ハーバード大、「音」を使って液体の粘度に左右されない印刷技術を研究

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  • author たもり
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ハーバード大、「音」を使って液体の粘度に左右されない印刷技術を研究

音波で液体粘度を制す。

音響浮揚という原理をご存知でしょうか。音波を使って重力に逆らい、水滴など少量の物体を空中浮揚させることができる原理です。

ドロップ・オン・デマンド方式の限界

この原理のように音波を利用した印刷技術に関する論文が先月末、Science Advancesに発表されました。音波と印刷、無縁なもの同士を結び付けた背景にあったのは、ドロップ・オン・デマンド方式の限界でした。

液滴は、紙へのインク印刷や薬物送達用のマイクロカプセル製造など多くのことに用いられています。その中でも、インクジェット印刷は液滴を用いるもっとも一般的な技術として知られています。そして、インクジェット印刷で用られる液体の粘度は水の10倍程度に限られていました。

液体の粘度がネック

ところが研究者にとって興味のある液体はもっと粘性の高いものばかり。バイオ医薬品とバイオプリンティングに不可欠な生物高分子などは少なくとも水の100倍、中にはハチミツと同じ2万5000倍ほどの粘性を持つ生物高分子などなど…。

バイオ医薬品や新素材、化粧品、食材そしてヒト組織の製造において、制御された大きさと構成での液滴の生産はきわめて重要になります。しかし、前述のような液体の粘性は温度や配合によって変わるため、液滴の大きさを管理する難易度はさらに上がるという状況でした。

このように、研究者たちにとって液体の粘度はネックとなっていたのです。

音波を使って粘度を関係なくする

そこでハーバード大学John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciencesの研究チームは、液体粘度に左右されず、液滴の大きさを音波でコントロールする新たな印刷技術を開発。液滴をプリンターの噴射ノズルから切り離すために音波を使うことで、この液体粘度を克服したのでした。

Video: Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences/YouTube

論文の第一著者Daniele Foresti教授は、研究のゴールについて「液体の素材特性から独立した印刷システムを開発して、粘度との関係をなくすこと」だと語っています。

液滴のサイズも自由自在

開発された技術では、プリンターの噴射ノズルが音響共振器の中に設置されます。音波は液滴のまわりに局所圧力を作り、希望のサイズになったら噴射ノズルから液滴を切り離します。液体の粘度にかかわらず、振幅が大きいの音波がより小さな滴を生むとのこと(大きい音→小さい液滴)。

「私たちのテクノロジーは製薬業界にすぐさま影響をもたらすはず」と語ったのは論文の上席著者であるJennifer Lewis教授。「とはいえ、これはさまざまな業界にとって重要なプラットフォームになると信じている」と続けています。

思いもよらない使い方に期待

この研究は印刷技術には本来関係のない「音波」を使うことで、粘度という制限から解放されました。思いもよらないアプローチが既存のテクノロジーを進化させる、これは他の研究にも当てはまることかもしれません。

実用化はまだ先のことになりそうですが、現実的な使い道もさることながら、例とされたハチミツのように何か面白いことにも使えそうですよね。

Source: Harvard, Science Advances, YouTube