クパチーノでホームボタンが死んだ──。
2018年9月13日(木)のApple Special Eventで発表された新しいiPhoneは、「iPhone XS」「iPhone X MAX」「iPhone XR」の3機種でした。ずれも「X」の名を冠した、全面ディスプレイのFace IDモデル。2018年秋、Appleはついにホームボタンを完全に消したのです。
さかのぼること11年と8ヶ月、Macworld Expo 2007で初代iPhoneが発表され、6月にアメリカで販売が始まりました。大きなタッチスクリーン(3.5インチ!)を直に触って操作する体験はセンセーショナルでしたが、未知ゆえの戸惑いは否めません。そんな時、押すだけでいつでも特定の画面に戻れるホームボタンには、安心感すら覚えたもの。物理ボタンゆえの沈む感触も、フィードバックに乏しいタッチ操作と対比できる体験でしたね。
ホームボタンの到来
2010年にはDesire、Xperia、GALAXY、REGZA PhoneなどのAndroid端末が国内で普及し始めました。もちろん、どのスマホにもホームボタンは搭載されていて、iPhoneが頑なに1ボタンを貫いていたのに対して、3ボタンや4ボタンなど工夫を凝らすメーカーもあったり。Blackberryさんは特殊枠なのでちょっと。
いつの間にか、「ディスプレイの下に丸いボタン」という構図が、スマホの定番スタイルに。シルエットやアイコンも、こんな感じですよね。
2016年9月に発表されたiPhone 7では静電容量方式のホームボタンになり、「物理ボタンが効かなくなった!」という悲劇から解放されます。振動によるフィードバックがあるので、押した感触はなくても「ボタン」です。正直、ちょっと残念でしたけど、背に腹は代えられないし、実際便利ですし。
時代はベゼルレス、そしてホームボタンの終焉
やがて、世のスマホは大画面化の流れに。ベゼルレスという言葉が飛び交うようになり、誰が思ったか「ホームボタンのエリア、邪魔じゃね?」。もしこのエリアまでディスプレイが伸びたら……、いやいや、ホームボタンがなくなるとか操作はどうするの? そんな思いもありながら迎えた2017年9月。ホームボタンのないiPhone Xが、現実のものとして登場しました。
ホームボタンは、押せばホーム画面に戻ります。そのためだけのボタンであり(指紋認証とかあるけど)、それだけのためのエリアでした。無限なるネットの海にアクセスできるスマホにおいて、いつでもホームへ戻れるというのは、ドラクエのルーラみたいな「帰路の保証」です。いわば、実家のような安心感です。
それが物理であればなおさら…というのは、タッチスクリーンが破損しても一応は大丈夫という、非常時の想定もあるんじゃないかな、と。ほら、緊急脱出ボタンがデジタルだとなんか恐くないですか? 「自分の指で押した」という、物理で感じる確かな体験が、ホームボタンに安心と信頼を抱かせていたと、そんな風にも思うのです。
その信頼を、Appleはデジタルに委ねきる決断を下しました。これからのiPhoneユーザーは、ホームボタンという実家から脱却し、すべてをスクリーン上で解決していかねばなりません。もう親指の帰る場所はなく、むしろ実家はディスプレイに取り込まれました。空前絶後のスクリーン面積は、これまで別居していたホームとスクリーンが一体になることで実現したのです。
だって、音量操作やサイレントモードのボタンもない、物理ボタンゼロのスマホとか想像してみて下さいよ。めっちゃ心細くないですか? その心細さの正体は「物理への執着と信頼」だと思うんですよねぇ。いずれは、ボタンレスが当たり前になったネオ・デジタルネイティブ世代も出てくるとは思うんですけど。時代の循環おそろしい。
僕らは振り返らない、ホームボタンを。
Appleが生み出した、スマートフォンの象徴ともいえるホームボタンにAppleは別れを告げました。もう君たちは物理の檻にとらわれずとも大丈夫。何とでも繋がれるし、どこへだって行ける。そう言われているようでもあります。さぁ、ホームから飛び出そう。
ホームボタン、11年間お疲れさまでした。ばいばい。
Source: Apple