恐ろしくもあります。ですが、昔のSF映画のようにユビキタスの使徒ロボットたちが人間さまに仕える世界からは、まだまだ程遠い感がありとりあえずほっとできます。2018年8月22日のScience Roboticsに掲載された研究論文によれば、自閉症スペクトラム障害(ASD)を原因として、コミュニケーションの取り方がほかの人とは少し異なる子どもたちをロボットがアシストしてくれるかもしれない、という心温まる報告がありました。ロボットたちの力を借りてレッスンを受けた子供たちが、コミュニケーションスキルを効率的に高められるかもしれない、というものです。

自閉症は複雑な神経系の疾患です。まだまだその仕組みは未開の分野であり、環境と遺伝的リスク因子が複雑に絡みあってもたらされるといわれています。ワクチンとは無関係なこともわかっています。自閉症の発症は人それぞれ。 ただ、トラブルに遭遇したときの反応に問題があったり、人と目を合わせることができないなど、自分や家族以外の人とのコミュニケーションが苦手な人が多いこともわかっています。この実験ではソーシャルロボットと呼ばれるロボットたちが、コミュニケーションを苦手とする子供たちに社会への適応性を教えてあげたようです。

社交的すぎないのがいい

「ロボットはとてもよいパートナーとなり得るんですね。人に対して反応があるという点では社交的といえますが、社交的すぎないので、不安を呼び起こしません」と報告書のメイン著者であるBrian Scassellati氏はイェール大学のビデオで語っています。Scassellati氏はイェール大学のロボット工学者であり、イェール大学 ソーシャルロボット工学ラボの主任研究者でもあります。

Scassellati氏率いるチームは、この手の研究は研究室という管理の行き届いた環境下で、子供とロボットのインタラクションをあくまでも短期間追ったものにすぎないことに言及しています。そこでチームはもう少し研究を広げてみることに。

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Image: Jibo
家庭用コミュニケーションロボット「Jibo」

この実験では、自閉症によりコミュニケーションをとることが困難な子供を持つ12家族を対象としています。子供の年齢は6~12歳。すべての家庭に特殊なコンピューターを設置。そのコンピューターに接続して使う世界初のソーシャルロボットとうたわれる、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者が開発した「Jibo」を派遣。あの懐かしいピクサー・アニメーションの映画『ウォーリー』のイヴを彷彿とさせる風体のこのロボット、音声コマンドに反応し、体と頭を360度回転させることができます。顔部分は黒い画面となっており、そこに表示されている目は喜びや悲しみを表現できるようになっているとのこと。

子供たちは、保護者とともにJiboと毎日30分を過ごします。実験の一環として、子供たちは保護者と一緒にコンピューターのタッチスクリーンのゲームで遊びます。このゲームはコミュニケーションを強化することを目的としたもので、人の感情を察したり、人が何を考えているかを理解したりするものです。ストーリーの中でキャラクターがどう感じているのかを子供と一緒に考えたりします。

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Image : Brian Scassellati(Science Robotics)

実験のセッティング。タッチスクリーンモニタとロボット、カメラを備えた机で保護者とともに実験。

Jiboにはあらかじめ作成されたスクリプトがプログラムされており、遊びを通して子供を励ましたり、うまくプレイできたかどうかによってゲームの難易度を調節したりします。研究報告によれば、Jiboは「ポジティブな社交スキルをモデルとした」のだそう。たとえば、子供とアイコンタクトをとるように作られているとか。実験はすべて録画・録音され、保護者が子供の社交レベルを書き留めていきました。

期待どおり、子供たちは時間を重ねるごとに上手にゲームをこなせるようになり、ひと月にわたる実験の終わりごろには、ほとんどが最高レベルのゲームを制覇できたとのこと。また、 他者が見ているものを一緒に見る行為であり、言語や認知機能など発達の礎と言われる 「共同注意」の能力の向上が、ロボットとの実験以外の場所でも認められたようです。アイコンタクトが増えた、他の人とコミュニケーションをとれるようになったなど、保護者も子供たちの社会適応性が向上したと答えています。

実験に参加した親の一人は、「うちの子がどんなに知的で学習が早いかを、思い知りました」とご満悦の様子でイェール大学のビデオに映っています。

まだまだ研究の余地はあるが、コンセプトが実証できた第一歩

自閉症の治療でロボットをどう活用していくかなどはまだまだこれから研究する余地があるということですが、そのコンセプトを今回の実験で実証できたと研究報告の中で記述しています 。自閉症に悩む子供と長~い期間効果的に対応していくには、今よりもっともっと進んだロボットが必要とのこと。もっと臨機応変に対応したり、もっと複雑なレッスンをしてくれるよう、ロボットを調整する必要があるのだとか。

また、実験のセッションから得られた効果は、セッションが終わった後も長く続くとは限らないよう。現在の研究においては、共同注意のスキルの向上は、実験が終了してから約30日後に消失し始めたとのこと。さらに12人の被験者は比較的健康であり、以前研究者と接したことのある子どもたちであり、あくまでも自閉症と共に生きる子供たちのロボットに対する反応を代表するものではないとも研究者たちは述べていますので、注意が必要なようです。

でも、これからロボットをこういった分野に活用できるよい見本になったのではないでしょうか。研究者たちは「より広範囲で長期にわたる実験をすれば、きっと明るい未来が期待できる結果をえられるだろう」とも予言しています。