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TAD、1台110万円のフロア型スピーカー「TAD-E1TX」。左右に“丸い鋼板”

テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)は、Evolutionシリーズのフロア型スピーカー「TAD-E1TX」を11月下旬に発売する。価格は1台110万円。カラーはブラックのみ。

Evolutionシリーズのフロア型スピーカー「TAD-E1TX」

Evolutionシリーズは、ハイレゾなどに対応しながら、革新的な技術も取り入れ、Referenceシリーズよりも価格を抑えた製品群として2011年のスピーカー「TAD-E1」からスタート。2016年には1台50万円のブックシェルフスピーカー「Micro Evolution One TAD-ME1」も発売している。

TADとしてはリーズナブルな製品である「TAD-ME1」投入により、ユーザー層が拡大。「若い人達や音楽愛好家の人達も開拓できている。高評価を得ているME1のサウンドを、より広いユーザーに届けるためにフロア型を導入しようと考えた」(TADの永畑純社長)という。そこで開発されたのが「TAD-E1TX」となる。なお、同日には2chパワーアンプ「TAD-M1000」も発表されている。この製品は別記事で紹介する。

TADの永畑純社長

「TAD-E1TX」には、ME1と共通するパーツや技術を取り入れているのが特徴。ユニット構成は、2.5cm径のツイータと、9cmのミッドレンジの中高域用同軸ユニット「CSTドライバー」と、16cm径ウーファ×2基の3ウェイ。エンクロージャはバスレフ。

CSTドライバー
CSTドライバの内部

CSTドライバはME1に搭載しているものと同じ。ツイータとミッドレンジの音源位置を揃え、ミッドレンジの振動板をツイータのウェーブガイドの一部として動作させるように設計。クロスオーバーにおける位相特性と指向特性を一致させることで、全帯域で自然な減衰特性と指向放射パターンを両立している。

帯域としてはCST全体で420Hz~60kHzを担当。クロスオーバーは420Hzと2.5kHzに設定されている。スピーカー全体では29Hz~60kHz。出力音圧レベルは88dB。適合アンプ出力は200W。インピーダンスは4Ω。

ツイータには、独自の蒸着法で加工したベリリウム振動板を採用。ベリリウムはとても軽く、剛性が高いのが特徴。ミッドレンジの振動板はマグネシウム。酸化しやすく扱いにくい素材だが、陽極酸化処理と薄い磁気膜を作る事で、軽量さを維持しながら剛性を高めている。

ミッドレンジとツイータの磁気回路は独立しており、ボイスコイルも個別に搭載。同軸ユニットで、同心円上に配置するため、相互干渉しないように磁気回路は銅のスリーブに入れ、磁気的、機械的にアイソレーションしている。

ダブルウーファを備えている

ウーファの振動板は、アラミドの織物で作ったものと、もう一枚同じ形状で不織布で作ったものを貼りあわせている。織物には方向性があり、不織布には無いが、2つを組み合わせる事で、強度としなやかさを両立した。ボイスコイルには高強度のチタン製ボビンを採用。LDMC採用の磁気回路や、発泡ポリカーボネート系のウレタンエッジなども搭載する。

側面の丸い板は「Bi-Directional ADS」ポート

左右の側面下部に、サブウーファやパッシブラジエーターのように見える丸いパーツを搭載している。これはバスレフポートの一種である、「Bi-Directional ADS」ポートだ。

左右の側面に丸い鋼板が取り付けられている

筐体の左右に丸いポートが空いており、それを覆い隠すように丸い4mm厚の鋼板が取り付けられている。ポートの周囲には、5mm厚の樹脂プレートを配置。樹脂の前後にはスペースが設けられており、エンクロージャと鋼板で挟まれる事で、スリット型のバスレフポートとして機能。開口部はホーン形状になっており、滑らかに効率よくポートを駆動するという。

この構造は、大振幅時のポートノイズを低減すると共に、ウーファ再生帯域内に影響を及ぼす低次の内部定在波がポートから漏洩する現象を抑制。クリアでレスポンスの良い中低域を実現するという。

丸い鋼板の内部

なお、鋼板を円形としたのは「試作段階では全周をスリットにしようと考えていた。この形状は経路長を等しくとりやすく、音の出ていくタイミングを揃えやすい。また、スピーカーでバスレフポートは“第三のユニット”と言われるほど空気を動かす」(開発担当の長谷徹氏)ため、ユニットのように見えるデザインも意識したという。

開発を担当した長谷徹氏

エンクロージャは、バーチの合板フレーム、MDF材のパネルを組み合わせて構成。ピアノブラック仕上げになっている。

ユニットが並ぶバッフル面は、上に行くに従い、奥方向へ3度傾けており、CSTドライバとウーファの音源位置を調整している。そのままではCSTドライバが少し上を向いてしまうため、ドライバ自体は3度戻して水平に取り付けられている。

ネットワークフィルタはエンクロージャの下部に格納。本体と音響的に分離されたISOマウント方式を採用。下部にはアルミプレートから削り出した15mm厚のベースプレートを2枚設置。プレートとエンクロージャの間には樹脂プレートを挟み、ベースプレート自体の振動を抑制。ベースは前2本、後ろ1本の3点スパイク支持。高さ調整用パーツも備えている。

外形寸法は350×512×1,215mm(幅×奥行き×高さ)。重量は46kg。

ベースプレートは前2本、後ろ1本の3点スパイク支持

音を聴いてみる

TAD-ME1のフロア型バージョンとも言えるスピーカーだが、ニュートラルで自然なサウンドであるME1の特徴を踏まえながら、より雄大で、フロア型らしい余裕のある低域再生を可能にしている。オーケストラだけでなく、ピアノソロでも、低音が安定した、重心の低い再生が可能だ。

レンジが広いだけでなく、音場も広大。CSTユニットの効果が実感できる。「Bi-Directional ADS」ポートによるものか、密閉型にも似た、低域描写の丁寧さも特徴だ。