今年10周年を迎えたライフハッカー[日本版]。一方、来年10周年を迎えるのが、その名の通りARを中心に、エンタメの世界にテクノロジーを溶け込ませた事例を数多く発表してきた開発ユニット・AR三兄弟

「通りすがりの天才」こと、AR三兄弟長男の川田十夢さんは、FM局J-WAVEの番組「INNOVATION WORLD」でナビゲーターを務め、9月29日(土)・30日(日)には、六本木ヒルズで音楽とテクノロジーのイベント「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI」(以下「イノフェス」)でも活躍が予定されています。

そんな川田さんにこれまでの10年・現在・今後の10年について語ってもらいました。

クリエイティブ=カッコいいものだけではない

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Photo: 小原啓樹

──まずは10年前、2008年当時のことを振り返っていただけますか?

当時は技術者としてミシンメーカーにいて、特許のことを毎日考えていました。また、インターネットはどんどん普及ラインに入った時期でしたから、ネットと製品をいかにつなげるか──今でいうIoTを考えて、ひと通りやりました。

ミシンに経験を宿して、その経験をアップロードしたりダウンロードしたりするという仕組みも作りました。ただ、技術によって人が奪われるとか、人はいらなくなっちゃうんじゃないかと、そういう議論がありました。今でもそういう話になりますが、新しい技術が出てきたときに敵対をイメージさせちゃいけないですよね。

少年ジャンプでいうところの、「最初は敵みたいだけれど、味方になると心強い」というような、次の展開のストーリーを描いたり実装したり見せたりしないと、いつまでたっても華々しいけど現実的ではない“コンセプトカー”的なことが先走ってしまい、テクノロジーの恩恵によって人々の生活が豊かになるということがイメージできないですよね。それを先にかたちにするということを心がけています。

ラブレターズ、男性ブランコ、ワクサカソウヘイが出演、開発をAR三兄弟が担当した「テクノコントvol.1 メロー・イエロー・マジック・オーケストラ」と銘打たれた公演での演目「数学泥棒」の模様。

Video: ar3bros(Vimeo)

開発を地道に続ける一方で、人々の求めるもの(面倒なことをテクノロジーが代わりにテクノロジーが引き受けてくれる生活)に対して、現状足りないギャップを例えばコントの舞台や番組にしてお客さんにテクノコントとして見せる試みも続けています。芸能として笑えるものとして先に披露することで、(技術的に)おもしろいかおもしろくないかは実装するよりも先に明らかになる。足りないところは覚えておいて、ちゃんと社会へ実装しようとリスト化していたりもします。物語の中で先にデバッグしている感覚です。

クリエイティブ=カッコいいものだけではないんですよね。「なんかウケるな」と、人の気持ちを軽くしたいがために組むプログラミングもありますし、そういう方向のフォロワーも増えたらいいと思います。ライゾマティクスのように時代を更新するエッジの効いた技術は必要ですし、チームラボのように煌びやかな方向へ技術をもってゆくのもいい。ただ、そういう人たちばかりが増えても、生活に落ちないですから。その技術がどう生活に落ちるのか、役に立つのか、立たないのか。ギャップを常に把握して、芸能を通じてわかるものにするということがAR三兄弟の担当分野かなと思います。

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Photo: 小原啓樹

──これまでの活動の中で、会心だったなと感じたことはありますか?

2011年に、荒木飛呂彦先生と対談した時のことです。そのときに「ジョジョのスタンドってARそのものだと思うので、ジョジョからこんなことに影響を受けました、こんな風に未来を考えています」ということを伝えたら、荒木先生の表情が一瞬こわばったんです。

今までミステリー作家として築き上げてきたトリックが(その未来では)なんでもできちゃうからダメじゃんと。でもまたいつもの冷静な表情に戻って、「電話はスマホになっていて、スマホが拡張現実になっているから、そのトリックを考えたらいいんだ」と。そのときは7部の終わりを連載していて、今は8部ですけれど、8部の冒頭にスマホが出てくるんです。多分その会話があったからじゃないかと思っています。

このように、影響を受けた人たちに影響を返したいと思っています。例えば、ミュージシャンとなぜ仕事をするかというと、同時代を生きていて、音楽で救われたりとか、受けた影響があって、それを僕なりに返したいということです。

BUMP OF CHICKEN(編注:ARアプリ「BOC-AR」を開発)然り、ASIAN KUNG-FU GENERATION然り。「こういう影響を僕は受けました」と伝えることで、また違う方向の風を当事者に渡せれば、また広がりが生まれるんじゃないかと勝手に思い込んでやっています。

アジカンとのコラボステージを9月30日(土)に披露

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J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI」。2018年9月29日(土)・30日(日)に六本木ヒルズをジャックして開催。日本を代表する各分野のイノベーターの方々によるトークセッション、豪華アーティスト達によるライブパフォーマンスなど、さまざまな最先端コンテンツを楽しめる。
Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via J-WAVE

──ASIAN KUNG-FU GENERATIONとAR三兄弟のコラボステージは、9月末のイノフェスで披露されますね。

僕らがアジカンのステージをまるごと拡張します。あんまりクラブとかいかないですけど、そして全部が全部じゃないとは思いますけど、音楽とあんまり関係ないようなピカピカした映像素材をVJはプレイしがちだなと思っておりまして、それを有機的に解消できるような仕組みを鋭意開発中です。

アジカンはロックバンドなので、生の音に映像を同期させようとするだけでも独自の仕組みが必要で、フレームレートもその場でレンダリングできるような仕組みを作ったりしています。映像も彼らと一緒に生演奏するということです。アーティストとの関わり方が変わりますね。

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Photo: 小原啓樹

──小山宙哉さん、佐渡島庸平さん、カサリンチュが登場する、漫画「宇宙兄弟」のスペシャルステージでも演出を担当されますね。

「宇宙兄弟」のすべての原稿を人工知能で分析して、コマごとにメタ情報を与えて、検索できるようにしました。カサリンチュがつくった新曲を、僕らは耳で聴きながら、検索するとワンシーンがパッと出てくることをやろうかなと思っています。

イノフェスは、今のところ現在系で進んでいるイノベーションが、この場にいけば確認できるという場所になると思います。

何でも教科書にしていい。専門の枠を越えることは人工知能ができないこと。

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Photo: 小原啓樹

──川田さんはロールモデルとしてはどのような方をイメージしていますか?

テクノロジーの世界では皆無ですけれど、僕は好きだった人を──例えばウディ・アレンが喜劇も悲劇も描けるとか──好きだった人の影響を受けています。自分の好きな人はだいたい「ウケる」んですよ。偶然その人が技術者じゃないだけで、何かを収集して、自分の思いをユーモラスに語るという人は、どんな職業であれ、お手本にしています。

何でも教科書にしてもいいと思います。経済を経済の本として読むのはもったいない気がするんですよね。なんでもない絵本を経済の本として読んでもいいと思うし、僕は漫画をプログラミングの本として読んでいるし、そういうライフハックは向こう10年生きると思いますね。

そういった専門の枠を越えることは、人工知能ができないことですし、それが合っていようが間違っていようが、曲解していかないと発見はできないんじゃないかと思います。

──今後の10年、川田さんが実現していきたいことはありますか?

オリンピックが終わって万博(編注:現在、大阪が立候補中の2025年万博)が近づきますよね。仮に大阪でできなかったとしても、万博めいたことをやりたいですね。万博ってすごく良くて、企業がお客さんを楽しませるという方向で技術を提供して、パビリオン化することができるんです。いわば技術のライブパフォーマンス。

特に日本は各企業がバラバラで動いているので、共通の目的で集まって技術をオープン化しちゃってつながるようなことができないと終わりだろうなと思っています。

また、いくつかの企業の技術顧問をしている関係で客観的に日本企業を見ているのですが、「特許はとったけれど埋もれゆく技術」というものが沢山あると感じています。そういった技術ももっとオープン化して活性化できないかと思っています。

オープンイノベーションも抜けのいい言葉ですけど、実態はまだそれほど自由ではない。技術で技術を考えようみたいなところがある。「バンド組もうよ」という感じで「パビリオンを作ろうよ」「遊園地作ろうよ」と軽やかに明るくやっていくのがいいと思います。子供の頃に見たつくば万博、最高でしたから。


Photo: 小原啓樹

Video: ar3bros(Vimeo)

Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via J-WAVE

Source: J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI